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2023年7月

2023年7月 5日 (水)

「第八百九十話」

「あ、そうだ。聞いてくれよ。」
「何だよ。改まって、どうした?」
「俺、闇落ちしたんだよ。」
「はあ?」
「だから、俺、闇落ちしたんだよ。」
「いやいやいや、久し振りにお前から連絡があって、居酒屋でさんざんバカ話した後に、急に放り込んで来る冗談にしては、闇落ちは激弱だろ。」
「でも、俺、闇落ちしたんだよ!」
「闇落ちした奴が、闇落ちしたって元気よく乾杯促しながら自己申告しないだろ!そもそも、久し振りに会ったお前は、特に変わってないだろ。」
「じゃあ!この闇落ち感は一体何なんだよ!」
「知るかよ!だいたい闇落ち感って何だよ!闇落ち感って!だったら、そのお前が感じてる闇落ち感を説明してみろよ!」
「ああ、分かった。」
「普通そんなに、素直に自分が闇落ちした経緯を話す闇落ちした奴がいないからな。」
「何だか最近、暗闇が好きなんだ。何て言ったらいいんだろう?若い時には感じなかった暗闇の居心地のよさが分かって来たんだよ。」
「違う!お前何か闇落ちについてだいぶ勘違いしてる!お前のそれは、闇落ちじゃなくて、闇好きだ!単なる闇好きだ!」
「はあ?じゃあ、闇落ちって何だよ。」
「知らないで闇落ち闇落ち言ってたのかよ!んまあ、知らないで闇落ち闇落ち言ってるんだろうなとは思ってたけどさ!あのな?闇落ちって言うのは、簡単に言うと正義だった奴が心に闇を抱えた理由から悪になる、みたいな事だよ。」
「前提に正義があるのか?だとしたら、現実世界で闇落ちする奴なんか存在しないじゃないか!だってそうだろ?この世に正義なんてもんは存在しないんだ!」
「だいぶ酔っ払ってるみたいだな。」
「俺は酔っ払ってない!闇落ちはしてるが、酔っ払ってはいない!」
「してないんだって!闇落ち!」
「ただ!この世は悪だらけだから、闇落ちは存在しなくても、光昇りは存在するかもな!」
「何だその光昇りって!」
「まあでも、俺が知る限りこの世に正義はないから、いまだ光昇りは現れない、か。」
「訳の分からない単語を雰囲気まんまんで言うなよ!いや、そもそもお前の理屈で言ったら、正義がこの世に存在してないんだから、お前が闇落ちすんのも有り得ないだろ!」
「この世の最後の正義が、闇落ちしたんじゃないか。」
「知らなかったくせに?闇落ちの意味を理解してなかったくせに?正義でもなんでもないお前が?闇落ちでもなんでもしてないお前が?単なる酔っ払いなお前が?」
「本人が闇落ちしたって言ってるんだから!それはもう揺るぎなく闇落ちしてんだよ!」
「そんな理屈が罷り通るかよ!だったら今頃この世界は、幸せに溢れかえってるよ!」
「ああ、闇落ちした。」
「だから、そんな奴いないんだ。闇落ちした己を憂いてる闇落ちした奴なんかさ!しかもお前の闇落ちは、闇好きだからな!」
「ああ、罪なき人々を殺してぇ!」
「闇落ちの偏見だよ!偏見も甚だしいよ!」
「ああ、食い逃げしてぇ!」
「闇落ちに謝れ!」
「とにかく!俺は、闇落ちしたんだ!」
「単なる頑固だろ!」
「闇落ちと頑固落ちのダブルパンチかよ!」
「何かになる事が落ちるって事じゃないからな?」
「このままだと分からず屋落ちして、自分勝手落ちもしちゃうかもな。」
「嫌われ者の集合体になりたいのか?お前は。」
「落ちたなぁ。」
「もう何を憂いてんのか分かんねぇよ。」
「だが俺は諦めない!いつか必ず光昇りしてみせる!」
「それが一番分かんないだよ!」
「ああ、陰謀企てて権力者からその権力を奪いてぇなぁ?」
「じゃあ!実行しろよ!闇落ちしてんなら、呟いてるだけじゃなくてやってみろよ!」
「面倒臭がり屋落ちしちゃってるからな。」
「面倒臭がり屋落ちが勝っちゃってんなら、それはもう単なる面倒臭がり屋だよ!」
「ああ、何か無性に親の復讐で国を裏切りてぇ!」
「シチュエーションが闇落ちじゃない気がするんだけどなぁ?お前の親生きてるしな。」
「正義の軍団と戦いてぇ!」
「もうはや単なる悪じゃん!落ちてると言うか根っからの悪そのものじゃん!」
「正義がいっつも正しいと思うなよ!悪には悪なりの正義があるんだ!」
「悪なんじゃん!」
「正義か悪かは、歴史が決める。」
「いや何か、決まったぁ、みたいな顔して酒飲みながら、遠くを見つめてるけど、何一つ決まってないからな。」
「闇落ちバンザーイ!!」
「酔っ払いじゃん!何でもない単なる酔っ払いじゃん!」
「今日は、俺の闇落ちを祝して、お前の奢りでいいな?」
「祝さないんだよ!闇落ちってのは!」
「じゃあ、もうとにかく何でもいいから、お前の奢りな!」
「ムチャクチャ言ってるだけじゃん!」
「じゃあ!分かったよ!俺が奢るよ!」
「駆け引き下手か!」
「闇落ちしても友達でいてくれよ!」
「友達でいられないのが闇落ちなんだよ!」
「恐ろしっ!そうなの?闇落ちしたら、友達でいられないの?」
「俺とお前の目指す道が大きく違った時点で、一緒にいられないんだよ。」
「おい!おいおいおいおい!闇落ちしたら、お前とこうして酒飲んでバカ話出来ないって言うなら!俺は、闇落ちやめた!」
「そんな簡単にやめられちゃう闇落ちって何なんだよ!」

