2017年5月17日 (水)

「第五百七十話」

「今日は、虹を渡るのであーる!」
「たたた隊長!?たたた隊長!?い、今何と?すかさず今何と?」
「今日は、虹を渡るのであーる!」
「たたた隊長!?虹を!?虹を渡るのであーるでありますか!?」
「何か問題でもあーるのであーるか?」
「単純に、どうやって?はてさて、どうやって虹を?虹を渡るんだ?って、思いました。いえ、思いました!」
「なぜ全く同じ文章をあえて一回否定しといてもう一度言ったのであーる?どうやって?どうやって虹を?どうやって虹を渡るのか?虹を渡るのに、どうやってもこうやってもないのであーる!虹は、渡りたい時に渡るものであーる!」
「そそそそんなバカな!?隊長がおっしゃってる虹とは、空に架かる虹ですよね!」
「うむであーる!」
「渡りたい時に渡ると言われても!そもそもの渡り方が分かりません!」
「分かれ!」
「分かりません!」
「分かれ!」
「分かりません!」
「分かれ!」
「分かりません!その分かれの無理強いやめて下さい!そこで分かったと答えても分かってませんから!」
「虹靴は、準備して来たか?」
「あーるは?虹靴!?ににに虹靴!?虹靴って何ですか?」
「虹靴とは、虹を渡る時に履く靴の事だ。」
「あーるは?虹を渡るのを今さっき聞いたので、持って来ていません!持って来ていませんと答えましたが、そもそもが虹靴と言うアイテム名を聞いたのも今さっきが初めてで、初めての事だらけで!」
「虹靴を履いて、虹手袋を装着する!」
「あーるは?ににに虹手袋!?ににに虹手袋とは!?」
「虹を渡るには虹手袋が虹靴以上に必要不可欠なのは、虹の入門書を読めば分かるだろ!」
「もう、あーるやめたんですね。」
「やめたよ!」
「そんな怒らなくても!?ゲンコツで怒らなくても!?ににに虹の入門書!?ににに虹の入門書って何ですか!?虹靴も虹手袋も虹の入門書も初耳です!」
「ははは初耳!?ははは初耳だと!?」
「僕の真似しないで下さい。」
「僕の真似って、驚いた時に冒頭の言葉を連呼するのは、キミが発案者じゃないだろ?」
「発案者じゃないですけど、二人しかいない会話で最初に使ったら、それはもう僕が発案したも同じですよ。」
「キミは、無茶苦茶言うな!お菓子売り場の子供か!玩具売り場の子供か!」
「隊長から虹を渡ると聞かされた大人です!28歳の大人です!」
「さてと、準備運動で体も温まった事だし、よし!渡ろう!」
「よし!渡ろう!じゃないですよ!よし!渡ろう!じゃないですよ!よし!渡ろう!じゃないですよ!」
「なぜ三回も言う?」
「物凄く大事な事だからです!」
「よし!渡ろう!」
「渡れるものなら渡ってみたいですけど!隊長!虹は、渡れません。」
「虹は、渡れない?」
「虹は、渡れません。」
「虹は、渡れない?」
「虹は、渡れません。」
「29年前には、この地球上に存在すらしてないキミが何を偉そうに言ってんだ!」
「無茶苦茶な人生の先輩風吹かせますね!?」
「吹かせられるなら吹かすのが先輩風ってもんだろ!それが人生ってもんだろ!」
「それはとても淋しい人生ですよ。それはとても哀しい人生ですよ。」
「人生は、常に淋しくて哀しいもんであーる!」
「あーる!?ここに来てまた、あーる!?さすがです!隊長!」
「ありがとう!隊長!」
「いや僕は隊長ではありません。」
「学級委員みたいな模範解答だなキミは!メガネでお下げかキミは!」
「古い!学級委員のイメージがただただ古い!」
「どうせ掛けるなら虹眼鏡を掛けろ!」
「ににに虹眼鏡!?ににに虹眼鏡とは!?虹靴、虹手袋、虹の入門書に続く第四のアイテム、虹眼鏡とは!?」
「虹眼鏡を掛けてないと虹が見えないだろ!」
「いや、虹はそんな眼鏡を掛けなくても見えますよね?」
「風景としての虹を見るのには、虹眼鏡を必要としない。がしかし!虹を渡るとなったら話は別だ!虹には、渡れるポイントと渡れないポイントとが存在する!その渡れないポイントが分かるのが虹眼鏡だ!虹から落ちて死にたいのか!!」
「もうキレ方がヤバい人じゃないですか!?」
「ナイフを首筋に突き付けてすまなかった。だが、キミがあまりにも虹をなめていたから、ついつい興奮してしまって、本当にすまない。」
「僕の方こそ、何が何だかよく分からないですけど、とにかくすみませんでした。」
「あとはそうだな?虹防護服は、持って来たか?」
「虹防護服?」
「何だ?得意の驚愕はやめたのか?」
「ええ、何かもう面倒臭いのでやめました。虹防護服って何ですか?」
「虹から発生するレインボチウムから人体を護る服だ。」
「レインボ?」
「レインボチウム!」
「って、何ですか?人体を護るって、どう言う事ですか?」
「よくは知らん!」
「知らん!?」
「その辺は、知らん顔しとけ!」
「知らん顔出来ませんよ!」
「知らん顔で知らんぷりしとけ!」
「いや、防護服まで装着しないと危険だって事ですよね!人体に悪影響だって事ですよね!死ぬって事ですよね!防護服まで装着して渡る価値が虹にあるんですか!」
「ある!!」
「断言した!?物凄く断言した!?こんな正しくした断言を見た事がない!?隊長!そこまでして渡る価値があるなら、その価値を教えて下さい!」
「虹を渡るとな。」
「はい。」
「虹を渡ったと自慢出来る!」
「はい。」
「うむ。」
「はい。」
「いやだから、うむ。」
「え?それだけ?虹を渡ったら、虹を渡ったって自慢出来る。ただただそれだけ?」
「ノートとジュースも貰えるぞ。」
「どう言うシステム!?と言うか隊長、とりあえず傘も差さずに雨上がりの虹を待つのやめません?どっか喫茶店とかに入りません?」
「どっちも無理!」

