2009年11月25日 (水)

「第百八十話」

「食べんの?食べないの?」
「お姉ちゃん?」
「何よ!」
「何を?」

第百八十話
「マルゲリータ」

「パパとママは今日、結婚記念日で、2人きりのディナーに出掛けたの。」
「知ってる。だって、それって、僕とお姉ちゃんからのプレゼントだもん。」
「そう。お陰で、アタシ達の今月のおこずかいは、全てパーよ。でもまっ、パパとママが喜んでくれるなら、オールオッケー。うん、何も問題ないわ。」
「そうだね。」
「で、アタシ達は2人、寂しくディナーの時間って、わけ。」
「知ってる。」
「テーブルの上に新しいテーブルクロス。その上に、お皿とコップ、スプーンとフォークとナイフ。アタシ達は、いつも通り向かい合って座ってる。」
「うん。」
「でもどう?パパとママ達は、きっと今頃、メインディシュが目の前に運ばれようとしているってのに、何でアンタは、アタシの料理に手をつけようとしないの!食べる気ないわけ!」
「お姉ちゃん?」
「何よ!」
「だから、さっきから何回も言ってるけど、何を?」
「決まってるでしょ!ソノ何かをよ!」
「コノお皿の上に乗ってるヤツ?」
「当たり前でしょ!食べんだから、お皿の上に乗ってるヤツじゃない!それを何で、わざわざお皿の上に乗ってないヤツを食べんのよ!アンタ死にたいの!」
「・・・・・・・・・。」
「それといい?赤よ!お皿の上の赤いソレを食べんのよ!緑と黒のソレは、彩りのためだけだから、絶対に口に入れちゃダメよ!ちょっとなら?ちょっとだけなら?とかって、甘い考えは禁物よ!緑と黒のソレが赤いソレに触れないように、そ~っと食べるのよ!」
「うん、知ってる。その注意もお姉ちゃんから何回も言われたからね。」
「ええ、そうよ?アタシも5回目ぐらいまでは数えてたけど、今のでもう何回目かなんて、覚えてないわ。」
「このコップの中の何かも飲んだらダメなんでしょ?」
「そうよ。」
「絶対にコップに触ってもダメなんでしょ?」
「分かってるじゃない。いい?赤いソレは、物凄く喉が渇く!でも、パニックにならないで!いい?パニックは、ディナーの1番の敵よ!ならどうすればいい?この喉の渇き、いったい何で潤せばいい?雨を待つ?いいえ!雨を待つ間に、喉の渇きであの世にゴーだわ!雨はダメ!だったらどうすればいい?どうやって喉の渇きを?」
「スープ。」
「そう!スープよ!アタシ達には、この何かを!時間掛けて、グツグツコトコト煮込んだ透明なスープがある!これを飲んで喉の渇きを潤せばいい!それで、オールオッケー!うん、何の問題もないわ!」
「いくらなんでも、透明過ぎない?」
「ええ、そりゃあモチロン透明なスープですもん。透明過ぎるぐらいが、いいぐらいよ!」
「お姉ちゃん?でも、僕にはスープがあまりにも透明過ぎて、何も見えないよ。すくってもすくっても、何も滴り落ちないよ。ほら?」
「まったく、あまりにも透明なスープが美味しすぎて、一気に飲み干しちゃったのね?」
「違うよ。」
「はあ、やれやれ、お代わりが欲しいなら、素直にそう言えばいいのに!ほら、お皿貸して!」
「お姉ちゃん?」
「ほら!スープがなかったら、赤いソレの喉の渇きで、渇き死にしちゃうんだから、貸しなさいって!」
「お姉ちゃんっ!!」
「なっ!?何よ!?いきなり!?ビックリするじゃない!」
「お姉ちゃん!」
「何よって!」
「お姉ちゃん!!」
「だから!何よって!」
「何っ!何なのこのディナー!」
「ディナーよ!」
「ディナーじゃないよ!」
「はあ???どっから、どう見てもディナーじゃない。」
「こんなのディナーじゃないよ!」
「ふぅ~、何を言い出すのかと思ったら、やれやれね。」
「僕、嫌だよ!」
「あのね?いい?これから先、アンタは、なが~い人生を生きてくの。そしたらこの先、ず~っと、パパとママとアタシとアンタの4人で、ディナーを囲んでく事なんて不可能なの。自然と囲まない事の方が多くなってくの。それはもう、どうしようもない事なの。でも、泣かなくていいわ。」
「泣いてないよ。」
「大丈夫、安心して、アンタにもそのうち家族が出来て、幸せにディナーのテーブルを囲む素敵な毎日がやって来るわ!そして、アンタの子供達もいつの日か、結婚記念日の夜に、アタシ達と同じような事をして、アンタと同じような事を想うはずよ。こうして、ディナーってのは受け継がれていくモノなの。ねっ?だからもう泣くのはやめて、ディナーを食べましょ!」
「だから、僕は泣いてないって!」
「あそうっ。うん、それは良かったわ。なら、ディナーを食べましょ!」
「食べないよ!食べないよって言うか!食べれないよ!お姉ちゃん!」
「何よ!」
「お姉ちゃんは、いったい何を作ったの?この赤や緑や黒や・・・・・・ああもう!この色とりどりなお皿やテーブルの上にいっぱいある何かは、何っ!!食べたら死ぬとか、飲んだら死ぬとか、触っただけでも死ぬとか!ディナーって、そんなに死と隣り合わせなもんじゃないよ!!」
「・・・・・・・・・。」
「な、何だよ。急に顔近付けたりして、何?」
「いい?ディナーは、死と隣り合わせなの。」
「そんなわけないだろ!」
「そんなわけ、あるの。」
「だったら、お姉ちゃんから先にソノ赤いヤツを食べればいいじゃないか!何で僕にばっかり進めるんだよ!何これ?斬新な殺人ゲーム?」
「やれやれ、アンタ、つまんない小説の読みすぎなんじゃない?殺人ゲームですって?バカバカしい。んなわけないでしょ?アタシがアンタを殺して、いったい何のメリットがあるのよ。」
「だったら、ほら!早く赤いソレを食べてよ!お姉ちゃんが赤いソレを食べて、ソノ透明なスープで喉の渇きを潤したとこを見たら、僕も食べるよ!」
「分かったわよ!よ~く見ときなさいよ!」
「うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「お姉ちゃん?」
「何よ!今から食べんだから、話し掛けないでよ!赤いソレが緑と黒のソレに触れたらどうすんのよ!」
「フォークとナイフを持つ手、震えてるよ?」
「ああーっ!もう!うるさいわねっ!集中出来ないじゃない!それとも何?アンタは、アタシを殺す気なわけ?」
「殺す気なんてないよ。ただ僕は?」
「ただ何よ!」
「ピザでも注文しない?って、思っただけだよ。」
「それも悪くないかもね。うん、何も問題ないわ。」