第八百九十話
「なしオチ」

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2023年7月12日 (水)

「第八百九十一話」

:勇者よ。
「・・・・・・。」
:勇者よ。
「・・・・・・。」
:勇者よ。なぜ、ベットに仰向けになって天井を見て、既に目覚めていると言うのに、シカトする?
「あ、俺!俺に話し掛けてたの?」
:ピンポイントで脳に直接話し掛けているのに、間違うはずもないだろ。
「いやだって、勇者よ、とかバカみたいな事を言ってるからさ。」
:バカみたいな事ではない。
「いや、バカみたいな事って言うのは、俺に対して勇者って言ってるからであって、この世界観をバカにしてる訳じゃないから。」
:承知した。では、勇者よ。
「ちょっと待ってって!」
:どうかしたか?
「そんなに難しい話じゃないんだけど、俺勇者じゃないよ?」
:いや、お前は勇者だ。
「無職だよ?」
:すまぬ。私の説明不足だったようだな。今のお前は、確かに無職だ。しかし、お前はこれから城に行き、王にこの世界を救ってくれと頼まれる。
「嘘だろ!?」
:嘘ではない。
「じゃあ、冗談だろ!?」
:こんなピンポイントで、直接脳に話し掛けるとかって冗談、有り得ないだろ。
「いやいやいや、そもそも俺が勇者に任命される訳がないじゃん!」
:なぜだ?
「素質がないからだよ!剣の腕だってないし、魔法の知識だってなし、陰キャで友達もいないし、お腹弱いし。」
:だが、お前は勇者だ。これから城に行き、王にこの世界を救ってくれと頼まれる事は、事実だ。
「だとしたら、何?もう、この世界には人員がいないの?俺が引きこもってた間に、この世界には俺と王様しかいなくなっちゃったの?だとしたら、王様が自分で大魔王を討伐しに行った方が、この世界を救える確率が高いよ。」
:この世界は、お前が引きこもってた間、何一つ変わってはいない。一切だ。
「だとしたら、やっぱり俺が勇者な訳ないじゃん!変な夢か?」
:夢ではない。嘘や冗談だでもない。今日これからお前は、突然勇者の力に目覚める。
「怖っ!」
:歴代勇者の中でも一番の勇者の力にだ。
「大丈夫?そんな力に突然目覚めたら、俺大爆発しちゃうんじゃない?」
:安心しろ。勇者の力は、突然目覚めるモノで、その力に目覚めたからと言って、大爆発を引き起こした者などいない。
「いや、アンタ誰!?ちょっと今まで何か普通に会話してたけどさ!ピンポイントで直接脳に話し掛けて来てるアンタは一体何者なんだよ!」
:大魔王だ。
「いや、予想外過ぎるだろ!アンタ誰とは、言ったもののもしかしたら、歴代勇者の誰かの魂なのかなぁ?だとしたら、初代勇者が濃厚だなぁ?とか、まあ在り来たりだけど神なのかなぁ?とか予想はしてたけど!大魔王はムチャクチャのメチャクチャだろ!」
:勇者よ。
「割愛しないで!大魔王の部分割愛して、この先会話無理だよ?絶対!」
:私は、大魔王と言っても大魔王本人ではない。
「大魔王に代理がいんの?大魔王の代理の者?」
:勇者よ。もう少しファンタジーに思考を巡らせられはしないか?私は、大魔王の正義の部分だ。
「部分って何だよ!どっちがファンタジーに巡らせてないんだよ!」
:さあ、王が城で待っている。
「いや、待ってないだろ!まだ勇者の力に目覚めてないんだから!」
:いや、お前が勇者の力に目覚める事は、既に城の大賢者が予言している。王は既に玉座に座り今か今かとお前の到着を待っているのだ。
「そんな大賢者がいんなら、俺の到着時間も予言しろよ!何でこんな早くから王様を座らせて待たせてんだよ!」
:それは知らぬ。
「確かに。」
:とにかく勇者よ。城へ行け。
「いや、そもそも俺、城に行くような服とか持ってないけど?」
:そのまま行けばよいではないか。
「こんなちょっと近所に買い物行くみたいな格好で城に行けるか!」
:勇者にドレスコードなどないだろ?
「城にあるだろ!こんなボロボロの服で行けるかよ!」
:この世界が求めているのは、見るからに勇者のような一般人ではなく、みすぼらしくとも本物の勇者だ。
「軽くディスるなよ。」
:勇者よ。ここまで言っているのになぜまだ城へ、王の下へ行かぬのだ?
「この状況全てが信じられないからだ!」
:この期に及んでまだそのような事を言っているのか。
「呆れてくれて結構!そもそも今から行かなくても勇者の力に目覚めてから行ってもいいだろ!」
:王が待っているのだぞ?
「だから、それがおかしいっての!まだ目覚めてないんだから待たなくていいだろ!それに、お前は大魔王なんだろ!」
:ああ、そうだ。正確には、大魔王の正義の部分だがな。
「それもよく分かんないんだよ!大魔王が自ら大魔王討伐の手助けをしてるこの状況がさ!いや、何となく分かる世界観だけどさ!いきなりすぎて飲み込めないんだよ!受け止めきれないんだよ!」
:・・・・・・。
「あれ?」
:どうした?
「何か、全身が輝き出した!?」
:おお!それこそ勇者の力に目覚める兆候だ!五時間後には、歴代勇者の中で一番の勇者の誕生だ!
「今、何と?五時間後ならもっと寸前で全員動き出せ!勇者誕生に盛り上がり過ぎだろ!あとな!何でそっちは、直接脳に話し掛けてんのに、俺は声出して会話しなきゃならないんだよ!」
:それは、お前次第だ。
「どゆこと?」
:お前が、声に出すから、声に出して会話しているだけだ。
:あ、そゆこと。

第八百九十一話
「世界観の渋滞」

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2023年7月19日 (水)

