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2019年6月

2019年6月 5日 (水)

「第六百七十七話」

「平和だ。」
「平和だって、ただ単に野原で寝っ転がって日向ぼっこしてるだけじゃないですか。」
「空を見てみろ。」
「日向ぼっこ日和のいい天気にいい気候ですよ。」
「上空を爆撃機が通過したか?してないだろ?平和だろ。」
「それだけで!?それだけで、平和?」
「それだけで平和、それだから平和。」
「それが平和の定義だとしたら、結構な割合で平和です。」
「いいじゃないか!」
「空に向かって大人拍手してる場合ですか?」
「平和に拍手して何か問題でもあるのか?」
「いやだから、この状況が平和だって感覚がどうも共感出来ない訳ですよ。だって、僕らがこうして野原に寝っ転がって日向ぼっこしてる今まさに、眼下に見えるマンションの一室で殺人が行われてるかもしれないんですよ?」
「お前なぁ?かもしれない殺人は、あくまでかもしれない殺人だ。かもしれないし、かもしれなくもないかもしれない。」
「いやちょっと頭がパニックです。」
「それに、俺は爆撃機が飛んでるかの話をしてるんだ。殺人の話をしてる訳じゃない。凄く、メチャンコに俺の視力がよくて、マンションの一室で殺人が行われてるのが見えてたとしてもだ。爆撃機が飛んでないってのは、平和だ。」
「じゃあ!爆撃機が飛んでなかったら、目の前で殺人が行われてても平和だって言うんですか!」
「お前なぁ?俺らは、人だぞ?人間なんだぞ?人間は人間を殺す。それはもう、人間がこの地球上に爆誕した時からのルールだ。遺伝子に刻み込まれたアレだ。」
「アレって!アレって何ですか?」
「アレは、アレだ!アレ以上でもアレ以下でもない!アレだ!」
「アレの中身を知りたかったんですけどね。でも、爆撃機だって、操縦してるのは、とどのつまり人間じゃないですか。殺人ですよね?同じじゃないですか!」
「違う!爆撃機は爆撃機!人間は人間だ!」
「いや、凶器に包丁を使うのと凶器に爆撃機を使うのと同じ事じゃないですか!人間が人間を殺すって事に関しては!」
「なら、包丁が空を飛んでないんだから、やっぱり平和じゃないか!」
「空を基準に平和を語らないで下さいよ!」
「じゃあ!何を基準に平和を語ればいいんだ!」
「だったら!爆撃機が空を飛んでても爆撃しなければ平和じゃないですか!そう言う事でしょ!」
「どう言う事?」
「だから、ただ単に爆撃機が空を飛んでたとしても何もされなければ、誰も死なないんだから、平和じゃないですかって話ですよ!」
「それは違うだろ!」
「何が違うのか僕には、さっぱりですよ!」
「恐いじゃん!」
「恐い?」
「ただ単に爆撃機が空を飛んでる姿を見るだけでも恐いじゃん!」
「包丁持った人間が、ただ単に目の前にいたとしても恐いですよ!」
「おかしいおかしい!話の論点がだいぶズレてるぞ?」
「はい?」
「だって、俺は人間が人間を殺すは当たり前の衝動だって考えなんだぞ?」
「だから、爆撃機もその衝動の一端じゃないですかって事でしょ!それとも先輩は、戦争的な事で平和を語ってるんですか?」
「いや、笑顔の隣人的な話だ。」
「どこぞの隣人が隣人を殺す凶器として爆撃機を選択するんですか!」
「あのなぁ?包丁だったら、万が一にも生きちゃうかもしれないけど、爆撃機だったら絶対なんだぞ?だったら、その絶対を選択して殺人を実行するだろ!」
「いやもう、その隣人のスキルが限定的過ぎる!」
「ピッ、ピッピッ、ピッピッピッ、ピーーーーーッ!ドガーーーーンッ!!!だぞ?」
「爆撃機やらないでいいですよ!」
「まあアレだ。」
「またアレ?」
「とにかくこうして野原に寝っ転がって日向ぼっこ出来るってのは、平和だって事だ。」
「そこに辿り着くまでに、物凄い遠回りでしたよ。」
「毒撃機が飛んでないだろ?」
「毒撃機って、何ですか!?」
「毒撃機ってのは、毒雨を降らせる毒のヤツだよ!恐いですよ。」
「恐いは恐いですよ。毒撃機ってのは初めて耳にしましたけど、それってさっきの爆撃機ありきの話だし、さっきの爆撃機と同じ結論に辿り着く話ですよね?」
「いや、やってみなきゃ分からないぞ?よし!やってみよう!」
「はあ?やりませんよ!やる訳がないじゃないですか!」
「それだけで平和、それだから平和。」
「何でやるんですか!いや、大人拍手しないで下さいよ!」
「お前なぁ?かもしれない殺人は、あくまでかもしれない殺人だ。かもしれないし、かもしれなくないかもしれない。」
「僕の意見を無視して会話がさっきと同じように進んで行くとかって、本当に頭がパニックですよ!」
「次何だっけ?」
次何だっけじゃないですよ!もうそろそろ会社に戻って結果を報告しないとですよ。」
「お前が取引先の社長を怒らせて交渉決裂したヤツをか?」
「先輩がね!」
「どう思う?」
「どう思うって?」
「課長、怒るかな?」
「ムチャクチャ怒りますよ。それでも課長は、先輩を爆撃機で殺そうとはしないでしょうから、平和ですよ。」
「もうちょっと、こうしてていいか?」
「分かりました。」
「嫌だなぁ。」
「僕も一緒に怒られますから、先輩だけの責任じゃないですし。」
「誰か爆撃機で課長を殺してくれないかなぁ?」
「何て事言うんですか!?」

