2017年2月22日 (水)

「第五百五十八話」

沼。
「どうだ?伝説は釣れたか?」
「伝説?いや、釣れるのは、沼スライムばっかりです。」
「それは、残念だな。まあ、この沼は、沼スライムの巣だからな。隣、いいか?」
「どうりで沼スライムしか釣れないと思った。ええ、構いませんよ。だけど、それはそれで、何か考え事をするには、丁度いい。」
「旅で行き詰まったのか?」
「そんなとこです。で、さっきの話なんですけど。こんな沼スライムしか釣れない沼に、伝説の主みたいなのがいるって言うんですか?」
「私も昔からの言い伝えでしか聞いた事しかないが、この沼には主が存在するらしい。沼スライムが巣を作るのもその主がいるからだと言う説もある。この沼は、深い。とてもとても深い沼で、底まで調査出来てない。もしかしたら、伝説の主よりも伝説が存在してるかもしれない。」
「なるほど。だとしたらこの沼は考え事をするには、逆に不都合な場所だったかもしれないですね。」
「そうかもな。だが、伝説は伝説。本当のところが謎だから成立してる。この沼は、単に沼スライムにとって環境の良い沼なだけなのかもしれない。この沼にはなぜか、コブリンやドワーフやエルフも近付きたがらない。不思議な場所と言ったら不思議な場所だ。」
「もしかしたら、沼の底には、ドラゴンが眠っているとか?」
「はっはっはっ!面白い事を言うな!」
「だってほら、ドラゴンの寝息は、魔除けだって言うじゃないですか。」
「そうかもしれないな。底に辿り着いた者がいない以上、同時にそれはドラゴンがいない事も証明されてない事になるからな。」
「何か、ドラゴンがもしも釣れちゃったらって考えたら、ドキドキしてきちゃいました!」
「はっはっはっ!人間とは実に想像力豊かで面白い生き物だな!」
「ん?」
「何だ?」
「いや、何でもないです。」
「ジジイの体から魔物の香りがしたか?はっはっはっ!お前さんは、鼻がいいようだな。」
「この匂いを混乱させる森でもアナタの匂いをしっかりと感じ取れます。でもまあ、僕には、アナタが誰で、何者かなんて関係ないです。単なる見知らぬ釣り仲間ですからね。」
「そうだな。だが、私にも分かるぞ?お前さんが、剣の腕も魔法の腕も他の人間とは比べものにならないって事はな。まあ、だがそれも単なる釣り仲間には、関係ない事か。」
「ですね。」
「ところで、最近城では何か事件でもあったのか?」
「どうしてです?ん、また沼スライムか。」
「こんな森にいたって遠い城の話は耳に入って来る。逆を言うなら、こんな森にまで入って来る事だ。余程の事じゃないだろ。」
「姫様がさらわれたんです。」
「何!?」
「だから、城は大騒ぎなんです。」
「そんな事が起きてたのか。誰が姫をさらったって言うんだ?」
「大魔王。」
「大魔王!?」
「はい、あれは人間の仕業じゃないです。香りでピンと来ました。これは、魔物の仕業だってね。しかも最上級の魔物。と言ったら、大魔王でしょ?」
「いやしかし、本当に大魔王なんて存在が、存在するのか?」
「それは分からないです。」
「分からない?」
「この沼の底にドラゴンが存在してるかもしれない確率と同じぐらいですかね?もしかしたら、最上級の魔物の香りを使った人間の仕業かもしれないし、鬼の仕業かもしれないし、ゴーストの仕業かもしれない。姫様の自作自演の可能性だって有り得る。」
「なるほどな。」
「また、沼スライム。」
「で、お前さんは、大魔王の仕業の線で姫を捜索してるって訳か。」
「はい。」
「なぜ?」
「なぜって、だってそうだとしたら、ドキドキしてワクワクするじゃないですか!」
「はっはっはっ!今分かったよ。人間が面白いんじゃない。お前さんが面白い人間なんだな。」
「そうですか?あ、また沼スライム!」
「はっはっはっ!」
「はっはっはって笑ってますけどね。お爺さんもさっきから沼スライムばっかですよ。」
「そうだな!やはり、この沼にドラゴンが眠ってるなら、古代樹の実を使わなければならないかもな。」
「古代樹の実?」
「昔から、ドラゴンの好物とされてる実だ。」
「そうなんですか!?」
「ああ、そう言う言い伝えだ。」
「そっか。グリフォンの羽じゃあ、やっぱりダメなのか。」
「何!?グリフォンの羽だと!?お前さん、まさか!?」
「この森に来る途中で倒して手に入れたんです。」
「グリフォンを一人で倒す腕前か。それなら、いけるかもしれないな。」
「いける?」
「お前さん、古代樹の実を手に入れたいか?」
「お爺さん!場所知ってるんですか!」
「一段と目を輝かせたな。ああ、知ってるも何もこの先の洞窟の奥深くある。」
「本当ですか!」
「ああ、本当だ。だが、そこには強大な力を持つ魔物が存在する。それでも行くか?」
「当たり前じゃないですか!」
「お前さんなら、そう言うと思ったよ。なら、案内しよう。」
「え、いいですよ。地図さえもらえれば、僕一人で行きます。」
「いや、あの洞窟は複雑だ。私が同行した方が安全だろう。」
「でも、大丈夫ですか?」
「私の心配をしてくれるのか?だったら無用だ。自分の身は自分で守れる。
・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・みたいですね!」
「では、行こうか。」
「はい!」

