2019年1月16日 (水)

「第六百五十七話」

 とあるファンタジーな大陸では今、かつてない程の大規模な戦争が巻き起こっている。赤の国、青の国、金色の国、紫の国、そして黒の国。それぞれがそれぞれの思惑を持ち、大陸を統一しようと暗躍している。そしてこれはそんな戦乱の中、赤の国の城下町にある酒場で空腹を満たしている最中の男と少女の話である。
「ねぇ?」
「何だ?」
酒場は妙な賑わいを見せていた。客達は歌い踊り、カードゲームに興じ、それはまるで宴のような。そんな酒場の一番奥、テーブルを挟んで男と少女は座っていた。
「剣見せて!」
「ダメだ。」
「剣見せて!」
「ダメだ。」
「ケチ!」
「ケチで、結構。」
「むむむむむむ!」
「スープが零れてるぞ。」
「剣見せてくれないからだよ!」
「いいや、お前がいつまで経ってもスプーンの扱いが下手クソだからだ。」
「下手クソじゃないもん!」
「スープが上手く飲めるようになったら見せてやる。」
「お肉は上手く食べれるもん!」
「手が汚れるぞ。」
「ねぇ?久し振りだよね?」
「肉がか?」
「違う!赤の国!」
「ああ、女王のネックレスの呪いの時以来だな。」
「元気かな?病気の王様!」
「さあな?相変わらず病気なんじゃないか?」
「そっか!相変わらず病気なんだ!じゃあ、元気だね!」
「今回は、その病気を治す依頼だ。」
「治せるの?」
「さあな?俺は医者じゃない。本物の病気だとしたら、お手上げだ。」
「じゃあ!ドラゴンの仕業!」
「いいか?何度も言うが、ドラゴンなんてのは、どっかの誰かが考えた幻想の空想だ。旅をしていて一度でもドラゴンを見た事があるか?」
「うーん?・・・・・ない!」
「そうだ。ドラゴンもハーピーもセイレーンもゴブリンもオークも幻想の空想だ。」
「グリフィンも?」
「そうだ。」
「つまんないの。」
「この世界にモンスターは、スライムだけだ。」
「つまんないの。」
「夢見る少女のその夢をぶち壊して悪かったな。」
「つまんないの!」
「おい、どこへ行く。」
「・・・・・トイレ!」
「食事中だぞ?」
「トイレ!」
「モンスター図鑑を持ってトイレか?」
「そう!悪いの!」
「分かった分かった。ったく、アレを作った奴を恨むぞ。」
少女がトイレへ行く姿を見届けながら、男は蒸留酒の入ったジョッキを手に取り、一口飲んだ。そして、食べこぼされた少女のテーブルを見て笑みを浮かべていると、近付いてくる人影があった。
「早かったな。使用中だったのか?」
「いいや、お嬢ちゃんはまだ便所さ。」
その人影は、蒸留酒の入ったジョッキを片手にした男だった。
「誰だ!」
「おっとととと、剣を抜くんじゃないぞ?もちろん銃もだ。怪しいもんじゃない。」
「十分怪しいが?」
「俺が?俺が怪しいんだったら、アンタはその十倍は怪しいぞ?俺は、単にアンタに興味があって話し掛けただけさ。」
「俺にはない。」
「まあ、そう言わずにいいじゃないか。」
「座るな!」
「お嬢ちゃんが帰って来る頃には消えるさ。少し話がしたいだけさ。白の紋章、つまりアンタはSSだよな?」
「だから何だ?珍しくもないだろ?」
「いいや、興味をそそるには十分だ。スライムスレイヤーと少女。こんな組み合わせに興味を持たない奴がいるか?」
「エルフとドワーフが結婚する時代だぞ?」
「そのうち、精霊と人間も結婚するかもな。だが、犬猿の仲じゃない。水と油じゃない。」
「何が言いたい?」
「多くの奴等は誤魔化せても俺には通用しない。」
「お前、魔術師か?」
「違う違う違う。あんな魔法に頼るひ弱な奴等と一緒にしないでくれよ。」
「だったらもう消えろ。」
「いいや、まだ消えないね。なぜ、スライムスレイヤーとスライムが一緒に旅をしてるのか?しかも世にも珍しい変異体のスライムとな。一体その紋章を何色に染めるつもりだ?」
「いいか?スライムスレイヤーについて何か勘違いしてるようだから言っとくぞ。そもそもスライムスレイヤーは、スライムを討伐する事が目的じゃない。スライムとの共存が目的だ。それに、紋章の色を尋ねる事はタブーだぞ。」
「すまんすまん。なるほど。悪さをするスライムだけを裁くって訳か。変異体は保護してるって感じか?」
「さあな?裁くのは、最終決断だ。」
「なら、今回の病気の王様の原因もスライムだって考えてんのか?」
「さあな?」
「スライム病。」
「お前、本当に何者だ!」
「ほうほうほう。それが有名なスライム銃ですか。スライムを弾丸に?それもスライムとの共存の一環って訳か。」
「俺の機嫌がこれ以上悪くなる前に消えないと本当に頭に撃ち込むぞ?」
「そして俺は脳をスライムに支配されてアンタの命令で酒場から追い出されるって訳か?」
「いいや、悪いがこの弾には土のエレメントのスライムじゃなく、火のエレメントのスライムが込められてる。」
「ああ、だったら俺はこの場で即死だ。」
「分かったら消えろ。」
「そうも行かない。」
「何?」
「今回の王様の一件は、アンタが考えてるような単純なもんじゃない。」
「何だと?」
「かなり複雑な相関図だと俺は見てる。だから、アンタは王様に謁見した後に、必ず俺を探す。それは、俺の協力が必要だからな。」
「本当にお前は、一体何者なんだ?」
「ゴーレム使い。」
「何だって!?」
「俺の協力が必要になったら、墓場の地下に来い。じゃあな。」
「おい!」
「ただいまー!」
「お帰りお嬢ちゃん。」
「おじちゃん誰だ?」
「おじちゃん?お兄さんだろ?俺は、おじちゃんのお友達だ。またな、お嬢ちゃん。」
「うん!」
そう言うと男は蒸留酒の入ったジョッキを持ち、少女の頭を軽く数回手のひらで叩くと立ち去って行った。
「・・・・・・。」
「ねぇ。」
「・・・・・・。」
「ねぇってば!」
「さっさと食事を済ませ・・・どうなってる!?」
あれだけ宴のような賑わいだった酒場には、男と少女と店の人間達の姿しかなかった。
「あれ?みんなどこ行っちゃったの?」
「まさか・・・アレが全てゴーレムだったってのか?」
「え?」
「さあ、食べ終わったら行くぞ。」
「病気の王様のとこ?」
「そうだ。」
「その前に!」
「またトイレか?」
「違う!銃見せて!」
「ダメだ。」
「ケチ!」
「ケチで、結構。」
「むむむむむむ!」
「さあ、早く食べろ。」
「はーい。」
赤の国の城下町にある酒場で空腹を満たした男と少女は、お城へと向かった。