「第八百九十二話」

「何だって?」
「何度も言わせんな!ここを通りたかったら、金目の物を全て置いて行けって言ってんだろ!」
「いや、そこじゃなくて、アンタ自分の事を何て名乗った?」
「水たまり賊だ!」
「水たまり賊?」
「ほら!分かったんなら、さっさと金目の物を置いて、さっさと行きやがれ!それとも何か?殺されたいのか?」
「水たまり賊って、山賊とか海賊とかの水たまりバージョンって事か?いやでも、砂賊とか空賊でギリギリな感じだぞ?だが、水たまり賊と名乗ってるって事は、やはり?」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる!んまあ、何をゴチャゴチャ言ってたのかは聞こえてたけどよ!そうだよ!山賊とか海賊とかの水たまりバージョンだよ!何?何か文句あんの?」
「文句はたらふくある。意味不明な状況だし、こんな小さな水たまりに専属の賊が現れてたんじゃあ、たまったもんじゃないし、凄い量の鼻毛だし、水たまりを縄張りとかやっちゃったらそれはもう何でもありだし、鼻の穴が広がるぐらいびっしり鼻毛ってそれはもう鼻呼吸はしてないって事だし、この水たまりも永遠じゃないだろ。」
「聞こえるか聞こえないかの声量で人が一番言われたくない事をブツブツと言いやがって!殺されたいのか!」
「殺されたい人間なんか王に忠誠を誓った騎士団の団長ぐらいなもんだ。愚問を投げ掛ける辺り、所詮は小悪党か。」
「何だと!」
「いいや、小悪党ですらないか。」
「おい!黙って聞いてりゃあ、好き勝手言いやがって!俺は大悪党だ!さっさと金目の物を置いて、とっとと行きやがれ!」
「朝の雨上がりの散歩で、そうそう金目の物を持ってる人間などいないだろ。」
「なら、命を置いて行ってもらうしかないな!」
「鼻毛が気になって言ってる事の半分も頭に入って来ないんだよ。それ、どうにかした方がいいぞ?」
「どうにか出来たら、とっくにどうにかしてるだろ!どうにも出来ないから、こうなってるんだなって察せよ!世の中察しがとにかく大事だろ!」
「引っこ抜いてやろうか?」
「鼻取れちゃうだろ!こんな鼻の穴にびっしりな鼻毛を無理矢理引っこ抜いたら取れちゃうだろ鼻!」
「でも、完全にその鼻毛が邪魔して、アンタのやりたい事が出来てないんだよ。」
「やりたい事は出来てるだろ!オレ様は何者だ!」
「鼻毛賊。」
「水たまり賊だ!何だ、鼻毛賊って!どこにでも出現出来ちゃうだろ!」
「いいじゃないか。」
「お前、分かってないな。賊って言うのはな?その領域を犯しちゃならねぇんだよ。どこにでも出現出来るって事は、どの賊の領域も荒らす事になんだろ!」
「何だそのこの世でもっとも下らない悪党達のルール。いや、そもそも水たまりもどこにでも出現出来るのカテゴリーだろ。」
「うるせぇ!」
