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2019年5月

2019年5月 1日 (水)

「第六百七十二話」

「洗濯物面倒臭いわぁ。」
「奥さん!そんな時は、これ!」
「誰!?」
「このメチャスゴ洗剤!」
「誰!?」
「このメチャスゴ洗剤は、床に置いた洗濯物に粉末をこうしてかけるだけ!それだけでいいの!奥さん!」
「誰!?」
「通販の人だよ!」
「通販の人は、こんな何の前触れもなく他人の家に現れないでしょ!強盗の人でしょ!」
「このメチャスゴ洗剤のメチャスゴなとこは、なんと!」
「無視?」
「このまま!」
「このまま?」
「そう!このまま!」
「このままって、床に洗濯物を置いて洗剤ぶちまけたままって事?」
「そう!!!なんと!!!」
「声がデカい!普通の一軒家で出したらヤバいレベル!」
「このメチャスゴ洗剤は、洗濯機いらずなの!!!」
「はあ?洗濯機いらず?」
「驚きました?」
「驚いたわよ!洗濯機いらずにもだけど、何よりもティーシャツ1枚に対してこの量の洗剤をぶちまけた事によ!必要なの?この量!」
「この量が大事なの!奥さん!この洗濯機いらずのメチャスゴ洗剤!今買うならもう1個ついてくる!」
「2個貰ったって、洗濯物が2枚片付くだけじゃん!経済的にメチャスゴよ!メチャスゴ!」
「じゃあ!今ならもう1個付けちゃう!」
「いやだから!洗剤1に対して洗濯物1なら、1回の洗濯で一体いくらお金が出て行くのよって話でしょ!それとも何?大袈裟に宣伝しただけで、実はちょっとの洗剤でたくさんの洗濯が出来ちゃうの?」
「これだけ!見てこれ!奥さん!」
「いやだから見てるよ。1枚のティーシャツに対しての1個の洗剤をぶちまけた有り様を!」
「このまま!このままでいいの!奥さん!」
「いや、システム的にはメチャスゴよ!洗濯物に洗剤をかけただけで洗濯物が綺麗になるのは!でも経済的にもメチャスゴだっつってんの!」
「今なら電子辞書も付けちゃう!」
「何で?何で電子辞書?」
「良いヤツだから!」
「良いヤツかもしんないけど、洗濯と関係ないじゃん!」
「じゃあ!奥さん!今回は特別だよ!奥さんの家の1年間分の洗濯の量のメチャスゴ洗剤を保証しちゃう!」
「家がメチャスゴ洗剤に占領されるわ!てか、この地域がメチャスゴ洗剤で占領されるわ!もう、普通に洗濯するから帰って下さい!」
「なら!奥さんには、別の商品をご紹介しちゃう!」
「しないでいいしないでいい!帰って!」
「メチャスゴハンガー!」
「帰ってって!」
「このハンガー!何がメチャスゴかって、このまま!」
「このまま?」
「そう!このまま!」
「このままって、さっきのメチャスゴ洗剤まみれのティーシャツの上に置いただけじゃない。」
「これで終わり!後は、このメチャスゴハンガーが勝手にベランダに行って洗濯物を干してくれる!」
「勝手に!?」
「そう!!!しかも!!!」
「だから!声がデカいんだってば!近所に通報されちゃうレベルよ!いやむしろ、通報された方がいいのかしら?」
「このメチャスゴハンガーのメチャスゴなとこは!このメチャスゴ洗剤でメチャスゴ状態の床を綺麗にしてくれる!しかも!!!」
「1対1の声量じゃないでしょって!」
「吸引力は永久に衰える事はなく!内部でメチャスゴ洗剤を分解してくれるので面倒なゴミ捨ても不要!今ならもう1個付けちゃう!」
「メチャスゴだけど!メチャスゴだけども!メチャスゴ洗剤有りきっぽくて、やっぱり経済的にメチャスゴよ!いらないいらない!」
「今なら電子辞書も付けちゃう!」
「いやだから、何で電子辞書?」
「良いヤツだから!」
「良いヤツだったら何でもかんでも付けちゃえば喜ぶと思うな!」
「色はレッドとブラックとゴールド!」
「選ばないっての!」
「全部付けちゃう!」
「いらないいらない!3つもいらないわよ!」
「この電子辞書!何がメチャスゴかって!」
「この電子辞書もメチャスゴなの?」
「そう!!!ここ!!!」
「殺す気なの?人を急な大声で驚かせて心臓止めて殺す気なの?」
「世界初のシステムが搭載されてるの!」
「世界初?」
「何と!超能力に対応!」
「はあ?」
「従来の電子辞書は、超能力に対応してないから!超能力者には不便だった!でも!このメチャスゴ電子辞書ならそんな超能力者の悩みも解決!」
「いや、超能力者は従来のヤツも超能力で使いこなせるから、超能力者なんでしょ?そこを乗り越えて来るから超能力者って言われるんでしょ?」
「今!このメチャスゴ洗濯セットを買うとこのメチャスゴ電子辞書を付けちゃう!」
「いらないいらない!超能力者じゃないから、その機能一生使わないから、いらないわよ!てか、帰ってって!」
「じゃあ!この超能力者対応のメチャスゴ包丁も付けちゃう!」
「だから!超能力者じゃないんだから、いらない機能の包丁なんかいらないわよ!」
「じゃあ!この超能力者付けちゃう!」
「誰!?」