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2009年11月18日 (水)

「第百七十九話」

 僕が喫茶店でコーヒーを満喫しながら、まったりとしていると、結構なキャパだけど、今は客数の少ない時間帯なはずなのに、僕の真横の席に怪しい男は、座った。怪しいって言うのは、アッチの意味じゃなくて、その黒い背広にサングラスと言う容姿のコッチの意味だ。まるで、シークレットサービスのようじゃないか。でも、男はシークレットサービスではないはずだ。だって僕は、特に警護されるような地位でもないからだ。でも仮に、両親のどちらか一方が、或いは両方が、シークレットサービスを僕の為に雇ったのであれば、真横の男は間違いなくシークレットサービスだ。って、真横の怪しい男の妄想で、結構な時間の無駄を費やした僕は、再びコーヒーを口に運び、まったりとしながら現実へ戻る事にした。だいたい、こういった状況なんて、喫茶店に何度も来ていれば、何度も体験するような事なんだ。真横に座る人間をいちいち気にする事なんてない。
「ブレンドコーヒー。」
真横の怪しい男が、ウェイトレスに注文を終えると、ギュイッと僕の方に顔だけ向けて、ニタッと笑ってこう言った。
「似てるよね~。」
「はい?」
「ああ、申し遅れました。私は、こう言った感じの者です。」
そう言うと、怪しい男は、顔はそのままで、スーツの内ポケットから取り出した手帳を僕に見せて来た。予想もしないこの展開に内心、僕は少し、いや、凄く驚いた。
「指名手配局?」
怪しい男の怪しい手帳には、怪しくそう書かれていた。
「似てるよね~。」
「何がですか?」
「我々が属する国の裏機関、指名手配局とは、つまりですね。」
そこで一旦、男は話を止めた。なぜなら、男が注文したコーヒーをウェイトレスが運んで来たからだ。そして僕は、この間に思った。何か物凄く聞いてはならない話題を今、僕は聞いてしまっているのではないか?と。でも、男が勝手に顔を向けて聞かせているだけだから、どうしようもない。僕は、出来るだけ男の方を見ないように、正面を見ていた。だって何か、背筋を伸ばして、顔だけこっちに向けて喋っている様が、異様に恐いし気持ち悪かったからだ。
「つまりですね。指名手配犯を見付けて、場合によっては、その場で射殺する機関です。」
サラッと、サラッと何かとんでもない事を言いましたよ?ズズズッと、ズズズッとコーヒーを飲んでいますよ?
「そうですか。」
「そうなんですね。」
「で?その指名手配局の人が」
「シーッ!」
「えっ?」
「あまり口にしないで下さい。何せ我々は、裏機関なのでね。」
それは分かったけど、僕の口元にわざわざ人差し指をスッと伸ばして当てるこれは、分からなかった。逆に端から見れば、よっぽど目立つ光景だと思う。
「で、そこの人が、僕に何の用なんですか?」
「最重要事項が発生しない限り、我々が一般人に話し掛けると言う行為は、ありません。」
「最重要事項?って、この指、もうどけてもらってもいいですか?」
「ああ、失礼。最重要事項とは、対象が、指名手配犯だった時を指します。」
「はあ?」
「似てるよね~。」
「ちょっと待って下さいよ。」
「待ちません。」
「いや、待って下さいよ。」
「待ちませんよ。」
「僕の話を聞いて下さいよ。」
「イヤだ。」
おいおいおい、これはだいぶ複雑に絡み合った面倒臭い事態へ巻き込まれちゃったみたいだぞ?
