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2019年7月

2019年7月 3日 (水)

「第六百八十一話」

「これが、海。」
ファンタジーな女性が断崖絶壁の上から海を見渡し呟いた。
「そうだ。」
ファンタジーな男性がそれに答えた。
「やっと、辿り着いた。」
「・・・・・。」
「本当に、ありがとう。」
「・・・好きでやった事だ。礼を言われる事じゃない。」
「アナタの仲間にも本当に色々と助けられた。」
「・・・・・・。」
「途方もない旅だった。私一人じゃ絶対に辿り着けなかった。本当にありがとう。」
「アイツらだって、アンタに海が見せたくてやった事だ。後悔はない。だから、泣くな。」
「ありがとう。」
「それで?海を見た感想は?」
「本当に美しい。想像以上。」
「それは良かった。」
「アナタは?」
「オレか?」
「初めて出会った酒場で、言ってたじゃない。本当に海が存在するなら、亡くなった息子さんに見せたいって。」
「まだ、そのコインを持ってたのか。」
「これは、アナタに返すわね。」
「これはあの時、賭けに勝ったアンタのもんだ。」
「いいえ、これはアナタのものです。大事な息子さんの形見でしょ?」
「・・・・・・。」
「ほら!」
「・・・すまない。」
「じゃあ、私行きます!」
「行く?行くってどこへ?」
「海の中へ!」
「なっ!?死ぬつもりか!」
「いいえ、帰るの。」
「帰る?」
「月の光で、月へ。」
「月へ?」
「ありがとう。・・・さようなら。」
「・・・元気でな。」
「うん。」

第六百八十一話
「漫画で言うとこの第九十四巻のラストシーン」

 公園の背中越しに座るベンチの片方の女の手には、原稿。もう一方に座る男の手には、缶コーヒー。
「えー、あのう?先生?色々と聞きたい事があるんですが、まず何でこんなサスペンス映画みたいなシチュエーションで?しかもわざわざ、こう言う感じのベンチがある遠い公園まで呼び出したりして、そして!アタシが最大限に言いたいのは!何なんですか!この作品は!読み手に想像丸投げなこの作品は!」
「俺はな。漫画家じゃねぇ。短編小説家だ。」
「漫画家じゃねぇ、短編小説家だ、帽子の先端をクイッと下げる、じゃねぇわ!何なんですか!何でアタシが先生の趣味に付き合いながら、想像丸投げの原稿を受け取りに来なきゃならないんですか!」
「声が大きい、そして俺の方を見るな。敵に勘付かれるだろ。」
「いや、敵って。」
「いいか?お前は、美人で足が速いだけの女だ。頭が良くて美人で足が速いだけの女には、逆立ちしても敵わない。」
「美人で足が速くて頭が良くて暗殺者な女がスコープから覗いてたら、間違いなく先生の頭を撃ち抜きますよ?何が言いたいんですか?アタシがバカって言いたいんですか?こんな短編小説を書く人に、バカって言われなきゃいけないんですか?アタシは!」
「あのな?全九十四巻だぞ?かなりの超大作だぞ?」
「存在してればね!」
「存在してれば?違うな。それを存在させるのは、読み手だ!」
「それを想像丸投げと言うんだ!先生が、その超大作を書けばいいじゃないですか!で、このラストシーンをそのラストシーンにぶち込めばいいじゃないですか!」
「俺だってそうしたい!」
「なら、そうして下さいよ!」
「だが、俺は絵がメチャクチャ下手クソなんだ。」
「誰が漫画を描けって言ってるんですか!小説ですよ!小説!小説で書けばいいじゃないですか!」
「俺だってそうしたい。」
「なぜそうしない?この場合、本当になぜだ!」
「俺は、短編小説家だ。俺は、長編がメチャクチャ下手クソなんだ。」
「じゃあ!書かなければいい!こんな作品、書かなければいい!もう、メチャクチャ単純な話ですよ!」
「だから、試行錯誤して、風を試行錯誤して、長編風な短編を書いた。」
「いやだから!風なら書かないで下さいって話なんですよ!」
「風を試行錯誤してて思ったんだけどな?」
「何ですか?」
「風って、いいよな。」
「いや、いくないでしょ!楽したいだけでしょ!そもそもこんな作品では、認められないですけどね!作品として!」
「想像丸投げって、いいなって。」
「じゃあもう、書くなって話ですよ!アタシが書きますって話ですよ!読み手からしたら!」
「ああ、それいいな!」
「はあ?」
「みんなが書いて、みんなが俺の名前で本を出す!それいいな!」
「いや、プライドゼロかよ!プライドって言うか、もろもろゼロかよ!短編小説を先生は書きたいんじゃないんですか?」
「いや、俺は家ゴロで金ガポなら、文句ない。」
「クソじゃん!ただただクソじゃん!」
「もちろん、ゴーストライターの諸君には、何かしら御礼はするさ。」
「ゴーストライターの諸君って、悪の親玉ですか?」
「金平糖とかさ。」
「クソじゃん!自分は何もしないで金手に入れて、諸君には金平糖って、クソじゃん!」
「クソでもいい!家ゴロで金ガポさせてくれ!」
「先生!いい加減に現実逃避やめて下さい!締め切りまでに、ちゃんとした作品をお願いしますよ!」
「だから俺は絵がメチャクチャ下手クソなんだよ!」
「短編小説だ!短編小説を書けーーーっ!!」
「耳がちぎれるーーーーっ!!!」