第六百五十七話
「赤の国ー病気の王様ー

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2019年1月 9日 (水)

「第六百五十六話」

「世界を征服してみませんか?」
「その小瓶で?」
「はい。」
「その空の小瓶で?」
「この空のような小瓶で、です。」
「ん?」
「はい?」
「いや、どう見てもそれ、空の小瓶だよな?」
「いえ、空のような小瓶です。」
「何か入ってるって事か?」
「はい。」
「それは、世界が征服出来るような何かって事か?」
「そうです。」
「そもそも、そんな小瓶の中に入ってる何かで、世界が征服出来るのか?」
「問題は、大きさではありません。重要なのは、小瓶の中身です。」
「中身?その空にしか見えない小瓶の中身ってのは、一体何なんだ?」
「それを教える前に一つ、お伺いしたい事があります。」
「何だ?」
「貴方は、世界を征服したいですか?」
「え?」
「その答えを聞かなければ、中身について教えられません。貴方は、世界を征服したいですか?」
「いいや。」
「では、この話は終了です。」
「いや、ちょっと待って!」
「待ちませんよ。」
「中身が何なのか教えろ!」
「世界を征服したくない人に中身を教えて、一体私にどんなメリットがあるんですか?」
「だから、ちょっと待って!」
「腕を放して下さい。こうしている間にも世界を征服したい人が、どうやって世界を征服したら良いのか悩み苦しんでいるんですよ。」
「ちょっとも教えてくれないのか?その小瓶の中身が何なのか?」
「ちょっとが全部なので無理です。」
「ヒントも教えられないのか?」
「ヒントが答えなので無理です。」
「気になるだろ!」
「では、今一度お伺いします。世界を征服したいですか?」
「いや、したくないよ。」
「では、失礼致します。」
「失礼致しますじゃなくて!」
「腕を放して下さい。この時間がどれだけ無駄な時間だかお分かりですか?」
「正直、分からない!」
「それは、貴方が世界を征服したくないからですよ。世界を征服したい人にとっては、寿命を縮めるほどに無駄な時間です。」
「なあ?だいたいその世界を征服って、具体的にどう言う事なんだ?大魔王的な事なのか?」
「いい大人が何を子供みたいな事を言ってるんですか?」
「空の小瓶を持って世界を征服したいですか?なんて尋ねて来る大人に言われたくないね!」
「その質問に対しての具体的な回答は、この小瓶の中身の答えにモロ直結なので、お答え出来ません。」
「じゃあもう、その小瓶の中身って凄いのが入ってるって事かよ!」
「世界を征服ですからね。どうですか?世界を征服したくなりました?」
「全然。」
「では。」
「待てって!」
「セーターが伸びるから!え?おかしくないですか?」
「何がだ?」
「小瓶の中身が凄く気になってるのに、世界を征服したくないって、おかしくないですか?」
「小瓶の中身は凄く気になるが、世界を征服したくないんだから、仕方ないだろ?」
「嘘でもいいじゃありませんか。」
「嘘?」
「そうですよ。」
「嘘って?」
「小瓶の中身が知りたいなら、嘘でも世界を征服したいって言えばいいじゃありませんか。そうすれば、私が小瓶の中身を喋るんですよ?」
「いや、俺は嘘でも世界を征服したくない。」
「では。」
「ちょい待ち!」
「セーターが!」
「セーターが伸びるの嫌なら小瓶の中身を教えてくれればいいだろ!」
「私は、セーターが伸びてもいいから教えられません。セーターを引きちぎられようが、世界を征服したくてしたくて思い悩み苦しんでいる人の元へ行かなければならないんです。」
「世界を征服したくてしたくて思い悩み苦しんでいる人って誰!王様とかか?」
「いい大人が何を子供みたいな事をまた言ってるんですか?」
「いや、世界を征服って、答えは明確だけど、課程が漠然とし過ぎてるんだよ!いや、世界を征服って言葉として明確だけど、一体何を持って世界を征服した事になるのかも漠然とし過ぎてるんだよな!何を持って?」
「では、最後のチャンスです。セーターが地球の裏側まで伸びようが、引きちぎられようが、私はこの質問の答えによって、この場を絶対に立ち去ります。お伺いします。」
「何だ!」

第六百五十六話
「世界を征服したいですか?」

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2019年1月 2日 (水)