「何でですか!?」
「お金が無い!」
「変な虹グッズばっかり買ってるからだ!」
「うむ。」
「いやうむじゃなくて!」

第五百七十話
「雨上がりの虹を待つ雨の中にて」

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2017年5月10日 (水)

「第五百六十九話」

「先生、どうしたんですか?まさかのいっつも締め切り限界ギリギリアウトの先生からの呼び出しだなんて、もしかしていよいよアタシにプロポーズ?」
出版社の女。
「だから何で美人だけが取り柄のお前にプロポーズしなきゃなんないんだよ!」
物書きの男。
「美人だけがって言いますけど!美人ってかなり上級ツールですけど!ハイスペックツールですけど!伝説の武器レベルですけど!」
「美人はな。寿命が短い。」
「怒られますよ。」
「何に。」
「いや何かに絶対確実怒られますよ。で、それでアタシを呼び出した意図は何ですか?新作が書き上がってるって様子もないですけど?」
「いつもいつも、お前が小説のアイデアを持って来るだろ?やれ、恋愛小説を書けだのとかさ。」
「何でちょっと、いやかなり迷惑そうに言うんですか?出版社の立場から言えば当たり前の仕事してるだけですけど?」
「美人だったら何したっていいのか!!」
「どう言う怒られ方してるんですか?アタシは?」
「と、以前の俺ならツバキを撒き散らしながら怒鳴っていただろう。」
「いや今もそこそこでしたけど?だから先生、本題は何なんですか?」
「私は、泣ける作品を書こうと思う!」
「はあ。」
「泣ける作品を書こうと思う!」
「どぞ。」
「ケッ!」
「ケッ!って、実際に不愉快になる人、初めて見ましたよ。てか、きっと先生は、あまりにも無反応なアタシに不愉快なんですよね?」
「ケッ!」
「せっかく自ら売れる作品のアイディアを出したのに、あまりにも無反応なアタシに不愉快なんですよね?」
「ケッ!」
「当たり前じゃん!」
「ケッ!?」
「そんなの誰もがそう思ってそうしようとしてる普通の領域じゃん!むしろ今までよくぞそこに辿り着きませんでしたね!って話ですよ!」
「ド定番か。」
「ド定番中のド定番ですよ。」
「よし!そのド定番中のド定番と真っ向勝負しよう!」
「先生!いよいよやる気になってくれたんですね!」
「俺はいつでもやる気だったけど?」
「売れる作品に対してって意味ですよ。」
「語弊が凄いな、お前。」
「でもでも、先生?肝心なのは、作品の方向性じゃなくて、中身ですよ!特に先生の場合は!」
「顔が近い。」
「美人が顔近付けたら、喜びましょうよ。」
「くしゃみしていい?」
「有り得ないでしょ。この零距離でくしゃみは。」
「鼻糞飛ばしていい?」
「もっと有り得ないでしょ。」
「オナラしていい?」
「零距離ならむしろオナラが一番マシです。って、零距離で何がどうとかどうでもいいんですよ。」
「お前が早く離れないからだろ。そう、肝心なのは内容なんだよ。単純に、泣ける作品では面白くない。俺が書くんだから、オリジナリティが必要だ。」
「いやその先生のオリジナリティ、一回無しにしません?あれがかなりのネックなんですよね。」
「あのな?俺もバカじゃない。」
「そうなんですか!?」
「そうなの!?」
「先生まで驚愕しちゃったら、誰がこの現場を収集するんですか。」
「泣ける作品は、チョロい。」
「怒られますよ?」
「何に。」
「何かに絶対確実怒られますよ。チョロい訳ないじゃないですか!」
「だって、とりあえず誰かが死ねばいんだろ?」
「とりあえず誰かが死ねばいいってもんじゃないでしょ!」
「人は不思議だよ。」
「何ですか?急にシリアスモードになって。」
「死ぬ事からは回避不能なのに、生きてる事への奇跡を日々歓喜しない。」
「口説いてるんですか?」
「口説くかよ!どんな口説き文句だよ!ただ単純に、いい言葉を発しただけだよ!」
「いい言葉でした?」
「いい言葉でしたよ。」
「泣ける作品の内容とは?」
「余命の主人公とか、家族を殺された復讐劇とか、タマネギ切りまくってるとか、眼球殴るとか、そんなんじゃないんだよ!俺が書きたい泣ける作品ってのはさ!」
「良かったぁ。後半マジでヤバかったですもん。」
「読み手が全員泣ける作品を俺は書く!」
「いやいやいや、ちょっと先生?先生ちょっと?それはそれで不可能ですよ。人それぞれに泣けるツボがあるんですから、読んだ人全員ツボる泣ける作品は無謀です。無茶です。」
「お前、バカだろ?」
「アタシ、バカなの!?」
「えそうなの!?」
「いやだから、収集出来なくなるんでやめて下さい。だって、そんな読んだ人が全員泣くなんて、どう考えたって無理じゃないですか!」
「その無理じゃないですか!って言う事を思い付いたから、呼び出したんだろ?」
「マジですか?」
「マジですよ。」
「死んだ両親に誓えますか?」
「死んでないけどな。誓えるよ。」
「では、どぞ。」
「あのな?内容に拘るから全ての人を泣かす事が出来ないんだよ。」
「はい?」
「いいか?問題なのは、内容なんかよりも読ませ方なんだよ。」
「はい?読ませ方?」
「だから、この作品を読む為の読み方を冒頭に書くんだよ。」
「すいません。嫌な予感しかしないんですけど?因みに、一体先生は冒頭に何を書くつもりなんですか?」
「ふっふっふっ!これで泣ける作品の時代は大きく前進するだろよ!驚くなよ?こう書くんだ!!」

第五百六十九話
「常に足の小指を何かの角にぶつけながら読んで下さい」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・帰ります。」
「じゃあ!常に眼球を殴りながら読んで下さい、は?」
「また、来ます。」
「なら!アナタが一番泣ける作品を思い浮かべながら読んで下さい、は?」
「お邪魔しました。」
「これならどうだ!鼻毛を」
「バタン!!」

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2017年5月 3日 (水)