第六百七十七話
「平和でも怒られる、平和だから怒られる」

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2019年6月12日 (水)

「第六百七十八話」

「医者に、野菜が足りてないって言われたよ。野菜を食べなさい、だとよ。」
「なら、野菜を食べましょ!取りましょ!野菜を!ガンガン摂取しましょ!」
「いや、母さん。何でそんなにノリノリなんだよ。」
「だって、お父さん?私は、お父さんに野菜を食べてもらうのが夢なんですもん!それが叶うんですもん!」
「ちっちゃな夢だな!」
「夢に、ちっちゃいもおっきいも関係ない関係ない!ほら、お父さん!とりあえずニンジン食べましょ!ニンジン!」
「おい!」
「ほら!ほらほら!」
「おい!母さん!ニンジンを丸ごと食べさせようとするな!ほっぺたに穴があく!」
「だって、お父さんには今!野菜が不足してるんでしょ!それを医学的に解明されたんでしょ!ほっぺたに穴があくぐらい何ですか!」
「俺に野菜が不足してるのは、不足してるなりの理由があるからだ!ほっぺたに穴があくは一大事だろ!」
「何ですか?理由って?」
「それは野菜嫌いだ!野菜嫌いなんだぞ!俺は、物凄い野菜嫌いなんだぞ!」
「そんな事は知ってますよ!だから、私の夢はお父さんに野菜を食べてもらう事ですもん!」
「もん!って、やめないか?」
「さ、ささ、ニンジンを食べましょう!」
「野菜嫌いが!いきなりそんなハードルの高い真似が出来るか!」
「じゃあ!ピーマン食べましょ!ピーマン!」
「ニンジンだからって問題じゃないだろ!野菜嫌いは、野菜が嫌いなんだ!全部だ!全部!」
「ダイコンなら!」
「いや、母さん!母さんって!丸ごと食べさせるにしてもサイズ感がおかしいだろ!」
「だって、夢なんですもん!」
「夢力が強過ぎて現実が見えてなさ過ぎる!」
「じゃあ!何の野菜だったら丸ごといけます?キャベツ?タマネギ?ゴボウ?キュウリ?ナス?」
「丸ごとになっちゃってるから!母さん!丸ごといけるかいけないかの問題じゃないんだ!それよりも何よりも母さん?何でウチには、こんなに野菜があるんだよ!一人が大の野菜嫌いの家庭で、この量の野菜はおかしいだろ!」
「だって、何てったって私の夢は、お父さんに野菜を食べてもらう事ですもん!」
「変な形で夢に金使うのやめてくれないか?で、トマトをほっぺたにグリグリすんのもやめてくれないか?潰れかけてるから潰れかけてるから!」
「だって!だってだって、だって!このままじゃ、お父さんが死んじゃう!」
「死なない!」
「野菜不足で死んじゃう!」
「逆に、いきなり丸ごと野菜を食べさせられたら、胃がビックリして死んじゃうよ!」
「死んだら野菜畑に埋めて上げますからね!」
「満面の笑みで恐ろしい事を言うな!死んでも悪夢か!」