「第六百五十五話」

「空腹だ。」
「空腹だと自らが言うヤツは、空腹ではない。」
「はあ?」
「まあまあ有名な哲学者の言葉だ。」
「なら、そのまあまあ有名な哲学者は、空腹になった事がないんだな。」
「いや、彼女は空腹の魔女と呼ばれていた。」
「まあまあ有名な哲学者じゃねぇじゃんか!」
「空腹の魔女であり、まあまあ有名な空腹の哲学者でもあったのだ。」
「その空腹の魔女だか、空腹の哲学者だかが、何を言ったのか知らないけどな!俺は、空腹だ!」
「だから、それは空腹じゃないんだよ。」
「なら!この感覚は何なんだよ!お腹が減ってお腹が減って、何か食べたいこの欲求は!」
「魔女は、こうも言っている。」
「もう魔女じゃん!」
「真の空腹とは、満腹である。」
「何かそう言う奇々怪々な言い回しをすれば、何でもかんでも哲学になると思ったら大間違いだからな!空腹は空腹!満腹は満腹だ!そして今の俺は、空腹で何か食べたいんだ!」
「その魔女がその後どうなったか知りたい?」
「その後って、その前もその中も知らないのに、その後って!でどうなったんだ?」
「熊と間違えられて猟銃で撃たれた。」
「何か想像してた死に方と違う!狩られたんじゃないのかよ!火あぶりになったんじゃないのかよ!」
「お前なぁ?今のこの時代に火あぶりなんか存在する訳ないだろ?」
「今のこの時代の話だったのかよ!そこ猛烈にビックリだよ!」
「で、僕が働いてる病院に運ばれて来たんだよ。」
「凄い展開になって来たな!死んでなかったのかよ!おい、このまま行くと、お前とその魔女は、恋に落ちて結婚しちゃうんじゃないか?」
「はい。」
「何でこのタイミングで封筒?」
「親友のキミには是非、出席してもらいたい!だから、わざわざ今日は直接手渡ししに来たんじゃないか!」
「俺が来たんだけどな!って、結婚式の招待状!?」
「式は、彼女の希望もあって、世にも珍しい魔女式で行う事にしたから!」
「はあ?」
「お菓子の式場に、席は魔方陣、食事は何かよく分からないものが入ってる大きな鍋で煮込んだスープ、ブーケトスは頭蓋骨トス、あそうそう、彼女側の席は、カラスとカエルとヘビだけだけど、大丈夫だよな?気にならないよな?」
「たくさん気になる!つか、気にならないとこがない!頑張っても許せるのはお菓子の式場だけだぞ?あとはもう、世にもおぞましい宴だ!おい、ちょっと待てよ!もっと冷静になって考え直せよ!」
「何を?冷静になって考え直す必要なんてないじゃないか!500歳差の事を気にしてんのか?」
「気にするも何も500歳差を今知ったよ!」
「あ!もしかしてお前、物凄くお婆さんの魔女を想像してないか?だったら安心しろ!そこそこの美女だ!」
「んまあ、容姿に関しては、人それぞれの好みがあるから口は出さないよ。そして、これが物凄く昔のファンタジーな世界でお互いに甲冑を身に纏っての話なら、オールオッケー!でもな?今の時代の話なんだぞ?お前、何か騙されてんじゃないのか?って心配を俺はしてんだよ!」
「騙されてる?呪いをかけられて殺されるって事か?」
「いやあのさぁ?ちょっと原点に立ち返るけどさぁ?お前、マジで現代に魔女がいると思ってんの?つか、そもそも大昔にも魔女がいたかなんて分かんないけどな!」
「お前、何も分かってないな!僕は、自分が魔女だって言ってる彼女が好きなんだ!彼女を愛してるんだ!」
「ああなるほど、そう言う事か。」
「そう言う事だ!」
「それなら、おめでとう。」
「ありがとう。」
「お前も遂に結婚か。」
「僕も遂に結婚さ。」
「でも、魔女式結婚式は絶対にやめろよ!」

第六百五十五話
「空腹は最高のスパイス、孤独は効果絶大な恋の呪い」

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2018年12月26日 (水)

「第六百五十四話」

「おい!店主!」
「は、はい!?な、何でしょうか?ゴロツキ!」
「ここは、本当に酒場か?」
「馬鹿ですか?酒場ですよ!酒場に決まってるでしょ!だって、ゴロツキはここが酒場だって思って、あそこのドアから入って来たんでしょ?だったら、酒場でしょ!ここは絶対に!この佇まいは確実に!」
「ほう?酒場か。」
「酒場だ!」
「じゃあ、さっさとウォッカを出せ!」
「ない!ウォッカはない!そう何度も言ってるじゃないか!だから、ゴロツキは嫌なんだよ!何度も何度も何度も何度も!何度言っても分からないぐらい頭が悪いからな!酒を注文しないなら帰ってくれ!」
「注文してるだろ!ウォッカだ!ウォッカ!」
「だから!ないって言ってんだから!」
「あのな?店主!」
「何だ!ゴロツキ!ウォッカはないぞ!注文するなら他の酒を注文して下さいよ!」
「おい!店主!いいか?ウォッカのない酒場なんて聞いた事がないぞ?俺はな!吹雪の山を凍えながら馬を走らせてやっと!この酒場に辿り着いたんだ!分かるだろ?体がウォッカ以外受け付けないんだ!ウォッカを欲してるんだ!」
「病気か!ウォッカ病か!だったら酒場なんて来てないで医者に診てもらえ!とにかくないもんはないんだから、どうしようもないだろうが!馬鹿か?あ、ゴロツキか!」
「そうか。どうやら死にたいようだな。」
「もちろん死にたくはないが、この時代にこうしてゴロツキにこんな風に額に銃を突き付けられたら、それはもうあとは神頼みだな!神頼みしかないな!」
「で?最後に何か言いたい事はあるか?」
「ある!」
「聞いてやるから言ってみろ。」
「良いお年を!」
「ああ、お前もな。」

第六百五十四話
「そして、アンハッピーニューイヤー」

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2018年12月19日 (水)