第六百七十二話
「サイコメトラー登場」

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2019年5月 8日 (水)

「第六百七十三話」

 丁字路に気品ある大学生の小さな女が立ち止まっていた。それを不思議そうに眺めていた初老の男が堪らず声を掛けた。
「お嬢さん?さっきから、結構な時間そこに立っているが、何かお困りかな?」
「刺さるような視線を浴びせていた素敵なおじ様に声を掛けていただく為ですよ?」
「え?」
「あはは!」
「ん?」
女は男の顔を見上げて悪戯に笑った。
「嘘です。ごめんなさい。」
そう言うと女は丁寧に頭を下げ、今度は男の顔を見上げて優しく微笑んだ。
「どう言う事だ?」
男は首を傾げた。
「こう言う事ですわ。素敵なおじ様!私は、ここを右に進んで伯母様の家に行きますの。」
「なら、何でお嬢さんは、立ち止まっていたんだ?」
「それは、一つの疑問が私の頭の中を駆け巡ったからですわ!」
女は無邪気に笑って男の顔を見上げた。
「疑問?」
「そう!疑問!」
「それは一体どう言った疑問なんだ?差し支えなければ、おじさんに教えて貰えないだろうか?」
「いいですわ!」
「ありがとう。」
「頭の中を駆け巡った疑問と言うのは、もし!もしも私がここを左に行った場合を考えていたからですの!」
「左に行った場合?」
「ええ!」
「ん?どう言う事だ?」
「ですから!本来は右に進んで伯母様の家に行かなければならないとこを左に行った場合ですわ!」
「それじゃあ、伯母さんの家に辿り着けないじゃないか。」
「そうです!」
「ん?」
男は、首を傾げて見せた。
「素敵なおじ様?私は、ここを右に曲がって伯母様の家に行くのが当たり前でしたの。」
「そうだろうな。」
「それはもう!幼い頃から、ずっと!」
「そうだろうな。」
「ずっとずっと!ずーっとですわ!」
「つまりこうか?お嬢さんは、左に行った事が一度もない。」
「そうです!やっぱり素敵なおじ様だわ!」
女は、無邪気に笑いながら何度も頷き、男の顔を見上げた。
「だから、今まで一度も行った事のない左の道を行った場合を想像していたと言う事か。」
「そうですわ!」
「差し支えなければ、どんな想像をしていたか教えて貰えないだろうか?」
「気になります?」
女は、男の顔を見上げて悪戯に笑った。
「ああ、気になる!」
男は、深く頷いて見せた。
「いいですわ!」
「ありがとう。」
「私が、今まで一度も行った事のない左の道を行った場合、死ぬかもしれない!」
「死ぬ!?」
「ええ、そうですわ!死ぬかもしれない!」
「死にはしないんじゃないか?」
「素敵なおじ様?それは違います!左の道には、あらゆる可能性が存在しています!死もその一つですわ!」
「まあ、確かにそうかもしれないが、だったらその可能性は、右の道にも存在してるんじゃないか?」
「そう!まさにそうですわ!素敵なおじ様!」
女は、無邪気に笑って男を見上げた。
「ん?」
「つまり!私が導き出した答えは、右の道を行った場合も左の道を行った場合も可能性の存在は同じ!違うとすれば、ただの一つ!伯母様の家が存在してるかしていないかだけですわ!」
「なるほどな。」
「ですから、私はもう一つの場合を考えていました!」
「もう一つの?」
「ええ!そうしたら、こんなに素敵なおじ様に出逢えましたわ!」
「え?」
「失礼!」
女は、無邪気に笑いながら何度も頷き、男の顔を見上げた。そして、威風堂々と丁字路を右に曲がって歩いて行った。
「ん?」
男は、首を傾げた。そして、不思議そうな顔をして、丁字路を左に曲がって歩いて行った。