「首振りを止めて、お願いですから、少しだけ僕の話に耳を傾けて下さい。」
「少しだけですよ。さあ、どぞ。」
ち、近い。
「そんなに傾けなくても、大丈夫ですよ。」
「そうでしたか。」
この人、本当に裏機関の人なんだろうか?いろいろな様が滑稽過ぎだろ。
「話さないんですか?」
「話します話します。」
「単刀直入にお願いしますよ。」
「単刀直入に言いますけど、貴方は勘違いしています。僕は、指名手配犯ではありません。」
「なるほどね。そう来ましたか。なるほどなるほど。教科書通りですね。」
「いや、誤魔化そうとかしているんじゃなくて、本当に僕は、指名手配犯じゃないんですよ。」
「こんなに似てるのに?ですか?」
サササッと、男が差し出した写真の中の人物は、確かに僕とそっくりだった。でも、ただそれだけの事だった。
「確かに似ています。似ていますが、別人です。」
「私の誤認だと?」
「残念ですけど、今回はそうみたいですね。」
「私は、こう見えて裏機関の人間です。そして、こう見えて裏機関のエリートです。尚且つ、こう見えてエリート中のエリートなんです。」
ある角度からは、どんな風に見えてるんだよ。
「まあ、その辺は僕にはよく分かりませんけど、エリートだろうが、エリートじゃなかろうが、誰でも間違ったりしますよ。みんな同じ人間なんですから、間違いますって。」
「外に車を待たせています。」
「僕の言った結構、良さげな言葉、聞いていました?」
「聞いてましたよ?」
「だったら、どうして僕を連れて行こうとするんです。」
「いや、続きは車の中で、じっくりと聞こうかなと思って。」
「いや、車に乗ったら最後、僕は監獄暮らし決定じゃないですか。」
「いえ、即死刑です。」
「写真のコイツとんでもないヤツなんじゃないですか!」
「知ってるくせに!」
「止めてもらえません?そうやって、肘で脇腹辺りをツンツンするの?僕は写真の人物じゃないって、言ってるでしょ。」
「じゃあ、コイツは、いったい何処にいるって言うんですか!」
「知りませんよ!とにかく今、初めて僕は、僕に似てる指名手配犯の存在を知ったんですよ!だいたい、それを調べるのが貴方達の仕事でしょ!」
「似てるよね~。」
「だから、似てるよ!似てるけど、違うからね!」
「あっ、声を荒げた!」
「いや、追い込まれたから荒げたとかじゃなくて、単に疑いを掛けられてイライラしただけですよ。だいたい、さっきからちょくちょく荒げてましたけどね。」
「そうだ。こう言うのは、どうです?」
「何ですか?」
「間違ったお詫びに、私がここのお代を持ちます。」
「いや、いいですよ別に。」
「いやいや、遠慮しないで下さい。ご迷惑をお掛けしてしまったんですから、ねっ?」
「そうですか?」
「で、お詫びついでに、ご自宅まで、我々の車でお送りします。」
「いや、引っ掛からないからね?そんな分かりやすいトラップに、引っ掛からないからね?」
「チェッ!」
「露骨かよ!もう、僕じゃないって分かったんだから、僕に構わず早く本物を捜しに行けばいいじゃないでか!」
「一緒に行く?」
「いいよ?じゃあ、一緒に車に乗って、行くとするよね?でもね?貴方だよ?恥じかくの貴方の方だからね?みんなの笑い者だよ?何がエリート中のエリートだよ!って言われて、抱腹絶倒されちゃうんだよ?」
「そん訳ないだろ!」
「あるだろ!僕は、男だろ!!」