「第六百五十三話」

「オレは、怪力だ!」
「オレも、怪力だ!」
「お前は、良い怪力か?それとも、悪い怪力か?」
「オレは、悪い怪力だ!」
「オレも、悪い怪力だ!」
「なっはっはっはっはっ!」
「くすくす。」
「おい!」
「何だ!」
「お前、本当に悪い怪力か?」
「オレは、悪い怪力だ!なぜ、疑う!」
「だって、オレが、なっはっはっはっはっ!って豪傑に笑ったのに対して、お前は!悪い怪力だって言うお前は!くすくすって、お淑やかに笑ったからだ!」
「おい!ちょっと待て!」
「ちょっと待つ!」
「悪い怪力ってのは、全員が豪傑に、なっはっはっはっはっ!って、笑わなきゃいけないのか?笑い方なんてのは、悪い怪力各々で違うもんだろ?雰囲気でモノを言うな!」
「ごめん。オレ、雰囲気でモノを言ってた!」
「許す!」
「ありがとう!お前、良い怪力だな!え?良い怪力?お前、本当に悪い怪力か?」
「オレは、悪い怪力だ!悪い怪力が、悪い怪力を許しちゃいけないのか?悪い怪力は、常にどんな事にも激怒してなきゃならないのか?」
「そうだ!悪い怪力なんだから、良い怪力みたいな事はするな!神父さんみたいな事はするな!お前は、神父さんの怪力か?」
「違う!オレは、悪い怪力だ!人の怪力をとやかく言う前に、そう言うお前こそ本当に悪い怪力なのか?」
「当たり前だ!生まれる前からオレは、悪い怪力だ!」
「だったら!今までどんな悪い怪力な事をしたんだ!」
「マンションのドアノブを全部ひん曲げてやった!なっはっはっはっはっ!」
「くすくす。それは悪い怪力だ!後はどんな悪い怪力な事をしたんだ?」
「そのマンションのエレベーターのボタンを全部押し込んで壁にめり込ませてやって、エレベーターを呼べなくして、階段を使う羽目にしてやった!なっはっはっはっはっ!」
「くすくす。それは悪い怪力だ!後はどんな悪い怪力な事をしたんだ?」
「そのマンションの住人全員と握手して複雑骨折させてやった!なっはっはっはっはっ!」
「くすくす。それは悪い怪力だ!後はどんな悪い怪力な事をしたんだ?」
「そのマンションの」
「そのマンションばっかだな!そのマンション以外の悪い怪力な事はないのか?」
「ある!」
「教えて!」
「そのマンションのオーナーの家まで行ってドアノブをひん曲げてやった!なっはっはっはっはっ!」
「そのマンション!大きな集合体で言えば、それもとどのつまりそのマンション!そのマンションに相当な恨み辛みがあったんだな!」
「特にない!」
「悪い怪力!?」
「なっはっはっはっはっ!」
「くすくす。」
「それで?オレだけじゃなくて、お前の悪い怪力っぷりを教えてくれ。」
「いいぞ!オレの悪い怪力っぷりは、お前の悪い怪力っぷりよりも悪い怪力っぷりだぞ!」
「面白い!さあ、教えろ!お前の悪い怪力っぷりを!」
「知らない町の知らない道で、知らない人を殺した!」
「え?」
「知らない町の知らない道で、知らない人を殺した!」
「え?え?殺した?」
「ああ、殺した!」
「捻って引きちぎったのか?」
「違う!」
「頭に手を置いて、思いっきり地面に向けて力を込めて、ぺしゃんこにしたのか?」
「違う!」
「抱き付いて、ぼふって口から臓器を全て吐き出させたのか?」
「違う!」
「じゃあ!どうやったの!」
「知らない町の知らない道を歩いてたら、急にお爺さんが目の前で倒れたから、心臓マッサージしたら、手がお爺さんを突き破っちゃって、そのままお爺さんの心臓は、地球の反対側から宇宙へ旅立った!」
「良い怪力!?結果的に残念な感じになっちゃったけど、心優しき良い怪力!?昔話に出て来そうな良い怪力!?」
「一週間前の話だ!」
「そう言う意味で昔話を引き合いに出したんじゃない!お前、良い怪力で、真面目怪力だな!」
「違う!オレは、悪い怪力で、不真面目怪力だ!」
「だったら、もう一つお前がした悪い怪力エピソードを教えろ!」
「はい!」
「良い返事で真面目返事!?やっぱり、良い怪力の真面目怪力だろ!」
「ボクは、悪い怪力だ!」
「ボク!?ここへ来て、ボク!?」
「ボクのこの取って置きの悪い怪力っぷりエピソードを聞いてもまだ、そんな事が言ってられるかな?」
「良い怪力っぷりのニオイがプンプンするぞ?」
「ボクはな!さっきまで、ボクの事をオレって言ってたんだ!」
「怪力どこ行った!?」
「言ってたんだもん!」
「お、おい!泣くな!良い怪力!」

第六百五十三話
「泣いた良い怪力」

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2018年12月12日 (水)