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2019年7月10日 (水)

「第六百八十二話」

「チョップ返し!」
「痛い!?チョップ返し!?チョップ返しって、何!?」
「チョップ返しは、チョップ返しだよ。チョップの、返しだよ。」
「してないじゃん!アタシ、チョップ!してないのにチョップ返しは、単なる目潰しだ!で、何でチョップ返しが目潰しなんだ!チョップ返しは、チョップじゃないのか!」
「プロレスみたいな事を言ってんじゃないよ。誰がチョップ返しは、チョップだって決めたんだ!誰が!いつ!どこで!」
「詰め寄りが尋常じゃないわね!?」
「いいか?チョップ返しってのはな!チョップ返しってのはな!人それぞれに人それぞれのチョップ返しがあるんだよ!それはもう!そう言うもんなんだよ!目潰しでもキックでもパンチでも引っかきでもショットガンでもいい!それがチョップ返しだ!もちろん、チョップでも可!」
「ショットガンって!倍返しにも程があるでしょ!てか、てかてかてか、チョップ返しは、チョップされて返して初めて成立するんじゃないの?チョップ返しって言うぐらいだから!」
「ああ、そうさ!そう言ってるじゃないか!」
「言ってるだけでそうしてないじゃんって!してないでしょ!チョップ!」
「しただろ!チョップ!おもいっきりしたよ!」
「おもいっきりしたんだったら、アタシは脳の検査を今すぐに受けに行かなきゃだよ!だって、おもいっきりした記憶が丸ごとないんだもの!だから目潰し返ししていい?目潰し返し!」
「はあ?そんなのないだろ!」
「チョップ返しがあって、何で目潰し返しがないんだ!」
「法治国家だからだ!」
「チョップ法なんかないだろ!」
「この国の憲法の第一条を知らないのか!」
「そんな大事な場所にチョップに関する記述が載るはずがない!いいから、目潰し返しやらせなさいよ!目潰し返し!」
「不毛だ!不毛だ不毛だ不毛だ!」
「頭ぶっ壊れたの!?」
「チョップ、チョップ返しで終わってるのに、そこから更にチョップ返し返しをしたら、チョップ返し返し返しのチョップ返し返し返し返しで、チョップ返し返し返し返し返しだ!こんな不毛な返し合いをしてていいのだろうか!我々には、もっと他にやるべき事があるのではないだろうか!」
「意味の分からないチョップ返しして来た人が、意味の分からない事を言わないでよね!大体、アタシはチョップしてないんだから、チョップ返しが成立しないって言ってんじゃん!」
「話を逸らすな!」
「この話だろうが!主軸はずっと、チョップの話だろうが!」
「ちょっと待て!仮にボクがチョップをされてないのに、チョップ返ししたとしたら、それはボクの頭が狂ってるって事じゃないか!」
「冒頭から狂いっぱなしだろうが!ずーっと狂いきってるだろうが!いきなりチョップ返しって、そう言う事でしょうが!」
「待て!待て待て待て!本当に自分がボクにあんなチョップをしたのを覚えてないのか?ふざけてるんじゃなくてか?」
「チョップしてないんだから覚えてる訳ないでしょ!」
「恐っ!」
「恐怖なのは、いきなりチョップ返しなんて訳の分からない目潰しをされたアタシよ!」
「んまあ、この話はとりあえず保留にしといて、今日はこれからどうする?とりあえず飯でも食いに行くか?ほら、イタリアン食べたいって言ってたろ?それとも何かアクセサリーでも買いに行くか?あそうだ!イタリアン食べて、アクセサリー買いに行こう!そして週末には旅行へ!」
「急に優しくしないでよ!まるでアタシが狂ってるみたいじゃん!」
「よしよし。」
「頭を撫でるな!」
「よしよし。」
「撫でるなって!」
「じゃあ、イタリアン食べてアクセサリー買いに行って、病院行こっか!」
「行ってもいいけど診察受けるのはアタシじゃないからね!」
「診察返しするのか!?」
「もういい!!とにかく早く眼科に連れてって!!」