「第五百六十八話」

「お兄さん?何してるんですか?」
「警察のコスプレの人こそ、こんな所で何をしてるんですか?」
長閑な真っ直ぐで、果てしなく真っ直ぐな、左右には広大なトウモロシ畑がある道の真ん中で、男は落ちている傘を見下ろしていた。
「警察のコスプレの人じゃなくて、警察です。」
「じゃあ、警察のコスプレの人じゃない警察の人こそ、こんな所で何をしてるんですか?」
「危ないから、お兄さんを注意しようと思いましてね。」
「僕、危ないんですか?間もなく爆撃機が爆弾を投下でもするんですか?」
「それを警察が一人一人に懇切丁寧に注意を促してたら、終わっちゃいますよ。ではなくて、こんな道の真ん中に立ってたら、危ないですよ。と、注意しようと思いましてね。いくらここが長閑だと言ってもむしろその長閑につけ込んで、ドライバーはスピードを出すもんなんですよ。」
「警察のコスプレの人じゃない警察の人。」
「警察の人でいいでしょ。警察のコスプレの人じゃないいらないでしょ。」
「見て下さい。」
「傘ですね。」
「傘です。」
「誰かが落としたんでしょう。」
「誰かが落としたんだと思います。」
「ん?壊れてますね。」
「壊れてます。」
「なら、誰かが捨てたんでしょう。」
「誰かが捨てたんだと思います。」
「なるほど、それでお兄さんは、このまま傘が道の真ん中に落ちてると危険だから、拾って脇に置いとこうしたんですね?」
「違います。」
「違います!?じゃあ、本当に何をしてるんですか?」
「僕、傘が恐いじゃないですか。」
「知りませんよ。知りませんし、傘が恐いだなんて言う人に会った事ないですよ。」
「はじめまして。」
「はじめましてですけど、傘が恐いなら、むしろ近付かなければいいじゃないですか。」
「近付きたいじゃないですか。」
「ちょっともはや意味が不明なんですけど。」
「恐いもの見たさってあるじゃないですか。ジェットコースターに乗るとか、お化け屋敷に入るとか、釘を目玉にどれだけ近付けられるとか。」
「いやちょっと最後のは共感出来ません。つまりは、恐いもの見たさで傘に近付いていると。」
「そうです。」
「理由は分かりました。でもやはりここは危険です。ちょっと脇に行きましょう。」
「この状況でどうやって脇に行くんですか?」
「私が傘を移動させます。」
「よく持てますね。」
「普通ですよ。」
「よく持って移動出来ますね。」
「傘ってそう言うものですからね。」
「痛くないですか?」
「痛くないでしょ。」
「噛みません?」
「傘を何だと思ってるんですか?とりあえずここに置きますね。」
「急に開かないですよね?食べられないですよね?」
「急に開く事はあっても食べたりはしません。」
「恐いですね。」
「いえ、まったく。ところで、ずっと気になってたんですけど、なぜそこまで傘に恐怖心を抱いてるんですか?」
「傘って、武器ですよね。」
「武器ではないです。雨に濡れない為の道具です。」
「武器の中でも雨から身を守れる唯一の武器ですよね。」
「だから武器ではないです。」
「だって、傘で人を殴る事が出来るじゃないですか。傘で人を突き刺す事だって出来るじゃないですか。」
「いやそれは、武器として使おうと思えば使えるって話ですよね?そんな事を言ったら、包丁だってノートパソコンだってドライヤーだって、武器になっちゃうじゃないですか。」
「なりませんよ。」
「何で傘が武器だって言う人に鼻で笑われなきゃならないんですか。」
「傘の恐ろしさを知らないからですよ。包丁やノートパソコンやドライヤーは、使用しない人の方が多いでしょ?でも、傘はどうです?雨が降れば傘、日差しが照り付ければ傘、傘傘傘!老若男女、職業問わずにとにかくどいつもこいつも傘じゃないですか。傘傘傘じゃないですか!」
「いいじゃないですか。そう言う時の為の傘なんですから。」
「警察のコスプレの人じゃない警察の人はさ。」
「そんな風に呼ばれてた事、忘れてましたよ。」
「銃や刃物を持ち歩いてたら、取り締まりますよね?」
「取り締まりますよ。」
「傘はなんですか?警察公認の武器なんですか?」
「傘は傘だと警察も認識してますよ。」
「年間、どれだけの傘の事故や事件が起こってると思ってるんですか?」
「起こってるんですか?」
「もう集計するのもバカらしくなっちゃうくらい起こってますよ。」
「じゃあ、お兄さんは雨が降ったらどうしてるんですか?」
「こうしますよ。」
「傘差してんじゃないですか!」
「差してないじゃないですか。こうしてるだけですよ。」
「エアー?フリですか?傘を差してるフリなんですか?」
「これで十分でしょ。」
「不十分でしょ!ずぶ濡れじゃないですか!」
「なぜ、ずぶ濡れちゃいけないんでしょう?」
「風邪引いちゃいますよ?」
「お母さんみたいな事を言うんですね。実は、警察のコスプレの人じゃない警察の人じゃない僕のお母さんですか?」
「警察の人です。あのう?それじゃあ、私もう行きますね。」
「今の会話の中で密室トリックのヒントを得たから連続殺人事件を解決しに行くんですね。」
「見回りです。それと、雨が降った時には、ちゃんと傘差して下さいね。」
「やっぱりお母さん?」
「違います!」
自転車に乗り、果てしなく真っ直ぐ道を走り去る警察の背中が見えなくなるまで見た後、男は落ちてた傘を手に取り、トウモロシ畑に投げ込んだ。

第五百六十八話
「・・・・・・こらーっ!!」

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2017年4月26日 (水)