「第六百五十二話」

「おい!」
「え?」
「振り向くな!」
「え?」
「振り向くな!」
「なぜ?」
「振り向こうとするな!」
「え?」
「すんなっての!」
「え?」
「逆に、え?だよ!何なんだよ!分かるだろ?背中に当てられてるもんが?」
「キュウリ?」
「銃だ!」
「ナス?」
「銃だ!」
「マルゲリータ?」
「お前ふざけてんだろ!」
「ふざけてません!」
「ふざけんな!ふざけてなかったら、背中に銃を当てられてて、マルゲリータなんて言わないだろ!」
「こ、こう言うの初めてで、ききき緊張して、パパパパニック状態なだけです!」
「棒読み!?絶対ふざけてんだろ!」
「違います!あまりのパニック状態に棒読みになっちゃっただけだもん!」
「言い方!?お前な?分かってんだろうな?俺がこの銃の引き金を引けばどうなるか?」
「ハトが出る?」
「マジシャンか!俺は!」
「引いたカードを言い当てる?」
「だからマジシャンか!俺は!」
「マジシアーン?」
「トレビアーンみたいな風に言うな!」
「あのう?一つ伺ってもいいですか?」
「何だ!」
「あの助手の女の人を台の上の箱の中に入れて、大きな、とても日常生活では使用しないような、とても大きな刃物で切断して、クルクルクルクル切断した助手の美人の女の人を回した後に元通りにする例のマジックって、どうやってるんですか?」
「何を伺ってんだ!俺はマジシャンじゃない!で、例えマジシャンだったとしても答える訳がないだろ!」
「ケチかよ!」
「おい!お前この状況が分かってんのか?この銃の引き金を引けば、お前なんて簡単に殺せるんだぞ?」
「痛い!ググってされたら痛い!」
「そりゃあ!お前が訳の分かんない事を言うから多少は、ググってするだろ!」
「貫通して死ぬ!」
「死ぬかよ!銃で何でそんな殺し方すんだよ!そんな力があるなら、銃なんて使わないで、拳だけで十分だ!」
「あのう?怒ってる途中申し訳ないんですけど?」
「怒ってる途中でそう言う事を言い出すの社会人としてどうかと思うが、何だよ!!」
「鼻の頭が物凄く痒いんですけど?」
「髪の毛切りに来たんじゃねぇんだよ!」
「いえ、今のは特殊メイクでゾンビになってる途中の感じです!あのストローで水を飲んでる感じです!」
「そんなの分かるか!で、何でちょっとイラッとして背中押し返す?死にたいのかよ!」
「死にたいのか死にたくないのかを聞かれたら、死にたくないに決まってるでしょうが!でも、イラッとしちゃったんだから、仕様がないで仕様が!人間そんなに高性能に出来てませんよ!そんな高性能に出来てるんなら、人間なんてやってませんよ!」
「物凄く怒って来んじゃん!そして、物凄く意味不明な事を口走って来んじゃん!」
「はい。」
「手を挙げるな!」
「これから物凄く奇妙な質問をする事をお許し下さい。」
「さっきから奇天烈な事ばっかだけどな!」
「なぜ?背中に銃を当てられてるのでしょうか?僕は?」
「ある意味、急展開でびっくりだよ!」
「いや、僕もそんなに暇な訳じゃないんで、貴方と遊んでる訳にはいかないんですよ。これから家に帰って右手の指紋迷路をしなきゃならないんです。」
「果てしなくどこまでもとことん暇人!?」
「それも右利きの僕がですよ!どうなるんですか!脱出出来るんですか!この迷路!」
「その常人には理解不能な変な雰囲気の興奮やめてくれるか?」
「ではなぜ!僕は、背中に銃を当てられなきゃならないのか教えて下さい!もしくは!どうすれば世界が平和になるのか教えて下さい!あと!」
「まだあんのかよ!」
「もう何年もビンの蓋を開ける事が出来ないピクルスがあるんですけど、そろそろ捨ててもいいでしょうか!」
「なぜその質問をこの状況で俺にぶつけて来た?」
「子供の頃から!」
「逆にそんなに大事にしてるもんを俺の判断に委ねていいのか?」
「もう誰かの判断に委ねなければ、捨てるに捨てられないんです!そう言うのってあるでしょ!誰でも一つや二つどんなに努力しても開けられない蓋ってあるでしょ!」
「ねぇよ!」
「助けて下さい!」
「俺の台詞だ!」
「そんなのマンションの屋上から落として割っちゃえばいいじゃん!」
「ならそうしろよ!何で俺が蓋を開けられないで助けを求めてる事になってんだ!お前の、あと、に付き合わされてる事への助けだ!」
「はい。」
「だから、いちいち手を挙げんなよ!」
「いいですか?そんな銃で人を殺しても意味なんてありません。」
「今度は説得しようとしてんのか?」
「人を殺すなら毒でしょ!苦しんで苦しんで苦しんで死んで行く様を見ないと!快楽は得られませんよ?」
「ここがカウンセリングのクリニックじゃなくて良かったよ!」
「さあ!この毒を使いなさい。」
「うがい薬じゃねぇか!」
「その毒を使って僕を殺しなさい。」
「のどのイガイガが解消されるだけじゃねぇか!」
「それだけじゃない!」
「他にも何かあんのか?」
「のどのイガイガが解消される!」
「言ったよ!」
「あと!目に入れると目のイガイガが解消される!それと!ケンカしてる恋人達に入れるとケンカしてる恋人達のイガイガが解消される!」
「何でそこら中、イガイガだらけなんだよ!」
「そろそろ教えてくれませんか?なぜ僕は背中に銃を当てられてるんですか?」
「どの口が、さも俺が原因でこの状況が生まれてるみたいな事を言ってんだ?」
「マジシャンなんでしょ?そろそろタネを明かしたらどうです?」
「マジシャンじゃねぇって言ってんだろ!教えてやるよ!いいか?お前はさっきこの銃で俺に撃たれたんだよ!心臓をな!でも、倒れてしばらくしたら、ムクって立ち上がって何事もなかったかのように呆然と立ち尽くす俺の前を通り過ぎてったから、慌てて追い掛けて来た俺に、背中に銃を当てられてんだ!いいか?今度は、頭を撃ち抜くからな!」
「不死身か!」
「お前がだ!」

第六百五十二話
「この男、殺せたら億万長者」

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2018年12月 5日 (水)