「ほら!やっぱり死ぬ!」
「そりゃあ、人間いつかは死ぬだろ!それよりもカボチャをほっぺたにグリグリすんのやめてくれないか?」
「明日は、お友達と買い物に行って、お食事をして、劇を観に行きますから、死ぬなら今日か明後日にして下さいね!」
「もっと長生きさせてくれ!」
「だったら食べましょ!野菜を摂取しましょ!」
「だから、ゴボウと長ネギでほっぺたをグリグリすんのやめてくれないか?するよ!しようとしてるよ!野菜を摂取しようとしてるけど、いきなり丸ごとは違うだろって話だよ!母さん!なあ、母さん!分かるか?」
「手っ取り早い方法ですもん!」
「俺は、野菜不足解消に手っ取り早さを求めてない!徐々に摂取したいんだよ!だから、丸ごとじゃない別の方法を考えてくれ!」
「丸ごとじゃない別の方法?」
「そう!」
「丸ごとじゃない?」
「そうだ!」
「分かりました!半分に切ってきますね!」
「違う!それは絶対に違う!丸ごとが半分になっただけ!母さん!いいか?量の問題じゃないんだ!味の問題だ!」
「味?」
「そう!口に入れた時の野菜の味だ!量じゃない!」
「分かりました!じゃあ、野菜ジュースにしましょう!」
「それも味の問題は解決されてないだろ?固体が液体になっただけだろ?頼むよ母さん!」
「野菜ジュースを注射器に入れて直でやっちゃえば味の問題は解決!」
「だから!満面の笑みで恐ろしい事を言うな!何だ直って!直で何をするつもりだ!何で頭に注射するポーズ?いやだから!母さん!野菜をな?磨り潰してな?何か味の強いモノにな?混ぜてな?摂取させるとかだよ!」
「レンコンの穴ですか?」
「オール野菜だ!大集合だ!ムービーだ!ムービー!そうじゃない!そんな本末転倒の話じゃない!」
「分かりました!」
「いやそれ絶対分かってないだろ!」
「お父さんが寝てる間に、野菜を食べさせればいいんだ!」
「そんなの絶対に目ぇ覚ますだろ!」
「楽しみにしてて下さい!」
「夜が恐くなるだけだ!なあ?母さん?何かないのか?何かもっと正攻法があるはずだろ?」
「ありません!」
「キッパリ!?」
「だって野菜嫌いは、どんなに野菜を磨り潰して何か味の強いモノに混ぜたとしても分かりますもん!吐き出しますもん!文句言いますもん!それが大の野菜嫌いですもん!」
「まさか?」
「思い当たりますよね?そう!検証済みですもん!だからこれしか方法はありませんもん!ジャーン!」
「ジャーン!って!?何だ?シーツ引っ張ってお目見えしたその研究室とかでしか見た事ないヤツは?」
「これは?ウフフ!」
「満面の笑みをやめろ!」

第六百七十八話
「お父さんを野菜に漬け込んじゃおう大作戦!いよいよ開始!」

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2019年6月19日 (水)

