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2020年5月20日 (水)

「第七百二十七話」

 私は痛快な話が書きたくて色々な場所を訪れ、最終的に辿り着いたのは夢の中だった。そして、今私は夢の中を彷徨っていた。
「なんて事だ。」
「何がそんなになんて事だなんだい?」
「ここは、夢の中だぞ?」
「夢の中?」
「そうか、自分の夢の中の住人にこれが夢の中だと認識させる事は、とても困難か。」
「それよりもキミは誰だい?」
そう言えば、ここはどこだ?森の中と言えば森の中で、街の中と言えば街の中で、水の中と言えば水の中で、空中と言えば空中で、過去と言えば過去で、未来と言えば未来で、昼間と言えば昼間で、真夜中と言えば真夜中で、何とも形容し難い場所だ。まあ、夢の中って事は確かなのだが。
「おいおいおい、キミキミキミ、無視するんじゃない。」
目の前の話し掛けているお爺さんは、知人の顔ではない。現実ではあまり接触のある人間ではないのだろう。或いは、どこかの店の店員か?テレビの中の誰かか?まあ、どんな人物がどんなキャラクターを演じているかなんて、夢の中で詮索するのは野暮ってものか。
「いや、別に無視していた訳じゃないんです。」
「いいや、お前は無視してた!死ね!」
「何を!?」
お爺さんは、物凄い速度でサーベルのような三節混のようなスパゲッティをお湯から取り出すヤツのようなもので私の心臓を突き刺した。すると私の首から上が真上に吹っ飛んだ!
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!」
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、じゃないだろぉぉぉぉぉぉ!!」
ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、と笑うお爺さんの姿が小さくなって行くのを首から上だけの私が為す術もなく、ただただ見ている事しか出来ない私をキャッチしたのは、首から下だけの巨大ロボ的な大男だった。
「え?ちょっと待て!」
私の願いは虚しく、巨大ロボ的な大男は私の首から上を自分の首から上があったであろう定位置に乗せた。
「いや、これはどう考えてもアンバランスだろ!」
それは勿論だった。現に私の首から上は、コロコロと巨大ロボ的な大男のその場所を転がっていた。
「動くな!おい!止まれ!おい!」
と、言ったものの。私には一つの疑問が浮かんだ。首から下だけの巨大ロボ的な大男に、私の言葉は届くのか?と。
「届く訳がない!」
それはなぜか?なぜならそれは、首から下だけの巨大ロボ的な大男だからだ。これがもし首から上半分と首から下半分の巨大ロボ的な大男だったとしたら、話半分ぐらいは私の言葉も伝わるかもしれないが、現実は違う!まあ、夢の中だが。私の首から上だけは首から下だけの巨大ロボ的な大男のその辺をコロコロと転がっている。
「いや待てよ!?」
ここで私は一抹の不安を感じた。感じざるを得なかった。これ、落ちるんじゃね?このまま首から下だけの巨大ロボ的な大男がダンスしてると、これ落ちるんじゃね?と。
「嫌だあああああああああああ!!!」
夢の中の不安は、夢の中で現実となった。私は落ちた。巨大ロボ的な大男の胸を経て、巨大ロボ的な大男のお腹を経て、巨大ロボ的な大男の股間を経て、巨大ロボ的な大男の太股を経て、巨大ロボ的な大男の膝を経て、巨大ロボ的な大男のスネ毛に絡まった。
「地獄だ。」
現実の世界では、色々な地獄を人は想像して恐怖するが、本当の地獄と言うのは、こう言う事だ。
「さて、どうしたものか。」
首から上だけの私が、さて、どうしたものか、なんて考えていると。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。」
首から下だけの巨大ロボ的な大男のダンスの影響で、首から上だけの私の鼻の穴の中を首から下だけの巨大ロボ的な大男のスネ毛が刺激した。
「ハックション!!」
「こんにちは。」
「こんにちは。」
くしゃみの勢いで首から下だけの巨大ロボ的な大男のスネ毛地獄から吹っ飛んだ私は、空を舞い、どっかの屋根を突き破って、どっかのテーブルの上に着地した。目の前には、大食漢の女がフォークとナイフを手に、まさに今からテーブルの上のご馳走を食べようとしていた。
「ちょっとお願いがあるんですが?」
「まあ!食べ物が空から降って来たわ!これは夢かしら?」
これは、夢だ。だが、おいおいおいおい、今食べ物が空から降って来たわって言ったのか?言ったな、言ったよ。さっき地獄と言ったが、地獄の認識を更新しよう。大食漢の女に食われる以上の地獄があるか?いや待てよ?もし、大食漢の女に首から上だけの私が食べられたら、大食漢の女に食われなかった首から下だけの私は、どうなるんだ?
「申し訳ないのだが、私は食べ物ではない。」
「食べ物は、みんなそう言うの!」
こいつ!全くなんてこいつなんだ!つまり問答無用で何でもかんでもってヤツだな!おいまさか嘘だろ?もしかして、さっきの巨大ロボ的な大男の首から上もこの大食漢の女が食したのか?だとしたら、私の首から下も私の首から上が大食漢の女に食された後は、ダンスし続けるのか?
「私を食べたら、死ぬぞ?」
「食べ物は、みんなそう言うの!」
普段から一体何を食っているんだ!?この大食漢の女は!?
「私には、猛毒がある!」
「食べ物は、みんなそう言うの!」
「しかも私は、爆発する!」
「食べ物は、みんなそう言うの!」
「そして私は、とても不味い!」
「食べ物は、みんなそう言うの!」
終わった。夢の中での私の大冒険もどうやらここまでのようだ。思えば摩訶不思議な夢の中の一生だった。ん?そうかこれは夢の中だ!だとしたら、目からビームを出して大食漢の女に目に物を見せてやればいいじゃないか!
「最終忠告だ。私を食べるな。」
「食べ物は、みんなそう言うの!いただきまーす!」
「ビィィィィィィィィム!!」
そして私は、目からビームが出る訳もなく、いとも容易く大食漢の女が持つフォークで一刺しされ、大食漢の女の口の中へ運ばれて行った次の瞬間、ガバッと目が覚めた。
「・・・・・・。」
そこは、手術中で回りの医療関係者が驚きの表情で私を見ている。まあその気持ちは痛いほどに分かる。それはなぜか?なぜならそれは、私も医療関係者の諸君の立場なら、驚きの表情で手術台の上の患者を見ているからだ。私は切に願う。どうかこれも夢であってくれ、と。

第七百二十七話
「書きたくて・春」

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コメント

見つけたー!!!
お久し振りです水晶です。
ブラウザの「お気に入り」登録をバックアップするのを忘れたままPCを買い換えて、COSMIC☆COMEDYを見失っていました。サイト名はちゃんと覚えておかないと駄目ですね><
ここに来るのは何年ぶりでしょうか、PYNさん継続して下さっていて嬉しいです。また時々読みに来ますね!

投稿: 水晶 | 2020年5月23日 (土) 19時25分

こちらこそそこまでして読みに来てもらえて嬉しいです。また時々よろしくお願いします。
コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2020年5月27日 (水) 14時02分

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