「第六百五十一話」

「・・・・・・。」
(クスクス笑い)
「・・・・・・。」
(クスクス笑い)
「・・・・・・。」
(笑い)
「おしっこ我慢してんの?」
(大笑い)
「してねぇよ!壁の色を変えようと思ってさ。」
「何で?いいじゃない。この壁の色。ボクは好きだな。」
「だからだよ!」
「あのさ?前々から聞こうと思ってたんだけどさ?」
「何だよ。」
「ボクの事、嫌い?」
「・・・・・・。」
(笑い)
「・・・・・・。」
(笑い)
「・・・・・・。」
(笑い)
「やっぱり、おしっこ我慢してんの?」
(大笑い)
「してねぇよ!」
「なら、金魚を出そうとしてんの?」
(大笑い)
「壁の色をどうしようかこうしていろいろな角度から部屋を見てるだけだ!」
(大笑い)
「で?」
「何?」
「だから、ボクの事、嫌い?」
「何でそんな事を聞くんだよ。」
「だって、この家にシェアして来てから、ことごとく色々なところを変えてるじゃん?部屋のドアとか、部屋のカーペットとか、挨拶とか。」
「それは、個人の趣味嗜好だろ?お前は、小説家、オレは、ミュージシャン。お前自身を好きとか嫌いとかの話じゃない。自分のテイストでやりたいんだよ。そうしないと心に響く音楽が作れないんだよ。同じ創作活動してるんだから、そこら辺は理解出来るだろ?まあ、おはようおやすみの時に抱き合うって言うのは、どうかと思うけどな?」
「まあ、確かに、それぞれの趣味嗜好や生い立ちがあるもんな。」
「金のないオレに、小学校から親友のお前が自分の家を提供してくれたのは、感謝してる。」
(感嘆)
「お互いまだ、プロにはなってないけどね。」
「それでも諦めかけたオレを奮い立たせてくれたのは、お前だ。ありがとな。」
(感嘆)
「こちらこそだよ。おお!友よ!」
(笑い)
「だから、抱き付くなっての!」
(笑い)
「ああ、ごめんごめん。で?どんな壁の色にしようっての?」
「そうだな?このオーソドックスで平凡な壁をお花畑の壁にする!」
(笑い)
「前々から聞こうと思ってたんだけどさ?」
「またかよ。何だよ。」
「ロックミュージシャンなんだよな?」
(笑い)
「それもガチガチのな!」
「そのたまに出て来る乙女チックな趣味嗜好が創作活動の邪魔してんじゃないの?」
(笑い)
「いいんだよ!それで、お前に迷惑掛けてるか?掛けてないだろ?お前だって、ロックミュージシャンみたいな格好してんじゃん!それが創作活動の邪魔してんじゃないのか?」
(笑い)
「いいだろ?お前に迷惑掛けてないだろ?ボクの趣味嗜好!」
(笑い)
「そうだよ!掛けてない!だから、お互いに自分のスタイルを貫き通して、オレはロックミュージシャンを志す!お前は、恋愛小説家を志す!」
「そうだな!」
(笑い)
「おっとっとっ!抱き付きはなしだ。」
(笑い)
「どうしても?」
「どうしてもだ!」
(笑い)
「ダメ?」
「ダメ!」
(笑い)
「一生のお願いでも?」
「その一生のお願いは、先週のお前の誕生日に叶えただろ?」
(笑い)
「じゃあ、お前流のやり方にしよう!」
「お姫様抱っこしてくれんのか!」
(大笑い)
「いや、やっぱりやめよう。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「「握手だな。」」
(笑いと拍手)

第六百五十一話
「パイロット版」

「あ、そうだ!言い忘れてたんだけど、来週から妹もここで暮らす事になったんだけど、いいよな?」
「そりゃあ、お前の家なんだから好きにすればいい。って、妹!?あの引きこもりの写真家の!?」
(笑い)
「よーし!これからもっと楽しくなるぞー!」
(笑い)
「先が思いやられるな。」
(笑い)

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2018年11月28日 (水)

「第六百五十話」

「ちょっと!何でディフェンスすんのよ!」
「ディフェンスしたら悪いか?」
「おじさんね!これ、犯罪だよ!」
「犯罪?お嬢さん?それは一体どんな犯罪だ?」
「ディフェンス罪よ!ディフェンス罪!」
「ディフェンス罪?聞いた事ないなぁ?そんな罪は?」
「いい?如何なる理由があったとしても、何人も人の道を塞いじゃいけないの!ディフェンスしちゃダメなの!それを破れば罪になるの!ディフェンス罪になっちゃうの!」
「ほう!そんな法律が?」
「ディフェンス法よ!知らないの?」
「知らない。」
「おじさん?よく、おじさんになれたね?」
「健康管理に気を付けてれば、男子いつかはおじさんになる!」
「はいはい、どうでもいいからディフェンスやめてくんない?急いでるの!」
「お嬢さん、そんなに急いでどこへ行く?」
「何で、知らないおじさんに言わなきゃなんないの!」
「お嬢さん?そんなに急いでどこへ?」
「だから!何でそんな事をわざわざ知らないおじさんに言わなきゃいけないのよ!」
「知らないおじさんにだからこそ言えるって事もあるだろ?」
「それはだいぶ特殊な状況下だと思うけど?」
「占いとか?」
「そう!」
「カウンセリングとか?」
「そう!」
「面接とか?」
「そう!って、特殊な状況下を掘り下げなくていいの!」
「こうは考えられないか?おじさんは、お嬢さんの命を守る為に、こうして両手を広げて行く手を阻んでいる、と。」
「いや考えられないよ!単に頭の中のネジがどうかしちゃったおじさんが、こんな事してんのかなって考えちゃうよ!あのね?おじさん?いい?アタシ、洋服を買いに行くの!だから、急いでこの先の駅前のお店に行かなきゃなんないの!分かる?セールなの!前々から欲しかった洋服がセールなの!」
「おじさんは別にそんな服は欲しくないな。」
「何でおじさんの為に、わざわざアタシがワンピースを買うのよ!アタシがって言ってるでしょ!とにかくそこをどいて!」
「いいや、どかない!」
「何でよ!何の権限があってディフェンスしてんのよ!いい?さっきから言ってるけど、こんなとこを警察の人に見付かったら、おじさん逮捕されちゃうんだよ?いいの?即逮捕だよ!」
「それが運命だと言うなら、おじさんはその運命に従うまでだ。」
「抗えよ!おじさん!」
「お嬢さん?おじさんはね?抗う事に疲れてしまったんだよ。」
「どんな人生よ!」
「おじさんが生まれた年は丁度」
「いい!いいから!おじさんの人生を掘り下げなくていいの!お願いだからディフェンスしないで!」
「お嬢さん?お嬢さんの言ってる事が本当だとしてだ。本当にそれでいいのかい?幸せになれるのかい?」
「いいに決まってんじゃん!幸せになれるに決まってんじゃん!前々から欲しかったワンピースがセールなのよ?」
「洋服の話じゃない。」
「じゃあ、何の話?」
「ディフェンスの話だ。如何なる理由があったとしても、何人も人の道を塞いではいけないと言うディフェンス法の話だ。そんな世の中が、本当にいいと思うか?幸せだと思うか?」
「頭のいい大人の人達が決めた事なんだから、そうなんじゃないの?それに!現にアタシはディフェンスされて、不幸だもの!洋服を買いに行けないんだもの!ディフェンス法は正しかったと言わざるを得ないでしょ!」
「お嬢さん?おじさんはね。基本的に法は守らなければならないって考えだ。」
「当たり前の考えを当たり前に言葉にしなくても良くない?」
「だが!!」
「急に大声とかやめてよ!?」
「法を守って人を見殺しにするなら!そんな法なんてクソ食らえ、だ!」
「何?何なの?ここで、おじさんがアタシをディフェンスしなかったら、アタシが殺されるって言いたいの?」
「だいぶ前に、そう言ったじゃないか。」
「マジ?あれ、マジだったの?ギャグじゃなくて?」
「ギャグで法を犯すほど、おじさんは愚か者じゃない。」
「それが大マジなら、おじさん、何者?何でアタシが殺されるって分かるの?」
「説明法を知らないのか?」
「何それ。」
「如何なる理由があったとしても、何人も人に説明をしてはならない。」
「法の根底を覆す法ね。」
「それと!お嬢さんが欲しがってるワンピースは、セール対象外だ!」
「なんと!?」