「第五百六十七話」

「バリバリバリバリ!!」
嵐の日の夜中、ボクは物凄い雷鳴によって目が覚めた。そして、次の瞬間、物凄い尿意に襲われた。夜中に一人でトイレに行くのは、普通の日だって恐いのに、でも朝起きてお漏らしを発見した時のママの怒りの雷の方がもっと恐いから、恐る恐るボクは、部屋を出てトイレに向かった。
「ガタン!」
すると、何やら一階の玄関の方から音がした。それはもう極限状態だったけど、人間はなぜかこう言う時に限って、その元を確かめるって行動に出ちゃうから仕方ない。恐る恐る階段を下りて行くと、それに比例して玄関に人影が浮かんで来る。
「ピカッ!!」
ボクが、誰だ!って叫ぶ直前に稲光が答えを教えてくれた。玄関に立っていたのは、ママだった。レインコート姿で右手に包丁、左手に女性らしき生首を髪の毛で持つママだった。これは夢?何してるのママ?とボクが問い質そうとしようとした時。
「何してるの?」
先にママから問い質された。
「目が覚めたらトイレに行きたくなって。」
「そう、なら早く行って来なさい。」
「うん。」
何だかこれ以上、この場で何かを聞ける雰囲気でもなくなったから、ボクは階段を上り、トイレに行った。オシッコを済ませて部屋に戻る前にもう一度、玄関を見に行ったけど、そこにはママの姿はなかった。きっと寝惚けて幻でも見てたんだろう。でなきゃ、ボクのママは殺人者って事になっちゃう。さあ、もう寝よう。こんな日は、寝てしまおう。
「ピカッ!!」
稲光で一瞬、ママが立ってた両サイドの床に赤い液体が見えたような気もしたけど、何よりも眠かったボクは、部屋に戻ってベッドに入って、寝た。そして、朝が訪れた。
「ママ?」
「何?」
ボクとママは向かい合って、いつものようにいつもの時間に朝食を食べてた。でも、どうしても夜中の出来事が気になって気になってボクは、口を開いた。
「物凄い嵐だったね。」
「そうね。」
「今日はこんなに晴れてて、まるでウソみたいだね。」
「そうね。」
「そう言えばね。ボク、夜中に物凄い雷鳴で目を覚ましちゃったんだ。」
「そうみたいね。」
ママのこの反応、やっぱり夜中の出来事は、寝惚けて幻を見てた訳じゃないんだ。
「それでね。その時、物凄くオシッコがしたくなったからトイレに行く事にしたんだ。」
「そうみたいね。」
「でね?その時、玄関の方から物音がしたからボク、見に行ったんだ。」
「そうよね。」
「ねぇ?ママ?」
「何?」
「ママは、殺人者?」
遂に聞いてしまった。もう、後戻りは出来ない。でも、きっとこのモヤモヤを胸にしまい込んで、この先の人生を生きて行くなんてボクには出来ない。何か理由があるはずだ。あの状況を納得させてくれる何か特別な理由があるはずなんだ。ママが、ボクのママが特別な理由もなく殺人者になる訳がないんだ。
「そうよ。ママは、殺人者よ。」
「何で!何でママは、殺人者なの!もしかして、あの女性はこの家に来た強盗なの?それをママが返り討ちにしてくれたの?」
「違うわ。あの女は、町の薬局で働いてる薬剤師よ。」
はっ!?確かに、言われてみればそうだ!?生首を思い出す作業なんかしたくもないけど、確かにママの言う通りだ!あの顔は、薬剤師の女性だ!
「ど、どうして!あの人、凄く優しい人じゃないか!」
「でもね。買い物をしてレジでもたつくママに対して、舌打ちをしたの。許せないでしょ?」
「・・・・・・ママ。」

第五百六十七話
「母98歳、息子77歳」

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2017年4月19日 (水)

「第五百六十六話」

 俺の目の前には、アイスコーヒーがあり、灰皿があり、水があり、伝票がある。そう、ここは喫茶店。なぜ、俺が喫茶店にいるのか?これから大事な商談があるからか?これから超大作を創作するからか?これからプロポーズするからか?いいや、どれも違う。俺が喫茶店にいる理由は、暇だからだ。暇で暇でしょうがないからだ。ただただ暇だからだ。とりあえず喫茶店に入ってアイスコーヒーでも飲んで時間を潰そうか感覚だ。だが、ただこうしてアイスコーヒーを飲んでるだけじゃ、暇は潰れない。暇は、そう簡単には潰せない。なら、どうするか?大事な商談をしようにも相手がいないし、そもそも商談そのものがない。なら、どうするか?超大作を創作しようにもそんな特筆した想像力を持ち合わせてない。なら、どうするか?プロポーズしようにも今日は指輪を持ってない。なら、どうするか?こう言った暇を潰すなら、妄想が一番だ。お金も掛からなければ、他人に迷惑を掛ける事もない。人間が出来る最大級の暇潰しだ。
「・・・・・・。」
さてと、妄想するって事にしたが、一体どう妄想しようか?例えば、この喫茶店に巨大なドラゴンが飛来したらどうだ?ドラゴンが天井を突き破り雄叫びを上げると、客達を次々に喰らい始める。逃げ惑う客達を長く太い尻尾で薙ぎ払い、天空に向かって火を吹いたかと思うと次の瞬間、俺はドラゴンと目が合う。このままでは、俺は喰い殺されるか焼き殺されるか尻尾で吹き飛ばされて殺されてしまう。他の客達には申し訳ないが、俺は死にたくない。なら、どうするか?この状況を打破するには、どうするか?
「・・・・・・。」
もちろん、答えは単純明快だ。お客様の中に、伝説の勇者がいれば大丈夫。それで安心。だがどうだ?店内を見渡しても店内はまさに地獄絵図状態で、とてもじゃないが伝説の勇者なんかいない。すると俺は、左側に気配を感じる。見るとそこには、メガネを掛けたジジイがレモンティーを飲んでる。見るからに伝説の勇者じゃないが、見る角度によっては、伝説の大魔法使いにも見えなくもない。これで俺は助かった。きっと、このジジイは、とんでもない大魔法でこのドラゴンを一撃で撃退してくれる。とんでもない大魔法でドラゴンを一撃出来るなら、なぜ店内がこんな地獄絵図になる前にやらないんだって怒りが湧いたが、今は伝説の大魔法使いに説教してる場合じゃない。さあ、何をしてる?とっととこのドラゴンを一撃で撃退してくれ!じゃないと俺がドラゴンに殺される。何を呑気にレモンティーを飲んでるんだ!って、俺がドラゴンから再び伝説の大魔法使いに顔を向けると同時にドラゴンも顔を向け、伝説の大魔法使いの頭にかぶり付いた。俺が次に見たのは、胸から下しか無い伝説の大魔法使いの姿だった。
「あのう?」
「はい。」
「伝説の大魔法使いですか?」
「違います。」
一旦、妄想の世界から現実の世界に戻り、隣のジジイに確認してみたが、隣のジジイは単なるジジイだった。俺は、隣のジジイ中のジジイを睨み付け、妄想の世界へ戻る事にした。
「・・・・・・。」
絶体絶命ってのは、きっとこう言う事なんだろう。俺が画家なら、絶体絶命ってタイトルで、きっとこの絵を描いてる。ドラゴンが天空に雄叫びを上げる。ああ、これで俺の人生も終わった。もっといろいろやりたかったが、これで俺の人生も終わりだ。大事な商談や超大作の創作やプロポーズとかやりたかったが、運命ってヤツは非情だ。
「・・・・・・・。」
死を覚悟して目を閉じた俺の耳に入って来た言葉は、意外なもんだった。