第百七十九話
「指名手配の女」

裏機関の男が去ったあと、僕はこのイライラした気持ちを落ち着かせ、さっきの出来事をリセットして、再びゆっくりと満喫しながら、まったりとしようと、すっかり冷めてしまったコーヒーを入れ直してもらう為に、店員さんを呼ぼうと、手を上げた。
「お待たせしました。」
「すいま・・・・・・・・・。」
「コーヒーのお代わりでしょうか?」
「は・・・・・・い。」
そこには、僕そっくりのウェイトレスが立っていた。

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2009年11月11日 (水)

「第百七十八話」

「おはよう、奥さん。」
「おはよう、旦那さんって、何なの?このやり取りは?」
「まあまあ、今日は、奥さんと旦那さんとの間柄で行こうじゃないか。」
「結婚してから、ずっとソノ間柄でいたつもりだったけど?」
「そっかぁ。あれからもう5年。僕らも30代半ばの夫婦になったもんだ。」
「ええ、まあ、その通りだけど、何?」
「何って?」
「だから、さっきから何と無く説明口調な感じは、何なのって?」
「何か目に見えない都合上、説明口調で朝を迎えなきゃならない時だってあるんだよ。」
「はあ???」
「朝だね!」
「朝だよ。」
「うわぁ!朝御飯が、テーブルの上に用意されている!」
「されているわよ。」
「パンとスクランブルエッグとサラダ、それにコーヒーだね!」
「何なの?旦那さんは、年末にでも何か演劇やらミュージカルの公演でも控えてるの?」
「いいえ、違います。旦那さんは、ただのサラリーマンです。」
「何で、英語の教科書口調よ!」
「まあまあ、気にせず朝御飯を、いざ!いただこうじゃないか!ささっ、座って座って!奥さん、遠慮せずに!」
「何で、我が宅で、遠慮する必要があるのよ!」
「座ったね!」
「ええ。」
「じゃっ、ちょっとだけ、わたくしこと、旦那さんから、お話が御座います!」
「いつから、そんな面倒臭い人間になった?」
「アレだよね?僕ら夫婦って、いつもいつも、ホント下らない事でケンカしちゃうよね。いただきます!」
「いや、何かもう、何を言っていいんだかさっぱりだわ!何?もう、食べていいわけ?」
「プリーズ!」
「何でニヤニヤしてんの?」
「まあまあ、気にしない気にしない!」
「いや、気にせずにはいられないって!」
「じゃっ、僕は、パンにバターでも塗ろうかな?」
「じゃあ、終わったら貸して。」
「えっ?」
「何?」
「塗るの?」
「塗るよ。」
「パンにバターを?」
「当たり前でしょ。」

