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2024年4月 3日 (水)

「第九百二十九話」

「何だ!何だ!何だ!」
「そんなガシガシ歩いて来なくても!おはようございます!」
「何だ!朝早くからワニんとこに来てくれって!」
「それが先輩!大変なんです!」
「お前、俺はカバんとこでカバの事やった後にペンギンんとこでペンギンの事やらなきゃなんだよ!」
「ワニが逃げちゃったんです!」
「動物園ってのはな?ずっと忙しいんだよ!それを何だ!とにかくワニんとこに来てくれって!カバはいいから、とにかくワニんとこにガシガシ来てくれって!」
「ガシガシ来てくれとは言ってません!そんな事よりワニが逃げちゃったんですよ!」
「ペンギンんとこでペンギンの事やった後にゾウんとこでゾウの事やらなきゃなんだよ!」
「ちょっと先輩!聞いて下さい!」
「聞いてるよ!ワニが逃げちゃったんだろ?」
「聞いてたのに何でベラベラベラベラそんな感じなんですか!」
「そんなの当たり前だろ!」
「何が当たり前なんですか!逃げちゃったんですよ!ワニ!」
「逃げないよ。逃げないんだよ、ワニは。」
「逃げたんですよ!ワニ!」
「お前なぁ?動物園のワニが逃げ出したなんてなったらな?どうなるか分かってんのか?ここら一帯、大パニックだ。」
「だから俺、大パニックじゃないですか!」
「お前だけだろ!俺が言ってんのは、ここら一帯、だ!」
「何言ってるんだよ、この人!」
「そんな事で呼び付けるなよ。他に用がないならもう、カバんとこ戻るぞ?」
「戻らないで下さいよ!じゃあ!見て下さいよ!本当にワニが逃げちゃったんですから!」
「見ないよ。」
「何で!?」
「いいか?俺が、ワニが逃げちゃったんですよ、見て下さいよ、ってお前が言うように見に行って、そこにはワニがいる。ワニいんじゃん!って、俺がお前の方を見る。そしたら、お前は俺を指差して大笑いしてる。」
「何で俺が先輩をドッキリ仕掛けてるみたいな展開になっちゃってんですか!本当にワニが逃げちゃったんですよ!早く何とかしないと本当に大変な事になりますよ!」
「で、お前はそれを飼育員のみんなに言い触らす。昼飯の時に食堂に行くとどうなる?みんなして俺を指差して大笑いだ。」
「何をずっと言ってるんだよ、この人!」
「だから、俺は見に行かない。カバんとこに戻る。そして、昼飯は誰にも指差されないでカレーライスを静かに食う。」
「呑気にカレーライスなんか食ってられませんよ!ワニが逃げちゃったんだから!いいから来て下さい!」
「!!」
「何で!?何でメチャクチャ力入れて腕を引っ張って連れて行こうとする事に抵抗する!?てか、物凄い踏ん張り力だ!?ビクともしない!?」
「毎日ゾウんとこで、鼻引きで鍛えてるからな。」
「何で毎日ゾウの鼻で綱引きみたいな事してんだよ!」
「そんなゾウの鼻を掴んで綱引きみたいな虐待的な言い回しすんなよ!」
「じゃあ、どんな感じなんですか、鼻引きって!」
「だから、ゾウが俺を鼻で掴んで引っ張るんだよ。それを俺が踏ん張るんだよ。」
「何にせよ何してんだよ、この人!」
「だから、お前が俺の腕を引っ張って連れて行こうなんて無駄無駄。」
「ワニが逃げちゃったんですよ!」
「ワニは逃げないよ。」
「先輩!」
「ん?」
「こんな必死な俺を見た事あります?先輩をドッキリに掛けて大笑いしたいが為に、こんなに必死になると思います?」
「お前ならやりかねないな。」
「普段から俺の事をどんな目線で見てんだよ!」
「チョイスとしては、いいよな。」
「何の話ですか?」
「ライオンでもシロクマでもなく、ワニってチョイスが丁度良いよな。」
「何を言ってんですか!」
「ちょっと信じたもん。ライオンやシロクマなら、ちょっとも信じなかったもん。ただ、俺を指差して大笑いするまでにはならなかったな。だって、ワニは逃げないよ。」
「逃げたんだ、ワニ!その何の根拠もない、ワニは逃げないよ、やめろ!先輩!早く手を打たないとヤバいですって!マジで!」
「分かった。お前が言うように、本当にワニが逃げたとしよう。」
「本当にワニは逃げたんだ!」
「で、俺にどうしろと?」
「はあ?」
「だから、お前はそれを俺に伝えて、俺にどうしろと?」
「そんなのワニが逃げ出して大パニックだから、どうしたらいいのか先輩に助けを求めてるに決まってるでしょ!」
「え?いいの?」
「何がですか?」
「いや、ここで俺が監視カメラの映像を見たら、一発だぞ?一発で、お前の言ってる事が俺を指差して大笑いしたいんだなってバレるぞ?」
「そうか!監視カメラか!だったら、その映像見ましょう!」
「おい!」
「何です?」
「その反応?マジでワニ、逃げ出しちゃったのか!」
「そうだって、ずっと言ってるでしょうが!」
「こりゃあ!大変だ!」
「どこ行くんです、先輩!」
「ワニんとこだよ!何匹逃げたか確認だよ!」
「全部です。」
「ガビーン!!」

第九百二十九話
「食堂は笑いの渦の巻」

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