第六百七十三話
「右にも左にも行かなかった場合」

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2019年5月15日 (水)

「第六百七十四話」

「何か、臭くない?」
「こう言う状況なんだ。仕方ないだろ?」

第六百七十四話
「オレもゾンビだし、オマエもゾンビだし」

「いや、ボクが言いたいのは、そう言った腐敗の臭の事じゃなくて、ウンコの臭の話だよ。」
「こう言う状況なんだ。仕方ないだろ?」
「何が仕方ないんだ!何がこう言う状況なんだ!どう言う状況だ!部屋でウンコを垂れ流す状況って!」
「別にいいだろ?ゾンビだし!」
「ゾンビだからって、やっていい事と悪い事があるだろ!」
「オマエさぁ?ムチャクチャウンコだらけの部屋でウンコしたら怒るか?」
「ここは!ムチャクチャウンコだらけの部屋なんかではない!」
「いやでも、オレもゾンビだし、オマエもゾンビだし、そもそもムチャクチャ臭い部屋だし。」
「ボクが言いたいのは!そう言う事じゃない!ボクら、見た目はゾンビだけど、頭の中までゾンビじゃないだろ?」
「頭の中?」
「そう!価値観や倫理観や道徳観は人間のままだ!」
「そうそうそう!それな!それって不思議だよな!ゾンビになったら、ただただ生きた血肉を貪りたいって衝動に駆られるのかと思ったら、違うのな!心配して損したよ!」
「この状況も十分に心配だけど?何ですんなり受け入れてる?」
「だって、考えようによっては、不死身の体を手に入れたんだぜ?こう言う人間になったってだけの事だろ?」
「ボクは、そんな風には考えられない。そして、仮にそんな風に自分を受け入れたとしても!部屋でウンコを垂れ流さない!」
「分かったよ。もう、部屋でウンコを垂れ流しません!」
「しなくていい宣言だけどね!」
「え?」
「どうしての?」
「ほら!」
「ほらー!勢いよく手を挙げて宣言なんてするから右腕がとれたー!だから言ってんじゃん!ボクらはゾンビなんだよ!不死身の体を手に入れた人間じゃなくて!単なるゾンビ!」
「でも痛くない!」
「ゾンビだからね!きっと、こんな感じで朽ち果てて行くんだよ!」
「いや、そうとは限らないかもしれないぞ?」
「また何か変な事を言うつもりだろ?」
「もしかしたら、新しく腕が生えて来るかもしれないぞ!」
「有り得ないでしょ!ゾンビなんだから!屍的な存在なんだから!」
「なら、とれた右腕をこうして、こうしてこうしてこうしたら、くっつく!」
「いや、ボトッて落ちてんじゃん!だから!屍的な存在に新たに生を宿す力はない!」
「まあ、右腕がなくてもまだ左腕があるから、いっか!」
「いっかじゃない!いいかい?このままの状態をキープして生きて行くなら、物凄く慎重に生活して行かなきゃならないんだよ?」
「それはつまり!おもいっきり走ったり!おもいっきり投げたり!おもいっきり滑り込んだり!もう二度とホームランが打てないって事か!」
「何で野球に全てを捧げて生きてる設定?」
「いやでも、まさかこんな風になるとはなぁ?」
「何、急にしみじみと窓の外を見て。」
「いやだってさ。オレ達は、ほら!そうだった訳だろ?」
「まあ、確かにゾンビ退治をしてたけど、それこそ仕方ない事なんじゃないか?」
「オマエがゾンビに噛まれて、オレを噛むからこうなったんだっけ?」
「何でだ!大量のゾンビに囲まれて、同時に噛まれて、必死でこの家まで逃げて来たんじゃん!」
「そうだっけ?」
「どんな現実のねじ曲げだよ!」
「寂しいのかもな。」
「寂しい?寂しいからって現実をねじ曲げていい訳ないよね?」
「いやいや、そうじゃなくてさ。ゾンビだよ。」
「はあ?ゾンビが寂しいって何で?」
「ゾンビってのは、寂しがり屋さんだからこうして仲間を増やそうとしてるのかもな。」
「斬新な発想だな!でも、そうだとしたら、それはあまりにも迷惑な話だ!」
「でも、人類全てがゾンビになったら、それはそれで、迷惑な話じゃないだろ?」
「有り得ないね!ゾンビになりたくないから、ボクらみたいなのがいる。ボクらがそれを証明してるだろ?人間は、ゾンビを駆逐しようとしてる!」
「だったら、どうだ?」
「また何か変な事を言うんだろ?」
「ゾンビは、思ってるより悪い奴じゃないぞ!って事を人間に説明すればいんでないか?」
「はあ?どうやって?」
「オレは、次の大統領選挙に立候補しようと思う!」
「即射殺だよ!」
「先ずは、人間がたくさん集まる場所で演説してみようと思う!」
「即射殺だって!」
「でもオマエ、このままじゃ本当のゾンビが理解されないまま、ただただ駆逐されて行くだけだぞ!」
「何て演説するんだよ。」
「え?」
「だから、大衆に何を訴えるんだ?」
「みんなでゾンビになろう!」
「即射殺だよ!」
「オレはそうは思わないな。話し合えば人間とも共存が可能なんじゃないか?」
「もう、普通に人間とか言っちゃってるもんね。無理無理!誰が好き好んで、こんな朽ち果てて行くだけの屍的な存在になりたいんだよ!」
「でも不死身だぞ!」
「不死身であって!不死ではない!」
「オマエ!」
「何!」
「何、カッコイイ台詞言ってんだよ!」
「どこに食い付いてんだよ!」
「とにかく!オレは今すぐ人間に食い付きたい!」
「いやまあ、それはボクもそうだけどさ。」
「「え!?」」

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2019年5月22日 (水)