「第六百七十九話」

「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・いただきます!」
「おい!マジか!」
「だって、お腹空いちゃった。」
「だって、お腹空いちゃった?だって、お腹空いちゃった?だって、お腹空いちゃっただと!」
「うるせ!何で何度も同じ事を!」
「お前、想像してみろよ!頭を回転させて、よーく想像してみろよ!俺達は、何で今この食卓にいる?」
「森で迷って?」
「森に迷って!」
「魔女みたいな婆さんに出会って?」
「魔女みたいな婆さんに出会って!」
「家に案内されて?」
「家に案内されて!」
「今晩は泊まっていきなさいって言われて?」
「今晩は泊まっていきなさいって言われて!」
「親切にご飯まで用意してくれて?」
「親切にご飯まで用意してくれて!」
「いただきます!」
「何でだよ!いただきますじゃねぇよ!いただきますじゃ!お前、何をいただきますしようとしてるのか分かります?」
「スープ。」
「何だか不気味な紫色のな!魔女がぐつぐつ煮込んだ感たっぷりの何だか不気味な紫色のな!よく、いただきますしようと出来るな!」
「だって、お腹空いちゃって。」
「だって、お腹空いちゃって?だって、お腹空いちゃって?だって、お腹空いちゃって!」
「うるせ!何で何度も同じ事を!お腹空いて頭の中身が腐り始めたんじゃないか?」
「初めて聞いたよ!その症状!お前、この不気味な紫色のスープ、途轍もなく異臭だぞ?」
「なあ?お前は一体、どうなっちゃうって思ってんだ?俺達がこれからどうなっちゃうってさ。」
「これはもう、絶対に殺されるだろ!」
「殺される!?」
「声が大きい!魔女に聞こえたらどうすんだ!」
「いやもう、聞こえてるとしたら、だいぶ前から聞こえてるだろ!あのな?殺される訳がないだろ?」
「何でそんな事が言い切れる!」
「だって、冷静になって考えてもみろよ。大人の男を二人も殺すって、犯罪だぞ?」
「そんな当たり前の観点から安心して不気味な紫色のスープ飲もうと思えない!いいか?魔女ってのは、そんな法律の向こう側にいるんだよ!きっと、森に迷い込んだ若い男を殺して、剥製にして地下室でコレクションして、ニヤニヤしてんだよ!」
「ニヤニヤしてんのか!」
「ニヤニヤしてる!」
「分かったよ。」
「よし、逃げるぞ!」
「じゃあ、こっちを食う!」
「何で虫をカラッと揚げた感じの大皿に手を出そうとする!」
「むしろ、こっちの方が食べてるのを見た事があるからだよ。このスープより、この大皿の方が、この異空間では現実感だろ?」
「いや何かもう、言ってる意味が分かんねぇよ!確かに虫を食うって見た事があるけど、これは見た事ある食ってる虫と違う!魔女感溢れる虫だよ!そんなチョイス感だよ!」
「お前の言ってる事の方が、よっぽど意味が分かんねぇよ!もしかして、俺達がまだ経験した事もないようなデリシャス感かもしれないだろ?大皿もスープもさ?」
「有り得ない有り得ない!それはもう絶対に有り得ないから!」
「だったらだったらだったら!この肉を食う!この肉だったら文句ないだろ?」
「この肉だけだったらな!」
「いただきます!」
「聞け!!いただきますしようとするな!この肉だけだったらなって言ってる!確かに、この肉だけ食卓に置いてあったなら、俺だって手を出してるかもしれないよ!けどな?不気味な紫色のスープ、虫をカラッと揚げた大皿、これらを目にして、この肉が普通の肉な訳ないだろ!」
「肉は肉だ!」
「お前、どこにド根性使おうとしてんだよ!」
「いや、肉は肉だろ?食えなくない肉って逆に何だって話だよ。俺だって、お腹空いてなければ、肉を選ぶけど、この場合、肉なら何でもオッケー腹だろ?」
「オッケー腹って何だ!オッケー腹って!とにかくだ!この食卓に置かれた食事に手を付けたらアウトなんだよ!」
「はあ!?」
「え?俺、そんなに非難されるような眼差しで見られるような事を言ってるか?」
「だって、お前が言ってる事って、あの魔女みたいな婆さんが、本物の魔女だったらで成立する話だろ?これがもし、もしもだぞ?この地方では旅人を最大限にもてなす料理だとしたら、俺達は今、最大限に無礼だぞ?」
「魔女だ!どう考えたって、あの婆さんは魔女だ!」
「人を見た目だけで判断したら、足下すくわれるぞ?」
「じゃあ、あの魔女感たっぷりの婆さんが万が一にも魔女じゃないとしよう!だとしてもこれは異常だよ!異常事態だよ!」
「なら!このフルーツの盛り合わせなら文句ないだろ!」
「それが一番危険だっての!」
「単なるフルーツの盛り合わせだぞ?」
「いやこれはもう、この食卓にフルーツの盛り合わせだけが置いてあってもそれには絶対に手を出しちゃいけないレベルだろ!」
「毒でも入ってるって言いたいのか?」
「言いたいね!凄く言いたいね!」
「じゃあ!どうすんだよ!お腹、ペコペコのペコなんだぞ!目の前には食事だぞ!俺はもう、一日中森を彷徨い歩き続けて疲れて逃げる気力もないんだぞ!これ、どうすんの!なあ、どうすんの!」
「分かった。こうなったら仕方ない。この非常食を食おう!」
「非常食のタイミングおかしいだろ!」