第五百五十八話
「勇者と大魔王」

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2017年2月15日 (水)

「第五百五十七話」

「これの絵を見てくれ。」
「これは、何かのキャラクターですか?」
「そう、キャラクターだ。鼻血丸。」
「はなぢまる?」
「そう、鼻血丸!」
「だから、鼻血が有り得ないぐらい出てるキャラクターなんですか?で、この鼻血丸ってキャラクターは一体何なんですか?」
「いろいろな地域で、町おこしや村おこしの一環でキャラクターを作ってるだろ?」
「はい。え?まさかこの村のキャラクターが鼻血丸なんですか!?」
「何もない村だからな。」
「いやまあ、確かに特産物や観光名所も何もない村ですが、だからって何でその村のキャラクターが鼻血丸なんですか?」
「鼻血って、全世界共通だろ?この村に特産物や観光名所がないんだったら、そう言うもんをキャラクターにしてしまおうと思ってな。」
「いや何かそれってもう、根本的に何か間違ってません?こう言うキャラクターって、町おこし村おこしの為に作るんですよ?全世界共通だったら、村おこしにならないじゃないですか。このキャラクターを作ったとして、一体村の何をPRするんですか?」
「お前、いつからそんなに夢のない大人になったんだ?」
「夢がない大人って、鼻血丸で村おこしが夢見過ぎなんですよ。そもそも何もない村にキャラクターで人を呼んでどうするんです?村に来た人が全員がっかりして帰って行くだけじゃないですか。」
「鼻血丸の夢はな。世界平和だ。」
「いや、キャラクターの設定とか聞いてませんから!」
「嫌いな食べ物は、チョコレートだ。」
「何か、古典的ですね。」
「好きな食べ物は、ホワイトチョコレートだ。」
「何で?」
「リアルだろ?」
「リアルですけど、何で?」
「好きな鼻をぶつけたい壁は、赤い壁。」
「好きな鼻をぶつけたい壁って?」
「嫌いな鼻をぶつけたい壁は、白い壁。」
「血が目立っちゃうからね。そう言う話じゃないんですよ!キャラクター自体が却下の方向なんですから、設定とかいいんですよ!」
「好きな病院は、耳鼻咽喉科。」
「どんなキャラクターなんですか!」
「嫌いな病院は、歯医者さん。」
「いやだから、そもそもがその病院で好きとかってキャラクター設定が特殊過ぎますから!」
「鼻血丸の夢はな。世界平和だ。」
「それさっき聞きましたから、とりあえず鼻血丸は、置いときましょうよ。」
「お前は、この村が地図上から消滅してもいいのか!」
「急に何ですか!?僕は別にそうは言ってませんよ。でも、村の特産物や観光名所と関係のないキャラクターっておかしいでしょって話じゃないですか。だったら、キャラクターなんかじゃなくて、特産物を作ったり、観光名所を発見した方がいいじゃないですか!」
「分かった!なら、今日からこの村では、全員が四六時中鼻血を出す!それでどうだ!」
「死んじゃう!何で鼻血丸の方に村人全員を寄せなきゃならないんですか!だいたいね!村人全員が鼻血を四六時中出してる村なんて、不気味で誰も来ませんよ!」
「鼻血祭りとかやろうぜ!」
「学生みたいなノリでとんでもない祭りの開催の提案しないで下さいよ!」
「毎週水曜日に開催しようぜ!」
「だから死んじゃう!村が地図上から消滅する前に村人が村から消滅しちゃう!」
「好きな栄養素は、鉄分だ。」
「そうでしょうよ!だから、そう言うの細かく掘り下げないでいいんですよ!」
「嫌いな栄養素は、特になし。」
「栄養素ですからね。プロフィールで特になし使ったらダメでしょ。」
「夢は」
「世界平和!」
「と、地球温暖化。」
「絶対そんな夢持ってるキャラクターが世の中で認められる訳がない!」
「次のページを見てみろ。」
「次のページ?何ですか?この女の子のキャラクターは?」
「第二案だ!」
「名前は?」

第五百五十七話
「お金ちゃん」

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2017年2月 8日 (水)