第六百八十二話
「とまあ、チョップされたのされてないだのと近頃ではよく聞きますが、昔はそうではなかったようで。おい!和尚!和尚!誰だい?こんな夜遅くに?」

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2019年7月17日 (水)

「第六百八十三話」

「何だよ。喫茶店に呼び出したりしてさ。」
「呼び出すなら喫茶店だろ?」
「いや、他にもあるだろ。」
「体育館の裏とか?」
「何でだよ!何で卒業して何十年も経ってんのに今さら体育館の裏で決闘なんだよ!」
「告白かもしれないだろ?」
「どっちも嫌だよ!で?何か話があって呼び出したんだろ?金は貸せないけど、悩みなら聞けるぞ?」
「実は俺、昨日から超能力が使えるようになったんだよ。」
「帰る!」
「帰る?帰るって、あの!?」
「あの帰る以外に他に帰るがあるのか?そんなウソに付き合ってるほど暇じゃないんだよ。」
「おいちょっと待て!何でウソだって決め付ける!」
「昨日から超能力が使えるようになったなんて話、信じられる訳がないだろ?」
「おいちょっと待て!何で信じられないんだ!」
「信じてないからだよ!超能力を!」
「超能力者を目の前にして超能力を信じられないって、ミカンを目の前にしてリンゴだって言ってるようなもんだぞ!」
「どう言う事だよ!いいか?だったら、昨日から超能力が使えるようになったって言うなら、その超能力を見せてくれよ!俺だって目の前で超能力を目にしたら、信じざるを得ないよ!」
「ダメだ!」
「何でだよ!何で見せてくれないんだよ!て事は、やっぱりウソなんだろ?」
「ウソじゃない!俺は、昨日から超能力が使えるようになったんだ!手を触れずにテーブルの上のコップだって念じるだけで動かせるんだ。」
「だから!そう言う事が出来るなら、そう言う事をやってくれればいいだろ?そしたら、一発で信じるよ!」
「箱を開けずに、箱の中に何が入ってるか見えるんだ。」
「だから、実際にやってくれって!」
「行きたい場所を頭の中に思い浮かべただけで、その場所へ瞬間移動出来るんだ。」
「いやだから!何で見せようとしない!超能力の種類を列挙してるだけだろ!」
「手の平から火が出るんだ。」
「やってくれよ!見せてくれよ!」
「やってくれ?見せてくれ?さっきからお前は、そればっかだな!他に言う事があるだろ?」
「ないだろ!」
「友達なら!親友なら!まずは、昨日から超能力が使えるようになった大親友に、大丈夫か?って、一言言ってもいいだろ!」
「本当に昨日から超能力が使えるようになったかどうか分かんないのに、そんな気遣い出来るかよ!」
「本当に昨日から超能力が使えるようになったんだよ!」
「だから!見せてくれって言ってんだろ!超能力が使えるようになったなんて、言葉で言われても分かんないんだよ!」
「飛べるようになったんだ。」
「見せてくれよ。」
「壁を擦り抜けられるようになったんだ。」
「見せてくれよ。」
「あらゆるモノを瞬間冷凍出来るようになったんだ。」
「見せてくれよ。」
「動物と会話出来るようになったんだ。」
「いやもう、マジでこの時間は何なんだよ!どう言う時間なんだよ!超能力の種類を大親友から聞く時間?」
「時間を止められるようになったんだ。」
「だから!何で一個も見せてくれないんだよ!で、そんないっぱい出来るようになっちゃってんのか!昨日から!」
「大変だろ?」
「いやむしろ、そんないろいろ出来るようになったら楽しくて仕方ないんじゃないか?」
「出たよ!」
「何か俺、今出したか?」
「大親友から昨日から超能力が使えるようになったを聞いた大親友あるある出たよ!」
「そんなあるあるねーよ!どんな限定的あるあるだよ!」
「お前は、本当に今の俺が楽しくて仕方ないように見えるか?」
「楽しくて仕方ないようには見えないけど、いつものお前だよ。」
「お前、分かってない!」
「それは、お前が分からせようとしてくれてないからだと思うけど?」
「息を止めないでも水中にいられるようになったんだ。」
「だから。」
「怪我しても超高速で治癒出来るようになったんだ。」
「だから!」
「透明になれるようになったんだ。」
「見せろ!そのたくさんの超能力の中の一つでも見せろ!」
「ダメだ!」
「何でダメなんだよ!何がダメなんだよ!ウソだからだろ?ウソだから見せられないって事なんだろ?そうなんだろ?」
「違う。ウソじゃない。体を鋼鉄に出来るようになったんだ。」
「だから見せてくれって!今まで言った中で簡単に見せられるの何個かあったろ!」
「だからダメだって言ってるだろ!」
「何でだよ!肯定も否定もあやふやに話すのやめてくれよ!メチャクチャストレスなんだよ!見せられないなら見せられない理由をはっきりと説明してくれよな!」
「それは、ついさっき超能力が使えなくなったからだよ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「帰る!」
「帰る?帰るって、あの!?」
「その!」