第百七十八話
「終わっちゃった!?」

「何、急にわけの分からない事を大声で言うわけ?ビックリするでしょ!」
「がっかりだよ!」
「はい、質問。」
「はい、奥さん君。」
「会議中かココは!あのう?がっかりされる覚えもないし、終わっちゃったの意味もよく分からないんですけど?」
「いやだってさぁ。いただきますの前に、フリがちゃんとあったじゃん。」
「フリ?フリなんてあった?」
「んもう!だから、貴女は、奥さんなんだよ!」
「意味の分からないキレ方しないでよ。」
「いいですか?奥さん、当時をよーく思い出してみて下さい。」
「犯人逮捕目前か!何、いただきますの前?」
「確か僕は、こう言いましたよね?僕ら夫婦って、いつもいつも、ホント下らない事でケンカしちゃうよね。いただきます!と。」
「ああ、言ってたわ!言ってた。わけの分からない事を言ってました。」
「じゃ、何で旦那さんがパンにバターを塗るって言ったら、奥さんもパンにバターを塗っちゃうんだよ!そこはアレだろ!片方がパンにバターを塗る派で、もう一方がパンにバターを塗らない派だろ!そこで一悶着だろ!そんな構図で我が家は成り立ってんだろ!」
「成り立つかっ!ごめん。全部聞いても理解に苦しむ結果になったわ。」
「だからー!下らない事でケンカしちゃう夫婦なんだから、下らない事でケンカしちゃわないと!じゃなきゃストーリーも何もあったもんじゃないじゃないか!ましてや、どんでん返しもへったくれもなきにしもあらずじゃないか!」
「何をそんなに支離滅裂に一生懸命怒ってんの?」
「一生懸命に怒る時は人間、支離滅裂になるもんさ。うん。って、黄昏時に黄昏ている場合じゃなかったわい!何で怒っているのかだって?そんなの奥さんがパンにバターを塗ろうとするからに決まってるだろ!」
「もう、あえてイロイロ突っ込まずに流して結論だけを掻い摘まんで言っちゃいますけど、だったら!旦那さんの方が、進んでパンにバターを塗らない派になればいいじゃない!」
「イヤだーっ!!!」
「うわぁ・・・・・・・・・うわわぁ、子供かよ。ちょっと、引くぐらいな感じだったわよ?ソレ、外では絶対やらないでよ?」
「やらせてなるものかっ!」
「心の中に誰かいるわけ?とにかく、もう食べていい?」
「いいわけないだろ!お前は、何だ!不思議ちゃんか!」
「はあ???」
「パンにバターを塗る塗らないで、ケンカしよーぜ!ケンカしちまおーぜ!っつてんの!なのに、何を厳かに締め括ろうとしてるんだよ!」
「お前だ!不思議ちゃんは!何でケンカしなきゃならないんだ!」
「下らない事でケンカしちゃう夫婦のさ。面白おかしいなケンカをさ。見てもらおうよ。」
「ケンカに面白いとかないだろ!」
「いや、ケンカってさ。してる当事者達は気付いてないけど、一歩引いたとこから見れば、相当、面白おかしいぜい?ケンカって、そんなもんだぜい?」
「どこの誰だよ!」
「ココの旦那さんだーっ!!」
「情緒不安定か!とにかく、旦那さんは、ケンカしたいかもしれないけど、奥さんの方は、まっぴらごめんなの。」
「じゃっ、僕は、パンにバターでも塗ろうかな?」
「いや、奥さんの話、ちゃんと聞いてた?言っとくけど、そんなフリ何回やろうとも、塗るわよ?奥さんは、パンにバターを好きなだけ塗るわよ?」
「土下座しても?」
「ええ、単なる土下座損に終わるわね。」
「土下座損は、イヤだな。土下座はいいとして、損と言う部分に心が傷付き、そしてもう二度と立ち直れなくなるもんな。」
「どんなトラウマの持ち主よ。」
「分かった!パンにバターを塗る塗らない戦争は諦めるよ。」
「いつからそんな、規模が膨れ上がった?」
「戦争は良くないもんな。そう言う大人の身勝手な事情に、パンとバターを巻き込むわけには、いかないもんな!戦争反対!ジャム廃止!」
「新たにジャムまで巻き込まないでよ。まあ、とにかく食べていいのね?」
「御意!」
「いや、御意は、どちらかと言えば、こっち側のセリフだから!」
「いただきます!」
「マイペースもいいとこね。いただきます。」
「ほら、バター。」
「ありがとう。あっ、その砂糖使い終わったら、次貸してね。」
「何だとーっ!!!」
「もういいってばっ!」