第六百七十九話
「だいぶ賞味期限切れ」

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2019年6月26日 (水)

「第六百八十話」

 閑静な住宅街は本来の夜の静寂とは真逆にあった。警察、救急隊、報道陣、住民、全てのそれは閑静な住宅街で起きた凄惨な殺人事件へと一方方向に集まっていた。そんな中、中年刑事が現場へやって来た。門を通り、数段の階段を小走りに、そして玄関へ。
「これは、またなんて言うか・・・滅多刺しだな。」
「先輩。お疲れ様です。」
「状況は?」
「はい。被害者は帰宅後、この玄関で刺殺されたと考えられます。状況から見て、犯人は駅前、もしかしたらそれより前から尾行していたと考えられます。」
「なるほどな。現場はここで、通り魔的な犯行ではなく、むしろ顔見知りの可能性が高い、か。」
「怨恨による可能性が高いですね。」
「それにしても野次馬の数が凄まじいな。」
「閑静な住宅街と言っても都会のド真ん中ですからね。ましてや情報の拡散力が向上した世界ですから、仕方ないです。」
「面倒臭い世の中だな。そう言えば門の入口のとこに防犯カメラがあったが?」
「それが、あの防犯カメラはフェイクだったんです。」
「そうか。被害者の足取りは?」
「時間的に見て、ここから電車で二つ目の駅にある会社から真っ直ぐ帰宅したと考えられます。」
「そうなると、まずは会社関係者が怪しいな。」
「そうなりますね。」
「いや待てよ?」
「どうしました?」
「もしもだぞ?」
「はい。」
「もしも、被害者がちょっとだけ生きてたら、犯行現場はここじゃないな。」
「はい?」
「通り魔の可能性も出て来る、か。」
「いやでも、有り得ないですよ。現場を見ても分かる通り、明らかにここで刺殺されてます。」
「いやだから、もしもの話だよ。もしも、ちょっとだけ生きてたらの話だよ。いいか?刑事ってのはな?見た現場を見たまま捉えてたら十流だ。十流。」
「二流、三流じゃなくて、十流!?やってていいんですか?警察?」
「あらゆる観点から事件を模索する。無限の可能性を一つ一つ潰して真実に辿り着く!それが一流の刑事だ!」
「無限なのに絞り込めるんですか?ましてや、こんな明らかな現場でもですか?」
「現場に明らかな現場なんて存在しない。あるとするなら、目の前で目撃した現場だけだ。だから、ちょっとだけ生きてたら、本当の犯行現場は坂の上かもしれない。」
「え!?」
「公園かもしれない。」
「ちょっと待って下さいよ。先輩。」
「バス停のとこかもしれない。」
「いや、先輩?」
「駅前かもしれない。」
「先輩?」
「駅のホームかもしれない!」
「ちょっと、先輩!」
「ん?」
「だいぶ生きてますよね!門のところで刺されたなら、何とか理解出来ますけど、ちょっとだけ生きてたらのちょっとだけが、ちょっとだけじゃない!いや、ちょっとだけ生きてたら、って!?そもそも何なんですか!」
「お昼休みかもしれない!」
「まだ続けるんですか!?」
「朝かもしれない!朝かもしれない!」
「何で二回も言うんですか!?」