第五百六十六話
「ウチのドラゴンが大変申し訳ございません」

 目を開けると顔面蒼白のオバサンが、俺の目の前に立っていた。そして、深々とエプロン姿で頭を下げると、ドラゴンをペチペチ叩きながら、フライ返しでペチペチ叩きながら、ドラゴンに小言を言いながら、何度も何度も深々と頭を下げながら、ドラゴンの背に乗って喫茶店を出て行った。俺は、飲みかけのアイスコーヒーを一気に飲み干し、伝票を手に取り、隣のジジイの頭をひっぱたくフリをして、隣のジジイを睨み付けながら、レジへと向かった。

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2017年4月12日 (水)

「第五百六十五話」

 私は、長いエスカレーターに乗っていた。それはとても長い、長いエスカレーターだった。
「オ
ジサン?今、前の女子高生のパンツ見てたでしょ!」
すると私の耳元で女子高生が囁いた。
「何を馬鹿な事を言っている。」
「え?見てたよね?」
「見てない。」
「絶対見てた。」
「私が見ていないと言っているんだぞ?見てない。」
「そんなの全員そう言うに決まってるじゃん。自らの非を堂々と認める人間なんていない。」
「あのな?本当に私は見ていないから見ていないと言っているんだ。」
「これじゃあ、まるで悪魔の証明ね。」
「こう言う時に使う言葉ではないだろ。」
「オジサンは、アタシに女子高生のパンツを見てなかった事を証明出来ない。アタシは、オジサンが女子高生のパンツを見てた事を証明出来ない。」
「だったら、変な疑いを掛けないでもらえるか?」
「いやでもだってさ。オジサン、前の女子高生のパンツ、モロ見えだよ?アタシには、モロ見えなんだよ?アタシがモロ見えって事は、オジサンもモロ見えって事じゃん?だとしたら、オジサンは見てるでしょ絶対!」
「何で絶対なんだ!」
「凝視でしょ!」
「何で凝視なんだ!」
「オジサン、男だよね?」
「当たり前だ。」
「だとしたら、こんな絶好のチャンスを逃すはずないよね?行列の出来るラーメン屋さんに何気なく通り掛かったら、たまたま空いてたのに入らないの?」
「あのな?ラーメンとパンツを一緒にするな。」
「原料は一緒でしょ!」
「全然違うだろ!」
「水でしょ!」
「突き詰めたらな!でも、突き詰めたら何だって水になってしまうではないか!」
「オジサン?別にいいんだよ?」
「何がだ?」
「こーんなに長いエスカレーターなんだから、パンツも見える事もあるよ。それを見てたって誰も責めないって!」
「だから、見てないと言っているだろ!何度言えば分かるんだ!」
「もうあれだね?オジサンが否定すればするほどだね。ムキになればなるほどってヤツだね。」
「ムキになるだろ!見てもいないパンツを見ていると言われているんだぞ!根も葉もない事で侮辱されているんだぞ!私は!」
「いやでもね?これで見てないって言う方がどうかしてると思うよ?モロだよ!モロなんだよ!普通にしてたって視界に入って来ちゃうでしょ!」
「だとしたらそれは不可抗力だ。」
「こう言う時に使う言葉じゃないでしょ。」
「こう言う時に使うべき言葉だろ!」
「エスカレーターで前の女子高生のパンツを見るのが当たり前の世界だったら、そうじゃないと処刑されちゃう世界だったら、見るでしょ?」
「当たり前だ。」
「ほら!」
「パンツを見ざるを得ない状況の世界に引き込んでおいて、ほらはないだろ!ほらは!」
「でもさ?今の状況って、同じじゃない?」
「全然違うだろ!」
「だって、オジサンが女子高生のパンツを見てたって、誰が咎めるの?何の罪になるの?自由じゃん!」
「あのな?自由かもしれないが、私が許さないんだよ!そんな女子高生のパンツを見ながらこの長いエスカレーターに乗っている私自身を私が許せないんだ!」
「つまりそれって、自らと戦ってるって事?」
「そうだ!」
「まだ、アタシを殺した事を責めてるの?」
「・・・・・・。」
「あれは、不可抗力だよ。うん、不可抗力。」
「そんな簡単な言葉で納得出来るはずがないだろ。」
「もういいじゃん!オジサン、十分に償ったって!だからこのエスカレーターにも乗れた訳だし!」
「・・・・・・。」
「泣かないで、オジサン。」

第五百六十五話
「天国へのエスカレーター」

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2017年4月 5日 (水)