「第五百五十六話」

「ジャングルってのはな。危険だ。だから、細心の注意を払え。」
「分かりました、隊長。」
「いや、お前分かってない。」

「分かってますよ。」
「いや、お前分かってないよ。」
「分かってますよ。」
「お前の分かってるは、どうせ凡人の分かってるレベルだろ?」
「そんな事ありません!」
「そんな事はある!目を見れば分かる!」
「隊長!私は、ちゃんとジャングルの危険を分かってます!」
「よし、そこまで言うんだったらテストしよう。」
「望むところです。お願いします。」
「ジャングルに足を踏み入れる前で良かったよ。これがジャングル内だったらって思うと、ゾッとするよ。よしなら、テスト開始だ!」
「はい!」
「お前がジャングルを歩いている。そしたら、突然ゴリラが目の前に現れた。どうする?」
「目の前にゴリラですか?その場合は、対ゴリラ銃で撃退します。」
「ほらな?」
「ほらな?って、正解ではないんですか?」
「それが凡人レベルだって言ってんだ!」
「しかし、対ゴリラ銃はジャングル探検隊に本部から支給されたモノですよ?これが正解ではないと言うなら、何が正解だって言うんですか!」
「いいか?ゴリラは、敵じゃない。だから、むやみに対ゴリラ銃で撃退すればいいってもんじゃない!」
「しかし、対ゴリラ銃を使用しなかったら、我々が殺されてしまいますよ?」
「殺さないよ!敵じゃないって言ってんじゃん!ゴリラは!もう、その考えがヤバいんだよ!」
「だったら、目の前にゴリラが現れたら、隊長ならどうするんです?どうするのが一番いいんですか!」
「スッと手を出して、握手だよ。」
「潰れちゃうよ!ゴリラと握手なんかしたら手が潰れちゃう!それこそ絶対にやってはダメな行動ではありませんか!」
「あのな?ゴリラが、どうして突然目の前に現れたかを想像してみろよ。友達が欲しいからに決まってるだろ!広いジャングルで寂しいからだろ!」
「そんなパターン分かりませんよ!」
「そう言うの分かってやれよ!そう言うの分からないんだったら、ジャングル探検隊やめちまえよ!」
「いやしかし、だとしてもそこでゴリラと握手なんかしたら、その先の探険に支障がありますよ!」
「その為の対ゴリラ握手用グローブがあるんだろ?」
「何で対ゴリラ握手用グローブなんか持ってるんですか!?」
「ジャングルの危険を分かってるからだ!友達になりたいゴリラに銃を向けたら、それこそ逆上して殺されるだろ!これで分かっただろ?自分の危機感の甘さってヤツが!お前は、基地に残って事務でもしてろ。」
「待って下さい!もう一問テストして下さい!」
「何?」
「お願いします!」
「俺もゴリラじゃない。大の男が頭を下げて懇願してる姿を見せられたら、もう一回テストしない訳にはいかないな。」
「ありがとうございます!」
「いいから、頭を上げろ。」
「はい!」
「では、テストを開始する!」
「お願いします!」
「お前がジャングルの水場で休憩をしていると、見た事もない植物が目の前にある事に気付いた。さて、どうする?」
「それは簡単な問題です。見た事もない植物を発見したら、この対見た事もない植物検査キットを使います。」
「やはり使うと思っていたよ。」
「ありがとうございます。」
「感謝の言葉を述べてどうする!不正解だ!」
「不正解!?いや、しかし見た事もない植物を見たらまずは、この見た事もない植物検査キットを使用しろと、ジャングル探検隊本部から支給されてるではありませんか!」
「見た事もない植物が、本当に見た事もない植物かどうかをまずは調べるのが当たり前だろ!」
「ええ、それは分かってます!ジャングルで見た事もない植物は、とても危険だと教えられてますから!なので、まずは見た事もない植物図鑑で、その見た事もない植物が本当に見た事もない植物なのかを調べたうえでの見た事もない植物検査キットを使用します。」
「さすがだな。」
「ありがとうございます!」
「だから、誉めてねぇよ!さすがだなってのは、さすが凡人レベルのジャングル危機管理能力だなって意味だよ!」
「ちょっと待って下さい!隊長!今のは、ジャングル探検隊学校で教わった見た事もない植物への対処法です!」
「ジャングル探検隊学校で教わった事が全てだと思うな!」
「いやむしろ、ジャングル探検第一歩を踏み出そうとしてる時に、こんなにも隊長に叱られるんなら、全て教えて欲しかったです!」
「見た事もない植物検査キットに頼ってたら、お前、死ぬぞ?」
「全ての見た事もない植物に対応してるこの見た事もない植物検査キットを使用して死ぬ訳がないじゃありませんか!」
「それだよ!いいか?おい!いいか?見た事もない植物検査キットは、あくまで見た事もない植物に対して万能だ。」
「ええ、ですから!」
「見た事ある植物には無用の産物だ!」
「それはそうです。見た事もない植物検査キットなので、見た事ある植物には、効果ありません。あのう?すいません。ここまで聞いても隊長が何を仰りたいのかが分かりません。」
「だから頭っから、俺はお前がジャングルの危険を分かってないって言ってんだ!いいか?その見た事もない植物が、猛毒見た事もない植物モドキだとしたら、お前は即死だ!いいや、お前だけじゃない!隊は全滅だ!」
「猛毒見た事もない植物モドキ!?そんな植物の話は聞かされてません!」
「だから!学校で教わった事が全てだと思うなと言ってるだろ!自分で調べろ!ここは、未開のジャングルだぞ?何が起きても不思議じゃない!猛毒見た事もない植物モドキが生息しててもおかしくない!なぜその考えに至らない!」
「お言葉を返すようですが、隊長は、そんな存在するかどうだか分からない想像上の植物への対策が出来てるって言うのですか?」
「当たり前だろ!」
「嘘だー!」
「これだ。」
「ゴーグル?」
「対見た事もない植物が見た事もない植物モドキなのかチェックゴーグルだ!」
「チェックゴーグル!?」
「略すな!」
「対見た事もない植物が見た事もない植物モドキなのかチェックゴーグル!?」
「そうだ!このゴーグルがあれば隊を全滅させる事はない!」
「もっと略した!?隊長のジャングルに対しての危機管理能力は分かりました。私が凡人レベルだって言うのも分かりました。」
「そうだな。」
「ですが、隊長!そんな一つ一つの危険に、ましてや想像上の危険に対処する道具をリュックに詰め込む事は出来ませんよ!リュックパンパンレベルじゃありません!」
「そうだな。」
「そうですよ!」
「だから、行けないって事だよ。」
「はい?」
「それだけ未開のジャングルには、危険がてんこ盛りって訳だから、行けないって事だよ。」
「行けないって!行かないんですか!?」
「行かないとは言ってない。行けないってって言ってるんだよ。」
「行くんですか?」
「そんな時の為のこれだよ!」
「嘘でしょ!?」