「第六百七十五話」

 これは何だ?この感覚は、一体何だと言うんだ?私だけか?私だけが味わう感覚なのか?いや違う!そうじゃない!結構、聞くぞ?あの言葉を!そう!
「やっぱり家が一番いい!」
一度、家を出て、また、家に帰って来る事で味わう感覚。
「リセット感!」
私は密かにこの感覚に名前を付けていた。安堵感や安心感とも違う感覚!それがリセット感!
「・・・・・・。」
しかしこのリセット感は、必ずしも安堵感や安心感のような善ではない!むしろ悪の性質を持っている!それはなぜか?それは、私があえてリセット感などと名付けたところに答えがある!安堵感や安心感の先に存在するリセット感!性質的にはむしろ夢に似たような感覚だ。夢から覚めた時のようなあの感覚だ。外出先で恐怖体験などを経て家に帰って来れば安堵感や安心感などを実感する。また、旅行などの楽しい体験などを経て家に帰って来れば幸福感や脱力感などを実感する。そう、そこにあるのは単なる現実感。その現実感に誘うリセット感が存在する。恐怖体験から逃げようが、楽しい体験へ逃げようが、家に帰って来れば必ず待ち受ける逃走不可能な現実。いつも通りの現実。だから私は大声で叫ぶ!
「家を破壊せよ!」
と。だから私は大声で叫ぶ!
「家を破壊せよ!家を破壊せよ!」
と。何度も何度も!何度も!それが人を!このリセット感の呪縛から解放出来る唯一の方法だからだ!
「家を破壊せよ!」
そう!結局、人は宇宙を旅したところで、家に帰って来ると言う愚かな行為を繰り返すからだ!だから私は、大声で叫び続けなければならない!
「家を破壊せよ!家を破壊せよ!家を破壊せよ!」
この真っ白な壁も!床も!天井も!扉も!
「いイイ家ををヲヲはかハか破壊いいいイいせせせよ!!」
私を囲む全てを!破壊せよ!
「先生?」
「ああ、すぐに手術の準備をしよう。」
「やはり原因は帰巣本能の肥大化ですか?」
「典型的な発作だ。」
「しかし手術となると、いいんですか?患者さんに伝えなくても?」
「やむを得ないだろ。このまま放置していては、何をするか分からない。」
「しかし!」
「手術の準備だ!」
「待ってるのは、借金地獄ですよ?」
「それがどうしようもない現実ってヤツだ。ん?待てよ?そうでもないかもしれない。」
「え?」
「彼の資産状況を見ると、家を売ればなんとか治療費は支払える。」
「家を、売る。なんとも皮肉な話ですね。」
「そうだな。さあ、手術の準備に取り掛かるぞ!」
「は、はい!」

第六百七十五話
「帰巣本能部分切除手術保険適用外」

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2019年5月29日 (水)