「第五百六十四話」

 朝の食卓。父と息子が向かい合い、いつもの朝の時間が流れる。大学受験の話、近所の住民の話、今日の予定の話、時折日常会話を挟みながら、無言の朝の時間が流れる。
「・・・・・・。」
父は、息子を見ながら口の中の咀嚼物を飲み込む。
「何?父さん。」
息子は、視線を感じながら、しかし父を見ずに問い掛ける。
「この世界の他に、同じような世界が同時に存在してるとしたら、お前は一体何者だ?」
「はあ?何それ?」
「いや、気にしないでくれ。」
「いや気になるでしょ。朝からそんな訳の分からない事を言われたらさ。どう言う事?同じ世界って?」
「この宇宙の時間の流れには、同時に世界が複数存在してるって説がある。」
「また夜中に変なテレビでも観たの?」
「並行世界。」
「パラレルワールドの事?」
「まあ、お洒落に言うならそうだな。」
「別にお洒落に言ってないよ。それで?その並行世界で僕が一体何者だって、どう言う事?」
「うん、並行世界では違う人生を歩んでいる並行世界が存在してると思うんだ。」
「本当にそんな世界があったら、中には父さんの息子じゃない僕の人生もあるかもね。でも、現実世界の僕に、並行世界で一体何者だって聞かれても分からないよ。」
「父さんはな。複数存在する並行世界の一つの並行世界に焦点を当てる事にしたんだよ。」
「何で、さも複数の並行世界が存在してる体で話が進んでんの?」
「究極の並行世界が存在するとしたらどうだ?」
「いやもう、空想の世界観で妄想されちゃったら話に着いて行けないに決まってんじゃん。何?究極の並行世界って?」
「つまり、シチュエーションが違うだけの並行世界だ。お前が今、学校に向かって歩き出すと、究極の並行世界のお前もどこかに向かって歩き出す。お前が今、食べ物を口にすれば、究極の並行世界のお前も食べ物を口にする。」
「シチュエーションは全く違ってても行動が繋がってる世界って事?」
「簡単に言えば、そうだ。」
「じゃあ、今究極の並行世界では、親子じゃない僕と父さんが、こうして向かい合って何かを話してるって事?」
「そうだ。」
「それで僕が一体何者だって?だったら、父さんだって一体何者なんだよ。」
「そうだな。例えばこうして向かい合って話をしてるとこから想像するとだな?」
「うん。」
「刑事と犯人?」
「何で僕が犯人なんだよ!」
「まあ、例えばだよ。」
「例えだって嫌だよ!」
「殺人犯。」
「何で僕が殺人犯なんだよ!」
「まあ、落ち着けって、これはあくまで究極の並行世界の別のお前の話なんだから。」
「いくら別の世界の話でも息子を殺人犯に例える父親がいる!?」
「お前がやったんだな。」
「何で取り調べ的な事を始める?空想の妄想の想像の世界に寄せてどうすんの!?」
「アリバイも崩れた!証拠も揃った!チェックメイトだ!」
「そうだよ。こうして向かい合って、二人でチェスをしてるかもしれないじゃないか。」
「そんな平和な時間の流れの中の世界に身を置いていたら、どれだけ幸せなんだろうな。」
「この時間の流れの中の世界だって十分幸せじゃん!僕と父さんと母さんと三人で幸せじゃん!」
「まだ、並行世界の空想の妄想の想像の世界にいるのか?」
「えっ!?」

第五百六十四話
「母はいない」

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2017年3月29日 (水)

「第五百六十三話」

 事件現場ってのは、何回経験しても慣れるもんじゃない。刑事の俺が言うんだから間違いない。特に殺人事件ともなれば、なおさらだ。同僚の中には、慣れたって言うヤツもいるが、俺に言わせれば、こんな悪魔の仕業みたいな現場に慣れるなんて、殺人鬼と同じ脳味噌だ。女性の顔に無数のナイフを突き刺して立ち去る殺人鬼とな。
「ん?」
俺は、無惨に横たわる女性の左肩の地面に何かを発見した。小さな血痕だ。不思議とどうやら発見したのは俺だけで、他の人間は誰も発見していない。
「ん?」
視野を広げてみると、その血痕はどこかへ続いていた。俺は考えた。きっと犯人は、女性を襲っている最中に怪我をしたのでは?と。不思議と俺は、その血痕から目が離せなくなっていた。不思議と足が動き、俺は血痕を追った。

第五百六十三話
「血痕を追って」

 俺は、どこかの森にいた。
「なんて事だ。」
そこには、顔に無数のナイフを突き刺された熊の親子が無惨に横たわっていた。きっと、アイツだ。人間の女性だけでは飽き足らず、熊の親子まで殺すとは、凶暴なヤツだ。こんな凶暴なヤツを野放しにしといたら、次は一体誰が犠牲になるか分かったもんじゃない。それが俺の最愛の人間かもしれないって思ったら、憤りがおさえきれなくなった。
「ここは?」
気付くと俺は、見知らぬ町に辿り着いていた。ここでもし、アイツがまた犯行を行ったら?嫌な予感しかしなかった。そして俺が発見したのは、壊れたタクシーだった。幸いにもドライバーはいなかったが、これもきっとアイツだ。アイツの仕業に間違いない。何よりもの証拠に、この血痕だ。対象がエスカレートしている。もはやアイツは、生き物では快楽を得られなくなっているのかもしれない。
「何だと!?」
俺が血痕を追って辿り着いた裏路地の光景は、この世に終焉があるのだとしたらきっと、それがこの光景だ。
「何がどうなってる!?」
俺は、恐る恐るその終焉の裏路地を一歩一歩踏み進んだ。破壊による破壊。まるで爆撃機が爆撃した後のような吐き気のする裏路地。幸いにも死体を目にせずに裏路地を抜ける事が出来たのが救いだ。いや、もしかしたら、無数の無惨な死体を目にしていたのかもしれないが、俺の無意識がそれらの認識を拒絶したのかもしれない。とにかく、このままアイツを野放しにしていたら、とんでもない事になってしまう。だが、俺はここで思った。こんな裏路地の光景を作り出せる相手と対峙した時、俺はそんな殺人鬼を逮捕出来るんだろうか?こんなモンスターを俺一人でどうにか出来るんだろうか?いや、違う。それは、違うぞ。刑事には、返り討ちにされると分かっていてもやらなきゃいけない時がある。
「こんなモノ!!」
俺は、巨大なビルが粉々にぶっ壊されてる中心で、愛用の銃を投げ捨てた。あれが一体何の役に立つと言うんだ?冷たい視線を銃に送りながら、俺は恐怖に震えていた。そう、なぜなら血痕はここで終わっているからだ。いる。アイツは、ここにいる。どこかで銃を投げ捨てた俺を見て嘲笑ってるに違いない。来い。来い来い来い来い来い。
「姿を見せろー!!!」
俺の声がこだましてから、半日が経つだろうか?俺はまだ、生きている。アイツは、姿を見せない。それから暫くして、同僚からの連絡で、あの女性の死体の数キロ先で、顔に無数のナイフを突き刺されたリスの死体が発見された。俺は、考えた。粉々の巨大なビルの瓦礫の上に座って考えた。これまでの追跡劇を一つ一つ思い浮かべながら、考えた。そして一つの仮説が浮かんだ。
「え!?逆なの!?」
夜のビル群に俺の声がこだました。

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2017年3月22日 (水)