第五百五十六話
「対未開のジャングル偽造報告書作成機」

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2017年2月 1日 (水)

「第五百五十五話」

「ここは?」
「肘!」
「ここは?」
「肘!」
「じゃあ、ここは?」
「肘!」
「この地球は、いつまでこうして、緑豊かな地球でいられるんだろう?ここは?」
「肘!」
「いつになったら、世界各地で人々が殺し合いをやめるんだろう?ここは?」
「肘!」
「いつになったら、世界に本当の平和が訪れるんだろう?そもそも何が一体平和なんだろう?もしかしたら、僕らはそれが明確に分かっていないから、いつまで経っても世界が平和にならないんだろうか?ここは?」
「肘!」
「病に苦しむ人、生まれた環境に苦しむ人、理不尽で不条理に突然やって来る大切な人との永遠の別れに苦しむ人、怒りでも悲しみでも他のどの感情でもない無感情でない感情に襲われて、暗黒を歩き出す人に光はあるんだろうか?ここは?」
「肘!」
「幸せな人を羨みそして妬む、だけど幸せな人は、悪じゃない。だが、幸せは一方で不幸を呼ぶのも確かなのかもしれない。でも、幸せは一方で幸せを呼ぶのも確かなのかもしれない。ここは?」
「肘!」
「死にたいけど死ねない。死にたくないけど死ぬ。そんな矛盾だらけの解明不可能な予測不能な死の仕組み。人は死ぬから一生懸命に生きていられるのか?人は死ぬから今日を明日に繋げようと必死に生きているのか?死なないと人はどうなるんだろう?人は人じゃなくなってしまうんだろうか?人が人として完成する日は、来るんだろうか?だとしたら、未完成の僕等は人なんだろうか?人は、人を何を持って人だと認識してるんだろうか?人が生んだのだから人だと、そう判断してるんだろうか?もし仮に思考が人を形成しているんだとしたら?人との定義を価値観だとしたら?そんな時代がいつの日にかやって来たとしたら?人は人じゃない人を、人じゃないと思って接する事が出来るんだろうか?ここは?」
「肘!」
「キミは、神を信じているかい?ここは?」
「肘!」
「僕は、神を信じちゃいない。ここは?」
「肘!」
「それは、なぜか?それは、極々簡単な答えだよ。当たり前過ぎて驚くような簡単な答えだよ。ここは?」
「肘!」
「出会った事がない。僕は、神の姿を見た事もなければ、神の声を聞いた事すらない。だけど、こんな僕でも神に祈る事がある。こんな神を心の底から信じちゃいない僕でもだ。そう、だからきっと、神はそんな存在なんだろう。ここは?」
「肘!」
「願っても願っても結果は分かりきってる。それでも見えない存在の神に、触れる事の出来ない神に、願い続ける。ここは?」
「肘!」
「或いは、神が人の願いを全て叶えてくれる存在だとしたら、どこかで誰かがいつもいつも、こう願ってるのかもしれない?ここは?」
「肘!」
「人が、お願いした全ての願いを、どうか叶えないで下さい、と。だとしたら、神は本当に存在してるのかもしれない。ここは?」
「肘!」
「ここは?」
「肘!」
「ここは?」
「肘!」
「ここは?」
「肘!」
「さあ、今日もとりあえず生きてるから、生きてみよう。ここは?」
「肘!」
「そして、明日もとりあえず生きてたら、生きてみよう。ここは?」
「肘!」
「その時間が普遍的で概念的で孤独感に満ち溢れてたとしても無駄に足掻いて、生きてみよう。気付けなかった大切な事に気付けるかもしれない。偉大な何かを成し遂げられるかもしれない。最後にはその全てが無駄に終わるかもしれないけど、この地球の生命活動が終わるまで、とにかく無駄に足掻いて生きてみよう。ここは?」
「肘!」

第五百五十五話
「零回零回クイズ」

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2017年1月25日 (水)

「第五百五十四話」

「ニャー!」
朝起きると俺は、猫になっていた。
「ニャー!」
そう、大好きなあの女性が大好きな猫になりたいと思って日々を暮らしていたら、ある朝起きると俺は、猫になっていた。
「ニャー!」
嬉しかった。人間の俺では、絶対にあの女性は振り向いてくれないが、猫の俺はきっと気に入ってくれる。俺は、あの女性と一生一緒に同じ時間を過ごせる。
「ニャー!」
そんなこの先の幸せ過ぎる運命を想像しただけで嬉し過ぎて死にそうだ。
「ニャー!」
猫になってしまったから、あの女性とはもう二度と会話をする事は出来なくなったが、それを失って得るモノは、あまりにもデカ過ぎた。
「ニャー!」
こんな自宅でずっと歓喜に沸いてる場合じゃない!早速、あの女性の家に行って俺を飼って貰おうじゃないか!俺は、家を飛び出し、三軒先のあの女性の家まで屋根と塀を利用して向かった。
「ニャー!」
よし!大好きなあの女性が居る二階の窓が丁度開いてる!あそこからそれとなく忍び込もう。そして、猛アピールして飼って貰おう!俺は、軽快なステップでいとも容易く窓から大好きなあの女性の部屋へ入った。
「ニャッ!?」
そこで目にした光景は、大好きなあの女性が部屋のドアノブを使って、首吊り自殺している姿だった。