第六百五十話
「法」

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2018年11月21日 (水)

「第六百四十九話」

「はあ、はあ、はあ、もっと速く!」
「はあ、はあ、はあ、無理よ!」
30代後半の男が、20代前半の女の手首を掴み、何かから逃げるようにして、トンネルの中を走っている。
「頑張れ!」
「もう無理!」
「頑張れ!!」
「いやもう、頑張れって言われて、どうこう出来るレベルじゃないんで!」
女は、止まった。
「はあ?おい!何で止まるんだよ!」
「何で?何でって、止まるでしょ!普通!一体どんだけ休憩無しで逃げ続けてると思ってんの!」
「まだ、数時間。」
「3時間!3時間よ!普通に3時間動き続けるのだって今日はよく眠れるレベルなのに、逃げ続けてんのよ?逃げ続けるって通常よりも疲労度アップなのよ?それを3時間?もう、動けない!」
「おい!そんな泣き言だったら走りながら聞く!いいから走れ!」
「自動追跡型爆弾って一体何なの!」
「いいか?もう既にここまで来てるかもしれないんだぞ?とにかく走らないにしても歩け!」
「説明してくれなきゃ歩かない!」
「分かった。歩きながら説明する。だから、歩いてくれ!」
「・・・分かった。」
男は女の手首を掴んでいた手を放し、歩き出した。女もその後を歩き出した。
「何が聞きたい?」
「その自動追跡型爆弾って何なのって事から聞きたいけど、まずはアナタ何者なの?」
「オレは、罪悪感から逃げ出した男だ。」
「はあ!?いや、いやいやいや、説明になってないってば!」
「自動追跡型爆弾、それ自体に名前は存在しない。なぜ、名前が存在しないかは、誰も名前を付けたがらなかったからだ。研究者も政府の偉いさんもだ。」
「それって、かなりヤバい物って事?」
「いや、人類にとって必要な物だ。だが、必要過ぎてヤバ過ぎる物とも言えるかもな。だから、誰も名前を付けたがらなかった。もし、名前を付けてしまえば、名付け親として後世まで残ってしまうからな。」
「必要過ぎてヤバ過ぎるって何?そんな物なんて存在すんの?」
「自動追跡型爆弾とは、文字通り自動で追跡して爆発する爆弾だ。」
「それぐらいは分かるわよ。」
「ヤバ過ぎるのは、その自動追跡能力だ。」
「能力?」
「絶対に逃げられない!」
「何それ!どう言う事?戦争でもするつもりで開発したって言うの!」
「実は、自動追跡型爆弾が、いつ完成したのかは、誰にも分からない。」
「誰にも分からないって変でしょ!作った人間がいるんでしょ!」
「それも分からない。本当に誰かが作り出した物なのか、或いは宇宙からある日突然落ちて来たのか?位置付けとしたら、ユニコーンやドラゴンなんかの伝説上の存在に並ぶ。」
「何を言ってるの?」
「つまりは、何もかもが謎なんだ。」
「ちょっと待って!アナタ、アタシの事を誘拐しようとしてんの?」
「そんな訳ないだろ!オレは、キミを助けようとしてるんだ!自動追跡型爆弾から!」
「だって、おかしいじゃん!全てが謎なら、どうして存在してるって言うのよ!頭がおかしいの?」
「そのままオレもあっち側の世界にいたら、もしかしたら頭の中が正常ではいられなかっただろう。自動追跡型爆弾が謎だらけだとは言ったが、1つだけ謎ではない部分がある。使い方だ。」
「え?」
「言っただろ?人類にとって必要な物だ、と。必要過ぎる物だ、と。」
「どうやって使うの?」
「実際には、使い方ではない。使い道だ。オレ達は、自動追跡型爆弾がランダムで選び出した人物の死を見届ける。ただ、それだけの仕事だ。」
「どんな仕事だ!」
「この仕事がいつから始まったのかは不明だ。」
「また、謎。」
「そうだ。ほぼ全てが謎だ。その部屋にはモニターがあり、そのモニターにはターゲットが映し出される。ただ、それだけだ。」
「それだけ?」
「後は病院に足を運び、ターゲットの死を確認する。そしてまた、モニターがある部屋に戻り、次のターゲットが映し出されるのを待つ。」
「どんな仕事だ!え?ちょっと待て!病院って言った?」
「ああ、病院だ。」
「爆弾って、爆死よね?そんな木っ端微塵の死体も病院に運ばれるの?そもそもそんな木っ端微塵の死体を特定出来るの?ああ、でもまあ、今はDNAとかで特定出来るのか。それでも全てのケースを病院で特定なんか出来ないんじゃないの?」
「木っ端微塵にはならない。」
「え?何でよ!」
「自動追跡型爆弾は、人間の鼻から入り込み、脳で爆発する。」
「思ってた爆弾と違う!?」
「そうだな。」
「何で笑うのよ!」
「自動追跡型爆弾は、気体だ。」
「そんなバカな!って、だから何で笑ってんのよ!」
「初めて聞かされた時のオレと同じ反応をするなと思ってな。」
「絶対みんな同じ反応をすると思いますけど?」
「いいか?肝心なのは、ここからだ。つまり、自動追跡型爆弾は、風で移動する。風に乗りターゲットに近付くって訳だ。」
「で、最後にはターゲットが鼻から吸い込んじゃう。」
「そうだ。」
「どうやって防ぐのよ!アタシに鼻から呼吸するなって言うの!」
「そうだ。」
「無理でしょ!起きてる間なら意識して出来るかもだけど、寝ちゃったら確実に鼻で呼吸しちゃうって!」
「だから、オレ達は向かってるんじゃないか!」
「どこへ!」
「キミの鼻の穴を石膏で埋める!」
「絶対に嫌だ!それで一生生きて行けって言うの!」
「死ぬよりかはいいだろ?もしかしたら、オレのやろうとしてる事は、人類のバランスを崩してしまうかもしれない。」
「どう言う事?」
「言っただろ?人類にとって必要な物だ、と。人口のバランスを保っているのさ。自動追跡型爆弾はな。」
「何で笑いながら最重要事項を語っちゃってんの?」
「いや、鼻の穴に入れた石膏を肌と同系色にすれば、と思ってな。」
「そう言う問題じゃない!」