「もう大きな声で、うるせぇって叫んだら負けだよ。アンタ負けを認めたに等しいよ。」
「何なんだよお前は!」
「私は、お前だ。」
「いや急に奇妙な世界観を展開して来るなよ!気持ちの悪いヤツだな!」
「気持ちの悪いヤツに言われたくない。」
「いいから、さっさと金目の物を置いて行きやがれよ!」
「だから、金目の物は持ってないと言ってるだろ?頭の中まで鼻毛びっしりなのか?」
「誰が頭の中鼻毛だらけだ!脳ミソだらけだ!」
「あんまり頭の中をそんな風に表現しないだろ。金目の物を持ってないって事は、アレか?私は、殺されなきゃならないのか?」
「いまいち緊張感がないと言うか、お前舐めてんだろ!そうだよ!お前はこれから殺されんだよ!」
「何とも理不尽だな。朝目が覚めて、夜中降っていた雨が上がって、散歩日和だと意気揚々と家を飛び出し歩いていたら、まさかまさかの水たまり賊に出会してしまうとはな。」
「人生なんてそんなもんだ。だが、そう悲観する事はない。お前をただ殺すんじゃあ、つまらないだろ?」
「私に問うな。」
「一つゲームをしよう。」
「どんなゲームだ?」
「お前が勝ったら今日のとこは見逃してやる。」
「どんなゲームなんだ?」
「どうだ!オレ様も優しいだろ!」
「普段自分を悪側に置いた人間が急に感謝のバラード作って歌い出したみたいな事したって、悪は悪だ。根本は腐った感情だろ。自己満足の悦に浸るのは構わないが、そのゲームと言うのは、一体どんなゲームなんだ?」
「人の感情は!複数で確立されてんだ!人の人格は!複数で確立されてんだ!」
「で?どんなゲームなんだ?」
「お前マイペースだな!」
「キングオブマイペースなアンタに言われたくない。だから、どんなゲームなんだよ!いい加減ぶん殴るぞ!」
「わ、分かったよ。説明するよ。ぶん殴るとか言うなよな。いいか?ゲームは単純だ!互いに自分の鼻毛を抜いて長い方が勝ち!」
「出来レースにも程があるだろ!抜く前から勝敗決まってんだろうが!」
「それはどうかな?」
「それはどうかなじゃないだろ!一目瞭然だろ!」
「抜いてみなきゃ分からないだろ?実際、オレ様の鼻毛は、こう見えてメチャクチャ短いかもしれないだろ?」
「どう見たって長いだろ!」
「実はお前は、そう見えて長い鼻毛を鼻の穴に隠してるかもしれないだろ?」
「鼻毛の長さ対決が日常茶飯事なら、そう言う仕掛けもあるかもな!」
「せーの!」
「せーのじゃない!殺される一択のゲームなんか出来るか!」
「ん?」
「ん?どうした?指が鼻毛に絡まって取れなくなったか?」
「いや、水たまりが乾いた。」
「そうみたいだな。」
「運のいいヤツだ。」
「帰るのか?」
「水たまりを縄張りとする水たまり賊だからな。さらばだ!」
「いや、待つんだ!」
「何だよ。もう水たまりないんだから帰らせてくれよ。」
「帰りたいのなら、金目の物を置いて行く事だな。」
「お前!何賊だ!」