第五百五十四話
「現実」

そして俺は今、あの部屋を後にして路頭に迷いながら不意にトラックに跳ね飛ばされ電信柱に頭を強打し、雨上がりの虹を見て、猫になりたいって願った事を後悔しながら、息を引き取り掛けている。
「ニャ、ニャー・・・・・・・・・。」

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2017年1月18日 (水)

「第五百五十三話」

「お隣のお爺ちゃん!?何してるんですか?」
「おお、隣の主婦じゃないか!こんなとこで会うなんて奇遇だな!」
「いや、お互い我が宅前なんだから、会うでしょ!これを奇遇と言うのなら、毎朝我が宅で目覚めて隣に旦那が居るのも奇遇になってしまうでしょ!」
「相変わらず、ガンガン来るな!マスメディアか!」
「お隣のお爺ちゃんが、毎度毎度そう言わせるような事を言って来るからでしょ!」
「そうか?」
「ところで、空に拳を突き上げて何をしてるんですか?」
「これが雨乞いに見えるか?」
「雨乞いなんて一言も言ってないじゃん!だいたい、雨が既に降ってるのに言う訳ないじゃん!」
「お前さんは、そう言う不思議ちゃんなとこがあるからな。」
「誰が不思議ちゃんだ!真っ当ちゃんだ!で、雨の中、傘も差さずに天空に拳を突き上げて何をしてるんですか?」
「超巨大隕石乞いじゃ!」
「超巨大隕石乞い!?超巨大隕石乞いって、何!?」
「決まってるだろ?雨乞いが雨を降らせる為の乞いだとしたら、超巨大隕石乞いってのは、超巨大隕石を降らせる為の乞いじゃい!」
「何でそんな真似を?単純に何でそんな真似をしてるの?」
「わしは、今年で90ぐらいになる。」
「ぐらいって。」
「だからな。もうそろそろ、いいかなって、な。」
「何が?何が、もうそろそろなの!何が、いいかななの!」
「死、じゃよ!」
「はい?」
「いやだから、この歳まで生きて来たけどさ。もうそろそろ、死ぬのもいいかもって話だよ。何か、特に今後にドラマチックな展開も無さそうだしな。」
「ドラマチックな展開って、そうそう無いでしょ。それで、超巨大隕石乞い?」
「ああ、それで超巨大隕石乞いじゃい!超巨大隕石よー!来ーい!」
「これまた単純な疑問なんだけど?」
「はい、隣の若作り主婦!」
「一言余計だ!その超巨大隕石ってどれぐらいの超巨大隕石?てか、超巨大隕石の時点で、それが乞いって来たら確実にこの街は地球上から消滅するよね?」
「まあ、超巨大隕石は、地球より大きいな。」
「ちょっと!今すぐやめなさいよ!中止よ!中止!雨天中止よ!」
「隣の主婦、わしはもう十分生きたんじゃよ。死なせてくれ。」
「死ぬなら勝手に家の中で孤独死してりゃあ、いいじゃん!何で隣のお爺ちゃんの死に全人類が付き合わなきゃならないの?」
「んまあ、ちょっと格好付けて、そろそろ死んでもいいとか言ったが、やはりいざ死ぬとなると恐いもんなんじゃ。だが、みんな一緒なら恐くない!」
「昔の王様かよ!どんな我が儘さを大爆発させてんのよ!許可とりなさいよ!だったら全人類の許可をとりなさい!そして、まずアタシは反対!!」
「貴重なご意見をありがとうございます。」
「頭下げるなら、その天空に突き上げる拳を下ろせ!!」
「それは出来ん!」
「え?バカなの?」
「お前がな。」
「何でアタシがバカ扱いされなきゃならないのよ!」
「だって、いいか?本気で、こんな事で超巨大隕石が乞いって来ると思ってんのか?こんな事でそんな事が出来るなら、とっくの昔にこの地球は消滅しとるわい!」
「じゃあ、今すぐやめなさいよ!」
「嫌だね!」
「子供かよ!」
「90ぐらいだ!」
「何その言い分!じゃあさ!仮にもし、超巨大隕石が乞いって来たら、どうすんのよ!責任取れんの?」
「その時は、わしの命で責任を取ろう!」
「その時、命で責任取られても取り返しがつかないのよ!ちょっとやめなさいよ!」
「痛い痛い痛い!!」
「何もしてないでしょ!」
「念力でわしの腕をへし折ろうとしだろ!」
「そんな力があるなら、普通の主婦なんかしてないわよ!」
「なら超巨大隕石じゃなくて、超巨大宇宙船乞いならいいか?」
「どの道、宇宙戦争になって地球が滅びるでしょ!だから何で隣のお爺ちゃんの道連れに全人類がならなきゃならないのよ!死ぬなら一人で死になさいよ!」
「嫌だね!」
「てか、そんな事してたらね!超巨大隕石だか超巨大宇宙船だかが乞いって来る前に風邪引いて死ぬわよ!」
「死ぬもんか!!」
「どうしたいのよ!!」
「あっ、雨止んだ。」
「本当だ。」

第五百五十三話
「虹」

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2017年1月11日 (水)