「第六百七十六話」

「クンクン!」
「どう?」
「クンクン!」
「どうよ?」
「クンクン!」
「どうなのよ!」
「クンクン!」
「・・・・・・。」
「クンクン!うーん?ここでもないようです。」
「はあ!?ここでもないようですって、ここが最後じゃん!もうこの家にないよ?部屋!」
「奥さん。こんな事は、非常に申し上げにくいんですけどね?」
「何?」
「この家から悪臭はしません。」
「いや、いやいやいや、アナタ自分が何を言ってるか分かってるの?そう言う業者でしょ?」
「そう言う業者です。」
「悪臭のする場所を特定して、その悪臭を絶つ!そう言う業者でしょ!」
「そう言う業者です。」
「じゃあ!絶ちなさいよ!その悪臭を!」
「でも、そう言う業者ですけど、家の隅々まで調査した結果、絶つ悪臭が存在しないなら、それは不可能ってもんですよ。奥さん。」
「いや、いやいやいや、業者さん?」
「何ですか?」
「アナタは、絶つ悪臭がないって言ってますけどね!私には、プンプン悪臭が漂ってますけど!」
「それは、どの辺りからですか?」
「どの辺りって、もうこの家のどこからもよ!どこにいてもよ!この家全体から悪臭が漂ってるって感じよ!」
「なるほど。奥さん?僕はさっき、家の隅々まで調査したと言いました。でもまだ、可能性がある場所を調査してません。」
「何で?何でそんな最重要な場所を調査してないのよ!」
「それは、今の奥さんの話を聞くまで、可能性としてゼロに近かったからです。でも今、奥さんの話を聞いて確信しました。おそらくは、悪臭の原因は十中八九そこです。」
「どこ!」
「奥さんの鼻の穴の中です!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・奥さん?」
「・・・いや、呆れてものも言えないって状況に、人は本当に陥る事があるのね。昔の人は、よく言ったものね。」
「では、失礼します。」
「いや、ちょちょちょちょちょ!え?何?何事?」
「ですから、奥さんの鼻の穴の中を調査します。」
「え?バカなの?」
「業者です。」
「いやだから、むしろそう言う業者だからこその、バカなの?って言ってんの!」
「はい?」
「な訳ないじゃん!」
「な訳ないじゃん、とは?」
「私の鼻の穴の中が臭い訳ないじゃんって事よ!」
「ですが、これだけ家の隅々まで調査しても悪臭の原因元が特定出来ない、しかし奥さんは悪臭を感じている。となれば、導き出される答えはただの一つ!それは、奥さんの鼻の穴の中が臭いからです!」
「失礼ね!大きな声だし指差すしで、とんでもなく失礼ね!」
「では、調査を開始します。」
「嗅がせねぇぞ!え?何で?何で鼻の穴の中?もっともっともーっと別の可能性を模索したって、最終的に鼻の穴の中なんて、絶対に辿り着かないでしょ!」
「奥さん?僕も奥さんの鼻の穴の中を嗅いでみて、それで異常がなければ、前言撤回して謝ります!」