第六百八十三話
「さっきまで超能力者」

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2019年7月24日 (水)

「第六百八十四話」

 曇天模様の空模様、僕が散歩をしようと自宅から外に出ると、その曇天模様の空模様を眺める近所のおばさんが立っていた。
「こんにちは。」
僕は、軽く会釈と共に挨拶をして、そのまま散歩に行こうとした。だけど、おばさんの一言で立ち止まった。
「こりゃあ、人類が滅亡するね。」
「え?」
「ああ、こんにちは。散歩かい?」
「はい、これから散歩に行こうとしたんですけど、おばさん今何て?」
「今?はて?何か言ってたかい?」
「空を見ながら、人類が滅亡するとか言ってませんでした?」
「あらま、恥ずかしいね。声に出てたのかい。」
「出てました。」
「アンタが聞いた通りだよ。人類が滅亡するんだよ。」
「冗談ですよね?」
「こんな小汚い近所のババアが口にしてるからかい?」
「違いますよ。どんな人にでも今のタイミングで今の言葉を言われたら、僕は今みたいに返しますよ。冗談なんですよね?」
「なぜ、冗談だと思うんだい?」
「人類が滅亡するだなんて言うからですよ。」
「近所の小汚いババアは、人類滅亡なんて口にしないで、タマゴが安いとか口にしてればいいのかい?だがね?真実は真実。事実は事実。近所の小汚いババアでも人類が滅亡する時は、人類が滅亡する。タマゴが安い時は、タマゴが安いと口にするもんさ。」
「人類、滅亡するんですか?と言うか、僕が一番に気になってるのは、どうして人類が滅亡するって、おばさんに分かるんですか?実は、おばさんはそう言う機関の人間なんですか?それとも何か特殊な能力があるとかですか?まさか、実は地球人じゃないとか?」
「ふ、そんな映画みたいな話がある訳がないだろ?アタシは、アタシさ。アンタの近所に住む単なる小汚いババアさ。」
「そんな映画みたいな話をしてるのは、おばさんの方ですよ。人類が滅亡するって!」
「する時はするもんさ。浮気と一緒さ。」
「浮気と人類滅亡は違うでしょ!」
「ふ、どうかね?」
「具体的に分かるんですか?どうやって人類が滅亡するとかって?」
「それは分からないね。」
「分からないんですか!?」
「ああ、分からない。」
「分からないのに、人類が滅亡するって言ってるんですか!?」
「どうやって人類が滅亡するかは分からない。だが、結果的にそれがそうなる事は分かる。アンタだって、明日小便する事は分かるだろ?だが、それが何によってそうなるのかは分からないだろ?そう言うもんさ。」
「人類滅亡と僕の小便を同列に語らないで下さい!」
「ふ、同じさ。アタシにしたら、人類滅亡もアンタの小便も同じだね。みんな、人類滅亡を特別視し過ぎなのさ。モノはいずれは壊れる。そう口にはするが、どうもこの地球は絶対に壊れないと思ってる。いや、いずれは壊れると分かっていても、それは自分が生きてる今この時じゃないと思ってる。アタシからしたら、そっちの方がよっぽど疑問さ。」