「第五百六十二話」

「ピンポーン!」
「ガチャッ!」
「おう!」
「おう!入れ入れ!悪かったな。こんな雪の日にわざわざ呼び出したりしちゃってさ。入れ入れ!」
「いや、別にいいけど、しかし寒いな。」
「だと思って、用意しといたよ。」
「何これ?」
「マグマ汁!これ飲んで温まってくれ!」
「トマトジュースだろ?」
「マグマ汁だよ!」
「マグマ汁って何だよ。だとしたら、何でコップが平気なんだよ!」
「四の五の言わずに飲め飲め。」
「トマトジュースじゃん!」
「よし!体が温まったところで本題に入ろうか。」
「キンキンのトマトジュース飲んで温まるかよ!本題ってのは?」
「来週、アイツの結婚式だろ?」
「そうだな。」
「そこで、僕達は友人代表のスピーチするだろ?スピーチ!」
「その打ち合わせか?でも、スピーチなら打ち合わせは前日でもいんじゃないか?もしくは、当日でもいんじゃないか?最悪、打ち合わせなんかいらないんじゃないか?って、言ってなかったか?」
「スピーチ、やめようと思う。」
「はあ!?今さら何言ってんだよ!」
「スピーチやめて、マジックしようと思う!」
「マジック!?んまあ、確かにアイツからは、自由に何やってもいいって言われてるけどさ。」
「思ったんだよ!スピーチじゃ、つまらないってさ!」
「スピーチの言い出しっぺ、お前だからな。何かした方がいんじゃないかって言った俺に対して、めちゃくちゃキレて面倒臭いって言い放ったのお前だからな。」
「昨日、偶然テレビでマジックと言うモノを観て、思ったんだよ。これをやれば結婚式がさらに盛り上がるってさ!」
「まあ、確かにスピーチよりもマジックの方が盛り上がるは盛り上がるだろうけどさ。」
「だろ!まあ、マグマ汁飲みながら、続きを聞いてくれ。」
「マグマ汁いらないよ。」
「ハワイ産の最高級マグマなのにか!?」
「がっつりトマト味でしたけど?で、マジックやるって言っても何のマジックすんだよ。」
「もちろん!胴体切断マジックに決まってるだろ!」
「胴体切断マジック!?随分と難易度が高くないか?」
「つまり、それだけ結婚式が盛り上がるって事だろ?」
「んまあ、そりゃあそうだけどさ。え?そもそもだけど出来んの?」
「出来るって?」
「マジックだよ。マジック!」
「これを見よ!」
「チェーンソー!?」
「胴体切断のマジックを思い付いて、すぐに購入した!」
「チェーンソーを!?」
「やるなら派手な方がいいと思ったからさ!」
「そうかもしれないけど、マジックだろ?胴体切断マジックでチェーンソー使ってるとこ見た事ないけど?昨日のテレビではチェーンソーだったのか?」
「いや、こんな鉄の刃だった。」
「横になって箱に入ってってヤツだろ?」
「そうそう。よく知ってるな!」
「一番オーソドックスな胴体切断マジックだからな。」
「でも、こっちの方が派手だろ?」
「派手だけをピックアップするならな。」
「お前がスピーチしてる時に、僕がチェーンソーで胴体切断するから!こりゃあ、みんな驚くぞ!」
「待て待て待て!そりゃあ、みんな驚くよ!戦慄だよ!スピーチしてる人をいきなりチェーンソーで真っ二つにしちゃうんだからさ!しかも縦にな!縦に!」
「楽しみだな!」
「公開処刑じゃん!」
「マジックだよ!」
「胴体切断マジックってのは、胴体切断して、くっついてこそだぞ!縦にチェーンソーで真っ二つにされて、どうやって元に戻るんだよ!タネと仕掛けは!」
「タネと仕掛け?いやだって、マジシャンがタネも仕掛けもありませんって宣言してたけど?」
「鵜呑みもいいとこだろ!何で友人の結婚式に出席して、俺はチェーンソーで真っ二つにされて死ななきゃならないんだよ!」
「やってみなきゃ分からないだろ!」
「何をやってみなきゃ分からないんだよ!」
「僕にマジックの才能があるかもしれないじゃないか!」
「ああ言う事が才能で出来るからマジシャンしてんじゃねぇから!テクニックだよ!テクニック!そしてむしろ、お前の理論でいくとマジックの才能があるかもなのは真っ二つにされて自力で元に戻らなきゃな俺だろ!」
「自分を信じて!」
「信じられるか!」
「人には必ず眠ってる才能があるんだ!」
「だとしたら大博打だな!」
「もしかしたら、お前にはヘソで茶を沸かす才能が眠ってるかもしれないじゃないか!」
「だったらだったで!ヘソで茶を沸かすよ!何でチェーンソーで真っ二つにされてんだ俺は!縦に!」
「ぶっつけ本番で不安なら、ちょっと今から練習するか!」
「一緒!ぶっつけ本番だろうが練習だろうが、結果は一緒!式場が血の海になるか、お前の部屋が血の海になるかの違い!」
「大違いだな!」
「俺が死ぬのは一緒!」
「首が一回転とかしないのか?」
「痛い痛い痛い!するかよ!」
「お前、何も出来ないのかよ!」
「チェーンソーで真っ二つと首一回転で言われたくない言葉だよ!お前だって出来ないだろ!」
「その二つは無理だけど、小指で鼻をほじったり、小指で耳をほじったりは、出来る!」
「それなら俺も出来るよ!ほら!ほら!」
「あ、じゃあ、それをやるか!」
「何してんだよ俺達は!友人代表でみんなの前で俺達二人は何してんだよ!」
「僕がお前の鼻をほじるから、お前が僕の耳をほじってくれよ!」
「それを見せられて、みんなはどんなリアクションすればいいんだよ!」
「スタンディングオベーション!」
「何で拍手喝采?」
「そりゃあ、お互いの穴の中から鳩が出て来るからじゃないか!」
「物理的に不可能だろ!こんな小さな穴から鳩が出て来るの!いやもう、マジックなんて無理なんだから、普通に今まで通りのスピーチでいいじゃん!」
「盛り上がらないだろ?」
「別に盛り上げなくていいんだよ。俺達が主役じゃないんだから!」
「じゃあ、主役の二人をチェーンソーで真っ二つにしよう!」
「蜘蛛の子を散らすように、みんな式場から出て行くだけだよ!あっという間に式場は特殊部隊に包囲されてるだけだよ!」
「消失マジックってのも昨日観たんだよ!」
「消失マジックだ?」
「お前がスピーチしてる時に、僕が頭からこの何でも溶ける液体をかける!」
「だから元に戻れないっつってんだろ!何で俺をこの世から消そうとすんだよ!もっと小物類でいいだろ?」
「じゃあ、前の席の紳士から腕時計を借りて、この何でも溶ける液体をかける。」
「怒られちゃう!ただただ怒られちゃう!で、さっきからのそれは単なるトマトジュース!なっ?場の空気が最悪になるだけだから、無難にスピーチにしとこうぜ!」
「瞬間移動のマジックも観たんだよ!」
「だんだんその昨日のマジシャンに俺は腹立って来たね!」
「これはイケる!これは、胴体切断マジックや消失マジックよりも遙かに簡単!」
「そうでもないだろ?」
「お前の双子の弟を使えば簡単!」
「俺が双子じゃないんだから無理だろ!」
「双子になれよ。」
「どんな無理難題だよ!お父さんとお母さんに土下座して頼み込んでも無理だよ!」
「よし!やっぱり今からこのチェーンソーで!」
「バカなの!」
「いやでも、せっかく買ったんだから使わないとさ。」
「その時が来たらでいいだろ!無理から使う代物じゃないから!チェーンソーって!」
「あっ!じゃあ、ケーキ入刀の時!」
「ケーキまみれだよ!もうスピーチでいいし!当日、絶対にチェーンソーを持って行くなよ!」
「はいはい、フリね!フリ!」
「フリじゃねぇよ!」
「じゃあ、あれか!俺だけチェーンソー持ってるのが羨ましいんだ!」
「何でそうなるんだよ!」
「結局、そうなんだろ?そう言う事なんだろ?」
「どんな結論付けなんだよ!羨ましくねぇよ!」
「結局お前は、そう言うとこがあるんだよなぁ。結局なんだよ。結局。」
「結局結局うっせ!」
「よし!今からお前のチェーンソーを買いに行こう!」
「だから何でそうなる?」