「第五百五十二話」

「町内会長?こんな武器をたくさんこしらえて、一体どこへ行くつもりですか?」
「副会長、我々は今日、巨悪と戦います!」
「巨悪と戦う!?そんな話、聞いてませんよ!この国の中枢に乗り込む気ですか!?」
「いや、副会長。我々は、あくまでこの町の町内の会長と副会長です。守れる平和は、あくまでこの町だけなのです。」
「だとしたら、会長!この平和な町に、そもそも巨悪なんて存在しませんよ!」
「いえ、副会長。この平和な町にも巨悪は、存在します。残念ですが、存在します。」
「しかし、そんな話、私は聞いた事ありませんよ?」
「僕は昨日、実際にその巨悪に遭遇しました。」
「何ですと!?会長、もしかしてその巨悪と言うのは、化け物の類いですか?この町に噂される伝説上の化け物の事ですか!?」
「いいえ、伝説上の化け物は、あくまで伝説上の化け物です。その存在は、一度も確認されていません。」
「だとしたら、その巨悪とは?巨悪とは、一体何なんですか?」
「飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者の事です!」
「えっ?」
「飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者の事です!」
「聞こえなかったんじゃなくて、それが巨悪の正体?って、意味の、えっ?です。」
「そうです!巨悪です!」
「巨悪なんですか?」
「だって、家じゃないんだから!何でみんなが楽しく飲食してる場で、ペチャペチャと汚らしい擬音を発さないとならないんですか!気分悪いじゃないですか!害じゃないですか!だから、殺す!」
「町内会長!町内会長待って下さい!町内会長!」
「いいや、もう待てませんよ!この町の平和を乱す飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する巨悪を殺します!」
「いや、殺すっていくら何でもそれは、やり過ぎですよ!」
「やり過ぎ?やらな過ぎの間違いではありませんか?副会長。」
「やらな過ぎって何ですか!」
「奴等は、飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発しても殺されないと思ってるいんですよ。だから、平気な顔してペチャペチャと汚らしい擬音を発するんですよ。」
「町内会長の言おうとしてる事は、分かりますよ!けど、殺すじゃなくて口頭で注意とかでいいじゃありませんか!」
「副会長?そんな甘い事で、あのゴミムシどもは、やめませんよ?自分が飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発して快感を得られるのであれば、回りがどれだけ迷惑したとしてもそんな事は、どうでもいい、いやむしろ回りが迷惑だと感じれば感じるほどいいと考えてる奴等です。そんな奴等は、殺してやるのが一番です。」
「町内会長!蚊や蝿じゃなくて、相手は人間なんですよ!そんな事したら、殺人になるんですよ!」
「いいえ、殺人にはなりませんよ?副会長。」
「人を殺してるんだから、殺人になりますってば!町内会長!」
「飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発した時点で、奴等は人ではなく、人の皮を被った化け物です!我々は、この町の町内会長と副会長です。あくまでもこの町の平和しか守れません。がしかし!この町から発信して行こうではありませんか!飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者の撲滅して、世界平和へと繋げましょう!」
「町内会長!まずは、各飲食店の店長さんなどに口頭での注意から始めましょうよ!」
「副会長!そんな事をしていては、飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者が蔓延るだけです!奴等は、客と言う立場を利用して、口頭で注意されても偉そうに金払ってるのは自分達だ感を出して来るのがオチです!有無も言わさずぶっ殺すのが一番です!」
「絶対に一番じゃありません!絶対に一番じゃありませんよ!町内会長!」
「副会長!僕は行きますよ!それでも副会長が僕を止めたいと言うのであれば、僕を殺しなさい!」
「そ、そんな事、出来る訳ないじゃないですか!何言い出すんですか!町内会長!」
「なら、そこをどきなさい!」
「どきません!町内会長を殺人犯にする訳にはいきません!」
「副会長?貴方は、飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者を許せるのですか?」
「許せませんよ!許せる訳ないじゃないですか!でも、殺すのはやり過ぎです!」
「副会長?飲食店などで、ペチャペチャと汚らしい擬音を発する者も殺さない、それを殺しに行く僕も殺さない、その選択肢は許されません。貴方は、この町の町内会の副会長なのですよ?さあ、巨悪を殺しなさい!さあ、巨悪を選ぶんです!副会長!」
「ええーっ!!」

第五百五十二話
「巨悪」

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2017年1月 4日 (水)

「第五百五十一話」

 俺は、今日もいつもの喫茶店へ行くため、マンションの11階にある自室を出て、エレベーターに乗り込み1階のボタンを押し、頭の中でアイディアを浮かべては沈め、浮かべては沈めを繰り返していた。
「ん?」
すると、エレベーターの天井の黒い物体に気付いた。虫だ。小さな小さな虫が天井をゆっくりと闊歩している。
「虫か。」
ん?虫?そう言えば、数ヶ月前にも同じような光景に遭遇したな。
「同じ虫か?」
物凄くどうでもいい事だが、何か今日は、今この瞬間は、それが物凄く気になった。仮にもし、数ヶ月前に見た虫と今ゆっくりと天井を闊歩しているこの虫が、同じ虫だとしたら?コイツは、どうやって生きているんだ?それともこの虫は、エレベーターの天井ゆっくり闊歩虫って、虫なのか?ただただ、生まれてから死ぬまで、エレベーターの天井をゆっくりと闊歩するためだけの生涯なのか?飯も食わず睡眠も取らず、ただただエレベーターの天井をゆっくりと闊歩する。感情など使命など一切なく、ただただ遺伝子に組み込まれたシステムに従って一生を終える。それが、良いとか悪いとかではなく、楽しいとかつまらないとかではなく、それはつまり無心のオートマチック。行って帰って、帰って行って、それの繰り返し。
「まあ、俺も同じようなもんか。」
それがエレベーターの天井の話か、マンションと喫茶店の話か、地球と月の話か、距離が違うだけで、やってる事は案外同じようなもんだ。きっと、数ヶ月前に見た虫は、今の虫の何世代も前の虫なんだろう。
「ん?」
歩みを止めた?
「え?」
ヤバイ!何かヤバイ!エレベーターの階ボタンは?2階が点灯している!早く!早く開け!早
「チーン!」