「確かに、確かにおばさんの言ってる事は正論かもしれない。いや、正論です。だけど、具体的に分からないなら、口にしたらダメだ!人類滅亡なんて言葉を!」
「アンタ、正義の味方みたいな事を言うね。」
「そんな映画みたいなもんじゃありませんよ。ただ、面白半分に人を不安にさせるような発言は、しない方がいいって言いたいだけです。」
「面白半分にかい。」
「すいません。こんな若造が生意気な事を言って。」
「いや、気にしてないさ。アンタの気持ちは分かるからね。」
「すいません。」
「こんな近所の小汚いババアに、謝らなくてもいい。」
「・・・僕、散歩に行ってきます。」
「具体的にどうやって人類が滅亡するのかは分からない。ただ、五時間半後に人類が滅亡するのは、分かる。」
「じょ、冗談ですよね!?」
「ふ。」
不敵に笑うとおばさんは、自分の家へと帰って行った。僕は今、散歩の途中で立ち寄った喫茶店で読書をしてる。あれから二時間経つが、まだ人類は滅亡しそうにない。ふと、窓の外を見ると相変わらず曇天模様の空模様だ。

第六百八十四話
「いらないドキッドキの三時間半」

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2019年7月31日 (水)

「第六百八十五話」

「失礼致します。若女将です。」
「どうも。」
「温泉、いかがでしたか?」
「凄くよかったです。」
「この辺は、なーんにもない所ですが、そのなーんにもない事が逆に何かある的な感じで、昔は文豪が何日も何日も宿泊して、執筆したとかしないとか、そんな話もあるんですよ。」
「確かに、居心地がいいですよね。」
「お客様も文豪ですか?」
「違います。」
「ぶぶぶ文豪じゃない!?」
「そんな驚かないでも。いやむしろ、文豪の割合の方が低いでしょ。曖昧な言い方だったし。僕は、単なる都会の雑踏に疲れて、自然に癒やされに来ただけの者です。」
「殺人犯ですか?」
「殺人犯だったらどうすんですか!?そんなストレートに!?」
「さささ殺人犯じゃない!?」
「文豪か殺人犯しか泊まりに来ないんですか!」
「この地方の特産品の石です。どうぞ召し上がれ。」
「え?展開が情報てんこ盛りでパニックですよ。召し上がれ?召し上がれって、食べられるんですか?」
「はい、食べられる石です。」
「珍しい特産品ですね。」
「おや?これが目当てでやって来たんじゃないんですか?」
「知りませんでしたよ。こんな食べられる石があるなんて。」
「文豪でも殺人犯でも食べられる石が目当てでもない!?貴方は一体何者ですか!?」
「選択肢の方が間違ってますからね!」
「お夕食のご準備が出来ましたら、また訪部屋致しますね。」
「何で要人級?」
「石、是非お召し上がり下さい。」
「はい。」
「ブルーベリー味がオススメです。」
「え?どれが?このお皿にてんこ盛りの小石のどれがブルーベリー味?ブルーベリー味を言って行かないと!オススメならなおさら!」