「人を排水管扱いすんなって!異常がなくて、その後に謝られたって、その屈辱を晴らす事なんて出来ないわよ!」
「・・・・・・。」
「悪臭の原因元を見るような目で私の鼻の穴を見るな!てか、どうなの?」
「どうなの、とは?」
「アナタは、何か明らかに私の鼻の穴の中に原因があるって決め打ちしてるけど、どうなの?」
「どうなの、とは?」
「いやだから!私にじゃなくて、アナタの方にこそ原因があるんじゃないの?」
「僕に原因ですか?でも、僕が悪臭の原因元だとしたら、おかしいですよね?この家では、僕が来る前から悪臭がしてたんですよね?」
「そこじゃないわよ。」
「そこじゃない、とは?」
「アナタのその鼻の穴、本物?」
「はい?」
「実は鼻の穴なんかなくて、黒いマジックで書いてるんじゃないの?トリックアート的な?」
「何を言い出すんです?」
「だって!おかしいじゃん!家中こんな悪臭が漂ってるって言うのに、その悪臭を感知出来てないって事はよ?それはアナタの鼻の穴が偽物だからよ!」
「大きな声で人の鼻の穴を指差して何を訳の分からない事を言ってるんです!そんな訳ないじゃないですか!僕は、そう言う業者ですよ?そう言う業者の人ですよ?いや、何しようとしてるんですか!」
「その鼻の穴が偽物じゃないって言うなら、触らせなさいよ!」
「イヤですよ!」
「ほら!」
「ほら?ほら、とは?」
「やっぱり偽物だから触られたくないんじゃない!」
「違いますよ!これは本物の鼻の穴です!奥さんに触らせないのは、そんなバカげた検証に付き合いたくないからですよ!だって、そんな事有り得ないじゃないですか!鼻の穴を黒いマジックで書いてるなんて!」
「分かる分かる。もしもよ?もしも私が同じ状況だったとしたらよ?同じ事をやってる!」
「いやだから、触らせないですよ!」
「何でよ!」
「本物のだからだ!大体、奥さんは僕の鼻の穴を疑う前に、ご自分の鼻の穴を疑った方がいいじゃないですか!」
「いや、いやいやいや、この期に及んでまだ私の鼻の穴の中を嗅ごうとしてる訳?」
「仕事なので!」
「その偽物の鼻の穴で嗅いだって仕方ないじゃん!」
「偽物じゃない!いや触ろうとしないで下さい!」
「私の鼻の穴の中を嗅ぐ前にアンタの鼻の穴を触らせなさいよ!」
「僕の鼻の穴を触る前に奥さんの鼻の穴の中を嗅がせて下さい!」
「いや、いやいやいや、私の鼻の穴の中を嗅ぐ前にアンタの鼻の穴を触らせなさいよ!」
「いや、いやいやいや、僕の鼻の穴を触る前に奥さんの鼻の穴の中を嗅がせて下さい!鼻の穴の中でウンコ飼育してる可能性もありますし!」
「ウンコ牧場か!私の鼻は!いいから触らせなさいよ!」
「嗅ぐのが先です!」

第六百七十六話
「原因は、この絶妙なギリッギリのバランスの奇跡的なニオイ加減」

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