第五百五十一話
「巣」

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2016年12月28日 (水)

「第五百五十話」

 白い部屋に椅子だけが二脚、一脚には男が座っていた。男は、天井を仰ぎ、視線を白いドアに向けた。向かい合わせのもう一脚に座るであろう人物の登場を待っていた。
「失礼します。」
瞬間、若い女がドアを開けて入って来た。男は、少し驚いたがそれを女に悟られまいと表情を崩さず、目線だけで女を追った。
「それでは、7回目の調査を開始します。」
そう言うと女は、スーツの内側からメモ帳を取り出した。
「役所に、アンタみたいな可愛いお嬢さんが働いてるとは、俺もまだまだ悪足掻きが過ぎるな。」
「はい?」
「いや、続けてくれ。」
「それでは」
「いや、やっぱり続けないでくれ。」
「はい?」
「今までと同じ話が繰り返されるだけだろ?アンタら役所の人間が何度面会に来たって同じだ。」
「面会ではなく調査です。これは、仕事です。隊長。お付き合い下さい。」
「だから、役所は市民から目の敵にされてんだよ。」
「貴重なご意見ありがとうございます。まず、事件の経緯をお話しします。間違っていたら、その場で訂正をお願いします。」
「間違ってないから、そのまま一気に頼むよ。」
「市役所に爆弾が仕掛けられたと通報があり、隊長率いる処理班が出動し、爆弾の解除に当たった。爆弾は、屋上に仕掛けられていた。宜しいですか?」
「アンタ、そうやっていちいち聞いてくるタイプか?面倒臭いな。」

「お願いします。」
「ああ、爆弾は屋上にあった。ここの警備も大した事ないんだなって思ったよ。と、同時に犯人は随分と奇抜で思い切った策を実行したなって思ったよ。」
「ヘリコプターによる時限式爆弾の投下。」
「上空の警備も怠らない事だな。」
「貴重なご意見ありがとうございます。」
「何も時限式の爆弾を投下するなら、爆弾そのものを投下しちまえば、一発だったのにな。」
「それは、不可能です。」
「ああ、そうだったそうだった。最初の面会、調査に来た役所の人間が言ってたな。」
「ええ、上空からの落下物は事前にセンサーが検知し、破壊します。」
「ただ、例外があるんだよな?」
「ええ、危険ではないと判断した落下物に対しては、センサーは反応しません。例えば、紙のようなもの、雨や雪のようなもの、そして」
「鳥、のような生物。」
「ええ、盲点でした。まさか、鳥を時限式爆弾化するとは、想定外でした。」
「想定外とは常に隣り合わせだって教訓だな。」
「貴重なご意見ありがとうございます。そして、隊長。アナタは、その爆弾の解除に取り掛かった。」
「まさか、爆弾処理に向かって鳥の解体をする羽目になるとはな。」
「丁度半分の150羽目に取り掛かった時、アナタはこう叫んだ。」
「なぜ爆弾は爆発した!」
「奇妙な事を仰りますね。」
「奇妙な事?いいか?お嬢さん?何度も何度も言うが、爆弾は爆発した。解除したはずの1羽目が爆発し、連鎖して他の爆弾も爆発した。そして、俺は無念の中、死んだ。」
「死んだ?では、私の目の前に存在するアナタは一体誰なのですか?」
「それはな、お嬢さん?こっちの台詞だ。アンタは、一体何者で、ここはどこなんだ?天国か?それとも地獄か?ああ、きっと爆発解除に失敗して大勢の犠牲者を出したんだから、こう言う地獄なんだろうな。俺はきっと、無限の時間の中で自分の罪を償い続けなきゃならないんだな。」
「ここは、役所の地下にある1室です。」
「それが俺の知識の限界なんだろ。」
「知識の限界とは?」
「映画じゃあるまいし、役所にこんな施設が存在して、アンタみたいなお嬢さんが登場したりするか?」
「私は、アナタの頭が作り出した存在だと?」
「このシチュエーション、それしか考えられないだろ。」
「隊長、爆弾は爆発していないのですよ?犠牲者は出ていません。」
「俺の良心が、アンタにそう言わせてるのか?ジョークを言うタイプには見えないがな。」
「ええ、ジョークを言うタイプではありません。」
「俺の目の前で爆弾は爆発したんだよ!」
「いいえ、爆弾は爆発しませんでした。」
「何!?そんな事を言う奴は、初めてだな。次のステップに移行したのか?」
「次のステップ?」
「そうやって、自分で自分の犯した罪を優しく解除していくってオチか?茶番だな。」
「アナタの理論では、ここは死の世界で、アナタの頭が見せる罪の世界、と言う事ですよね?」
「どう考えてもそうだろ?」
「プログラムが最終ステップに移行した事は事実ですが、ここは死の世界でも罪の意識が創り出した幻想の世界でもありません。」
「だったらここは、どんな世界なんだ?」
「現実の世界です。」
「ふざけるな!!」
「隊長?」
「もういい加減にしてくれ!!俺は、多くの市民の命を助けられなかった!多くの市民の未来を奪った!だけどな!解除は成功してたんだ!してたんだよ!なぜ、爆弾が爆発したかは分かんないんだよ!もう、勘弁してくれ!頼むよ!な?」
「茶番、終わりました?」
「茶番だと!?」
「ええ、茶番です。隊長、アナタは丁度半分の150羽目に取り掛かった時、こう叫んだのですよ?なぜ、爆弾は爆発しないのか!と。」
「何だと!?」
「我々は途中で気が付いたのです。アナタが、爆弾を解除しているのではなく、爆弾を仕掛けていると、そう犯人が誰なのかを。爆弾は、確かにありました。しかしそれは、最初の1羽目のみ。そう、だから我々は屋上に特殊な電磁波を流し、爆弾を無力化したのです。役所としましてもこれは、大きな賭けでしたが成功しました。隊長?全てが逆なのですよ。アナタは、良心の呵責により罪の意識で世界を創り出しているのではなく、この大罪から逃れる為に茶番を創り出しているのです。アナタは、大勢の市民の命を奪った悪魔でもなければ、大勢の市民の命を救った英雄でもない。単なる失敗人なのです。」
「何だと!?何言って」
「これでもまだ!この世界が死の世界だと言えますか!」
そう言うと女はスーツの内側からナイフを取り出し、男の右足の太腿に突き刺した。
「お、おい!?これは、何の真似だ!?」
「痛み、感じますよね?では、1度だけお聞きします。このテロは、アナタの単独ですか?それとも他にお仲間がいるのですか?」
「ふざけるな!!俺はな!!爆弾処理班の隊長だぞ!!」
「バン!」
瞬間、白い部屋に銃声が鳴り響いた。同時に男は床の上に倒れ込み、返り血を浴びた女は椅子から立ち上がりドアから出て行った。
「裁くのは、アナタではなく、我々の方です。」
最果ての街、欲望の街、裁きの街、人それぞれに呼び名の異なるこの街のニンジン色の巨大な建物の地下の1室で、その裁きは静かに下った。