第八百九十二話
「虹賊」

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2023年7月26日 (水)

「第八百九十三話」

「時間だ。出ろ。」
「今日の空は、ヤケに黄色いな。」
「空だぁ?こんな地下牢で空とはな。それに、今日は土砂降りの雨だ。」
「そうか。」
「分かったら、さっさと出ろ。だいたいお前は今から処刑されるんだ。今日の天気なんか関係ないだろ。」
「最後の晩餐ぐらい重要な事さ。」
「バカなヤツだよ。」
「バカなヤツ?それはもしかして、私の事か?」
「他に誰がいるんだよ。友人の罪を被って処刑されるバカは、お前ぐらいなもんだ。」
「被れる罪がある。友がいる。幸せな人生だ。」
「俺には全く理解出来ないね。」
「時間なんだろ?さあ、そろそろ行こうか。」
「これから処刑されるってのに、笑顔なのはお前が初めてだよ。」
「私がいなくなった後のこの世界が楽しみで楽しみで、ついつい笑顔になってしまうんだ。」
「お前がいなくなったぐらいで、世界がどうこうなる訳じゃないだろ。」
「果たしてそれは、どうだろうか?」
「はいはい、それは楽しみだ。行くぞ。」
「あはははははははははは!」
「黙って歩け!」

第八百九十三話
「ブラ~ン、ブラ~ン」

「今日の空は、ヤケに黄色いな。」
「何!?」
「ん?今日の空は、黄色くないのか?」
「どうなってやがる!?お前は今さっき処刑されたはずだろ!?何でお前は生きてる!?」
「不思議な事を聞くな。私が生きているのは、これから処刑されるからさ。処刑される前に死んでいたんでは、処刑の意味がない。」
「何がどうなってる!?」
「友は、元気か?」
「何?」
「私が罪を被って助けた友だよ。元気か?」
「ああ、すこぶる元気だ。お前が罪を被って助けてくれた事にさえ気が付いてない。」
「それは良かった。」
「バカなヤツだよ。」
「それは、私の事か?」
「他に誰がいやがる。」
「あはははははははははは!それもそうだな!」
「さあ、行くぞ!」
「また、処刑か。」
「何!?今何て」
「今日の空は、ヤケに黄色いな。」
「なぜだ!なぜ巻き戻る!」
「言っただろ?私がいなくなった後の世界が楽しみだ、と。」
「お前が原因か!いや、どう考えてもこの現象を引き起こしてるのは、お前だな!だから笑ってやがんのか!お前の死が巻き戻りの引き金になってるって事か?」
「私にそんな能力はないさ。」
「何だと!?だが、現にこうして今日がまた始まってるだろ!」
「気付いてないのか?私は、首を吊られて意識が遠退く時に気付いた。微かに聞こえた。」
「巻き戻りの引き金か!そうなんだな!何をだ!何を聞いてるんだ!」
「ブラ~ン、ブラ~ン、と揺れる私の体を見上げながら、キミがこく屁の音をさ。」
「ふざけ」
「今日は、土砂降りの雨だったか?」
「どうなってる!?今日が巻き戻ってはいるが!間隔がどんどん短くなってるぞ!」
「当たり前だろ?」
「何を知ってるんだ!お前は!」
「キミがこくからさ。屁を。」
「そんな事を言ったって!今日は、すこぶる腹の調子が悪いんだ!今朝、妻が作っ」
「今日の空は、うーん?どうだろう?」
「お、おい!戻るなよな!」
「なら、こかなければいい。」
「無理だ!屁を」
「明日の空は、何色だ?」
「このままだと消滅しちまう!」
「我慢す・・・今日の空は、ヤケに黄色いな。キミが自らの屁で消滅しようとも、どうやら私は今日、処刑されるさ。何も変わりはしない。キミの言った通りだな。」
「さあ、時間よ。出なさい。」

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