第六百四十九話
「ターゲットが変更されました」

その部屋のモニターには文字と同時に男性の顔が映し出された。

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2018年11月14日 (水)

「第六百四十八話」

「先生、とても美味しそうなオムライスが完成しましたね。」
「完成?まだ、完成ではありません。」
「もう一手間何か加えるんですか?」
「最後の仕上げに、オムライスをボウガンで撃ちます。」
「はい?」
「行きますよ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!?先生!?」
「何ですか?」
「せっかく作ったオムライスをボウガンで撃つんですか?」
「そうです。ボウガンで撃つ事によって、凄くオムライスが美味しくなるんです。」
「どう言う原理ですか?」
「どう言う原理かは、私も全く分かりません。でも、ボウガンで撃つ事によって、オムライスは確実に凄く美味しくなるんです。」
「でも、ボウガンでオムライスを撃ったりなんかしたら、飛び散るんじゃないですか?」
「飛び散りますよ。もちろん飛び散ります。でも、その飛び散りがいいんです。その飛び散りがいいんじゃないですか。」
「いや、その飛び散りの一体何がいいのか僕には分かりません。僕は、このままこのオムライスを食べた方が確実に美味しいと思うんですが?」
「そこが、素人と料理研究家との違いです。オムライスは、ボウガンで飛び散らかした方が絶対に美味しいんです。」
「オムライスが飛び散らかした方が美味しくなるなんて、初めて聞きましたよ。なら、ボウガンじゃなくて拳でもよくないですか?拳でオムライスを飛び散らかせばいいじゃないですか。その方が何かよくないですか?何となくよくないですか?」
「よくないです!!ボウガンで、です!いいですか?生で食べられる全ての食材は生で食せばいいのに、焼いたり煮たり干したりと、いろいろと手を加えますよね?それはなぜか?それは、より美味しくその食材を食したいと言う人間の探究心です。」
「それとこのオムライスをボウガンで撃つのとが同じだって言うんですか?」
「そうです!ボウガンがいいんです!いや、ボウガンじゃなきゃダメなんです!私は、料理研究家です!料理人なら、普通にオムライスを作るまでで止めればいい!でも、料理研究家はそこでは止まれない!料理には、ある種の人間の破壊衝動が隠されていると私は考えています!いえ、食する行為事態そのものが破壊衝動なんです!そこを探究してしていくと究極の仕上げは、武器による破壊!私は、あらゆる武器と言う武器でオムライスの仕上げを試しました。」
「えっ?」
「こちらがトンファーで仕上げたオムライスです!」
「先生?」
「トンファーではあまりにも強過ぎる!」
「これらがヌンチャクで仕上げたオムライスです!」
「ちょっと先生?」
「ヌンチャクでは仕上がりにムラが出来る!」
「こちらが三節棍で仕上げたオムライスです!ご覧の通りただのオムライスです!三節棍は扱いにくい!とにかく扱いにくい!」
「なぜマイナー武器をチョイスなんでしょう?」
「ロケットランチャーやバズーカやショットガンやマシンガンももちろん試しました!」
「試したんですか!?ニュースになっちゃいますよ?いや、それ以前になぜそんな多くの武器を所有してるんですか?」
「そして偶然辿り着いたのがボウガンです!」
「どう言う状況なんでしょうか?なぜ、ボウガンが偶然で、三節棍が必然なんでしょうか?」
「とりあえず言いたい事は!食してから言ってもらいたいもんです!」
「これは何なんでしょう?僕は今、一体どんな状況下なんでしょうか?オムライスを作った料理研究家が、そのオムライスをボウガンで撃とうとしている!これはもう、パニックですよ!パニック以外の何ものでもありませんよ!」
「えい!」
「あっ!?」
「さあ、残さず召し上がれ!」
「飛び散りもですか?」
「その飛び散りが美味!」

第六百四十八話
「武器メシ」

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