「そうだよ!朝かもしれない!」
「絶対違うし、ちょっとだけじゃないし!」
「被害者は、朝ここで滅多刺しされた。そして、そのままちょっとだけ生きて、会社に行って、帰宅後に再び同じ場所で力尽きた。」
「オカルト過ぎる!?いや、それ以前にちょっとだけ生きて会社に行くなら病院に行きませんか?」
「お前な?こんな滅多刺しだぞ?病院行ったとこで、何も出来ないだろ。だったら、せっかくちょっとだけ生きたんだから、仕事するだろ。お前だってそうだろ?ちょっとだけ生きられたら、事件を捜査するだろ?」
「いやもう何か展開が神懸かりだしてる!?」
「間違いない。被害者は、ちょっとだけ生きてた。そうなると、死後三日の可能性もある、か。」
「だから!そうなると、もはやちょっとだけじゃない!そんな事が現実で巻き起こってたら、捜査の意味がありませんよ!」
「だから、捜査ってのはよく暗礁に乗り上げて、よく迷宮入りする。」
「いらない格言作らないで下さい!」
「いいか?世の中では、常識では理解不能な出来事が、よく巻き起こるんだよ。」
「だったら、常識でしか動けない警察組織は不必要になっちゃうじゃないですか!そんなよく巻き起こってたら!」
「そうだな。もしかしたら、この殺人事件は、警察の出る幕じゃないのかもしれないな。」
「何が出て来て、どう解決してくれるんですか!」
「とにかくだ。警察の出る幕か、出る幕じゃないかは、被害者がどれだけちょっとだけ生きてたかを調べてからだ。」
「即死でしょ!」
「うーん?何か暗礁に乗り上げて来た感がプンプンするな。」
「先輩、もしかして、つまらない事件だな?とか考えてません?」
「人が一人殺されてるんだぞ!事件につまらないも面白いもない!不謹慎な事を言うな!」
「・・・すいません。」
「よし!霊能力者に連絡だ!」
「事件を引っかき回さないで下さい!やっぱり考えてますよね?つまらない事件だって!」
「でも、霊能力者がちょちょいのちょいで犯人を見付けてくれたら、楽じゃん。」
「刑事のプライドないんですか?」
「お話中、失礼します。」
「ん?どうした?うん、うんうん。分かった。先輩!被害者の会社の同僚が公園のトイレで血塗れの状態で発見され、犯行を自供しました。犯人逮捕です。事件解決です。」
「そうか。ちょっとだけ生きてなかったか。」
「ちっとも生きてませんでした。」
「ちょっとだけ生きてなかったか。」
「先輩、行きましょう。」
「ちょっとだけ生きろよ!」
「ちょっと先輩!何で蹴ろうとするんですか!?」
「この野郎!!」
「始末書どころじゃ済みませんよ!」
「一発だけ蹴らせろ!」
「滅多刺しにされて、事件解決したのに、何で刑事に蹴られないといけないんですか!ちょっとー!誰かー!」
「ペッペッ!」
「唾吐かない!」
「ちょっとだけ生きてみせろよ!」
「はい、無茶言わない!」
「ペッペッ!」
「唾吐かない!」

第六百八十話
「ちょっとだけ生きてたらをちょっとだけ考えて生きてみた」

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