第五百六十二話
「結局、二人でチェーンソーを使ってスピーチをしました」

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2017年3月15日 (水)

「第五百六十一話」

 短編小説を二作品書き終えた俺は、いつもの喫茶店からそろそろ自宅へ帰ろうと、席を立とうと腰を上げたまさにその時だった。
「立たないで、そのままゆっくり、ゆっくりと座って。」
「えっ!?」
「これ、分かるわよね?」
女は、俺の額に銃を突き付けると俺のスピードに合わせて向かいの席に腰を下ろし、銃口はそのままで銃をテーブルの下へ。
「どう言う事だ?」
「単刀直入に言うわ。もう一つ作品を書いて。」
「何だって!?」
「アナタ、短編小説家なんでしょ?」
「なぜ分かった!?」
「この喫茶店の常連で人間観察が趣味のアタシなら、そんな事は簡単に分かるの。」
「俺のファンか?」
「ファンじゃないわ。」
「ファンじゃないのかよ!」
「ええ、ファンじゃないわ。」
「ファンじゃないのに何でもう一つ作品を書けなんて無茶な要求してくるんだよ!」
「無茶な要求ではないと思うけど?短編小説家なんでしょ?だったら、もう一つ作品を書くなんて、簡単でしょ?」
「人間観察が趣味なら分かるよな?俺は既に今日、この喫茶店で作品を二つ書いてるんだよ!もう一つ短編小説を書けって言われてもすぐには無理だ!」
「待つわ。」
「待たれたって困る!」
「なぜ?」
「今日はもう、書けないからだ!」
「なぜ?」
「だから!既に二つ作品を書いてるって言ってるだろ!今日はもう、書きたくないんだよ!これから家でゴロゴロしたいんだよ!」
「分からない?」
そう言うと女は再び俺の額に銃を突き付けた。
「バカなのか?お前は!」
「アタシは、バカなのかもしれない。だけど、異常者じゃない。」
「人の頭に銃を突き付けといて異常者じゃないはないだろ。」
「もっと言うなら、アタシ以上にバカは、アナタよ。」
「はあ!?何で俺がバカなんだよ。」
「銃を突き付けられてるのよ?分からないの?死ぬのよ?もう一つ短編小説を書かなきゃ死んじゃうのよ?これは、理不尽で不条理なゲームのようなもの。タイムリミットは、そうね?このお店の閉店時間まで。短編小説家なら、十分な時間でしょ?」
「なめてんのか?今から閉店時間までは、10時間ある。だから短編小説なら、それで書けると?」
「ええ、そうよ。」
「ふざけるな!このお店に作品を書くだけの意気込みで来てるなら十分な時間だ!だが、今の俺は、それをさっきの二作品で消化してんだよ!一から構造を練る段階じゃあ、短編小説だってな!十時間あっても足りやしないんだよ!」
「そうなの?」
「お前だって、小説を読むならそこんとこ何となく分かるだろ!」
「漫画は読むけど、小説は読まないから、そこんとこ何となくでも分からないわ。」
「読まないのかよ!」
「ええ、読まないわ。」
「俺のファンじゃないにしても小説は読むからこんな事してんじゃないのかよ!」
「ごめんなさい。」
「おい!謝るなら、こんな理不尽で不条理なゲームのような事すんなよ!」
「頑張れ!」
「あのな?頑張ってどうにかなるもんじゃないんだよ!短編小説を書くにはな!閃きが必要なんだよ!」
「閃け!」
「そんな事で閃けるんだったら、もっと短編小説を量産してらぁ!」
「さあて、こんな会話をしてる最中にも時間は過ぎて行ってるのよ?」
「書けば終わるのか?」
「書けば終わるわ。」
「面白いとか面白くないとか、内容は関係ないんだな?」
「面白いとか面白くないとか、内容は関係ないわ。ただ!」
「ただ?」
「アナタのプライドがそれを許すならの話だけどね。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「なるほど、お前思ったより厄介だな。」
「そう、アタシは厄介なの。」
「設定を厄介にし過ぎたな。」
「後悔してももう遅くない?」
「とりあえず、寝る!」
「それもありかもね。」

第五百六十一話
「ストイック???」

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