第五百五十話
「スリーティーズ・シティ・ジャッジメント」

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2016年12月21日 (水)

「第五百四十九話」

 俺達は、仲良し3人組で、いつものように登山を満喫していた。だが、仲良し3人組の1人が足を滑らし、崖から転落して死んだ。それは、完全なる事故だった。登山をする者ならば、隣り合わせの常に覚悟している現実だった。残された俺とコイツは今、死んだ友人の葬儀に参列していた。幼い頃からいつも同じ時間を共有していた仲良し3人組の1人を失い、俺達は悲しみのどん底に突き落とされている、はずだった。
「ちょっと来い!!」
「いてててて!」
「いいから来い!」
「痛ぇな!」
「お前ってヤツは!」
「何だよ!」
「何だよじゃないだろ!」
「いや、何だよだろ!」
「ふざけんなよ!」
「何がだよ!」
「お前、ずっと笑ってただろ!」
「笑ってねぇよ!」
「いや、ここに来てからずっと笑ってた!いいや、俺が車で迎えに行って家から出て来る時から笑ってた!と言うか、きっとその前からずっと笑ってるだろ!昨日の夜も今日の事を思って笑って寝ただろ!」
「はあ?笑ってねぇよ!」
「お前、分かってんのか!これは、アイツの葬儀なんだぞ!」
「分かってるよ!」
「アイツの両親や兄弟や嫁や子供がいるんだぞ!」
「分かってるよ!」
「ここに参列してる全員が悲しみのどん底に突き落とされてんだぞ!」
「ぷっ!」
「何で笑ってんだよ!」
「今のは、お前が悪いだろ!」
「はあ?何で俺が悪いんだよ!」
「だって、突き落とすとか、お前が突き落とすとかアイツが転落した時の事を思い出すような事を言うからだろ!」
「笑うな!お前なぁ?葬儀中に笑ってるって、凄く不謹慎なのが分からないのか?」
「分かってるよ!だけど、仕方ないだろ!アイツの葬儀だからこそ、アイツの顔が浮かぶんだよ!アイツの顔が浮かんで浮かんで仕方ないんだよ!特にアイツがあの日、崖から転落した時のあの顔がさ!」
「だから笑うな!お前!そのニヤニヤした顔どうにかしろよ!」
「どうにかしてぇよ!でも、どうにもなんねぇんだよ!スゲェ悲しくて悲しくて仕方ないけど!どうしても最期のアイツの顔が浮かんじゃうんだよ!」
「気持ちは分かるけどよ。この場は堪えろ!」
「無理だ!」
「即答かよ!少しは何とかしようって努力しろよ!」
「無理だろ!お前だって本当は、腹抱えて大笑いしたいんだろ?俺は、したい!棺の中のアイツの顔見て、そのギャップで腹抱えて大笑いしたい!」
「どの状況で爆弾発言してんだよ!お前は!」
「なあ?」
「何だよ。」
「なあ?これって俺が悪いのか?」
「明らかに、お前が悪いに決まってるだろ。」
「本当に悪いのは、俺じゃなくて、崖から転落して死んだアイツの方だろ?」
「そんな訳ないだろ!」
「あのな?俺は俺で、あの日から悲しみのどん底の中の抱腹絶倒の中を葛藤してパニック寸前なんだよ!ぶっ壊れそうなんだよ!」
「気持ちは、分かるが何とかこの場だけでも切り抜けてくれ。俺だってもう、口の中が血だらけなんだ。」
「お前・・・。」

第五百四十九話
「凄い面白い顔で崖から転落死」

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