第六百八十五話
「歯、欠けましたけど?」

「失礼致します。また若女将です。お夕食のご準備が出来ましたので、お夕食食べ部屋までご案内致します。って、お客様!?どうされたんですか!?お腹が痛いんですか!?」
「ほっぺた押さえてお腹が痛いってどう言う状況ですか!?」
「筆が進まないとか?」
「いやだから、文豪じゃないです!」
「ぶぶぶ文豪じゃない!?」
「たまそれやるんですか?歯ですよ!歯!」
「歯が痛いんですか?」
「そうですよ!」
「虫歯ですか?旅先で虫歯って、どんだけツイてないんですか!お客様!」
「笑い堪えてんの丸分かりですからね!違いますよ!これですよ!これ!」
「名産品の石が何か?」
「若女将が食べられる石って言うから食べたら歯が欠けたんですよ!」
「食べられる石あるあるですね。さあ、お鍋が冷めないうちに、夕食食べ部屋へご案内致します。」
「いやちょっと!若女将!食べられる石あるあるなんて一言で片付けようとしないで下さいよ!」
「セクハラですか?」
「何がだ!この空間の一体どこにセクシャルハラスメントがはびっこってるって言うんだ!」
「あるあるハラスメントですか?」
「そんなハラスメントがあるんだとしたら、それをしてんのは若女将の方だ!」
「落ち着いて下さい。こんな時は、特産品の食べられる石を食べて気持ちを落ち着かせましょう。」
「この状況で石を食うとでも?」
「今食べないで一体いつ食べるんですか!」
「いやむしろ、落ち着かせる為に若女将が食べたら?」
「私は、お客様みたいに歯が欠けたくないので、ご遠慮しときます。」
「欠けるんじゃん!その危険性を孕んでいるのなら!なぜ一番最初にその危険性を指摘しない!」
「ジョークですよ。そんなに怒らないで下さい。ジョーク、食べられる石ジョークです。」
「実際に歯が欠けた人に言うジョークではない!」
「さあ、お鍋が冷めないうちに、夕食食べ部屋へご案内致します。」
「着いてから煮ろ!鍋!何で一端出来上がった状態で火を消して待機させてんだ!夕食食べ部屋で!」
「もちろん、お客様が夕食食べ部屋に着いた段階で煮ます。」
「じゃあ!お鍋が冷めないうちにって何なんだ!お鍋が冷めないうちにって!」
「ハロー!みたいなもんです!」
「そんなハローがあってたまるか!」
「さあ、お肉が腐らないうちに、夕食食べ部屋へご案内致します。」
「いや、行きたくないよ!その夕食食べ部屋!どんな環境下なんだよ!」
「お皿が溶けないうちに、夕食食べ部屋へご案内致します。」
「もう何かヤバいだろ!その夕食食べ部屋!夕食食べ終わったら僕はどうなってんだよ!って、夕食どころじゃないんだ!僕は!歯が欠けたんだ!痛いんだ!」
「寝ます?」
「何でだよ!」
「嫌な事は、たいてい寝れば忘れられるって、言うじゃありませんか。」
「目が覚めてまた歯が痛くて思い出すよ!忘れてどうにかなるもんじゃないからな!歯が欠けるって!」
「では、石医者にご連絡致します。」
「何だ!その摩訶不思議な石医者ってワード!」
「食べられる石を食べて歯が欠けた人が行くお医者さんです。」
「人、それを歯医者と言う!」
「歯医者?」
「歯医者が石医者って呼ばれるぐらいになるなら食べるのやめちまえ、石!」
「それは、この国を敵に回せと?」
「ちげーよ!もう早く石医者に連れててってくれよ!」
「かしこまりました。あっ!」
「何!」
「今日は、休診でした。チャンチャン!」
「チャンチャンじゃねーよ!」

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