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2009年11月 4日 (水)

「第百七十七話」

 今日は、月に一度の贅沢な日。だから僕は、ウキウキしながら、目指すお店へ向かって街を歩いていた。そのお店は、メガネだらけのメガネ屋さんの五軒先にひっそりと佇んでいる。逆から言うなら、そのお店の五軒先に、メガネだらけのメガネ屋さんがちゃっかりと佇んでいる。

第百七十七話
「歯磨き屋」

「ガチャ。」
真っ白なお店の真ん中に、ポツンと一つ椅子がある。何の変哲もない真っ赤な椅子だ。
「いらっしゃい!」
その真っ赤な椅子の横に、白衣を纏った店主が立っている。歯磨きを極めし人間だけが身に纏う事の出来るオーラがそこには、漂っていた。僕は、ゆっくりと真っ白な空間の中、真っ赤な椅子へと歩みを進めた。既に、歯磨きを終えた時の自分の姿を想像しながら、それは爽快感に包まれた清涼感に抱き締められた至福の時間。自然と笑顔を少し通り越した、ちょっと変な顔になっていた。
「どぞ。」
店主の指示に従い、僕は真っ赤な椅子へと座った。相変わらずと言うか何て言うか。このお店に、この真っ赤な椅子が無かったらって考えると、ゾッとする。この真っ赤な椅子を目指して真っ直ぐ歩いて来たからこそ僕は、無傷だけど、おそらく真っ赤な椅子じゃなく真っ白な椅子を目指して店内を歩き回っていたら、真っ白な空間に溶け込んだ真っ白なあらゆる歯磨き道具にぶつかり、今頃僕は、病院のベッドの上で、違う白衣の人を見上げているに違いない。
「今日はどんな感じで?」
真っ白な店主が尋ねた。
「今日は・・・・・・・・・。」
僕は、この日の為に、ある決意をしていた。いつかはしてもらおうと、夢見ていたコース。
「いつものピカピカコースかい?」
違う。いつものピカピカコースでもなければ、その上のピッカピカコースでも、更にその上のピッカピッカコースでもない。僕が今日、注文しようと夢見ていたコースは、毎月限定一名様のコース。当日開店同時先着完全予約制のシステムのこのお店で、数年越しの悲願のコース。月始めの開店一人目だけに与えられる夢の一時。真っ白な料金表の一番上に、真っ赤な線が一本、それが引かれていないって言うこの優越感。それにもう少しだけ浸っていたいって考えたけど、そこを優雅に堪能出来るほど僕は大人じゃない。
「今日は、ピッカンピッカンコースで、お願いします!」
遂に、遂に言ってしまった!王者の言葉。昨日の夜、湯舟に浸かりながら、何度練習しただろう言葉。今朝のトイレの中で、何度練習しただろう言葉。
「あいよ。」
コースの違いは、使う歯磨き道具の数だって、前に店主から聞いた事がある。いったい、どんな歯磨き道具を使って、僕を歯磨きのあっち側へと導いてくれるって言うんだ。
「じゃあまず、ベンジャミン。」
ベンジャミンとは、口の中に入れて爆発させ、一気に口の中を洗浄する小さな球体の事だ。
「ぼふぅ!」
この時、気を付けないといけないのは、ベンジャミンの爆発により大量に噴射される洗浄液が、鼻から出ないように、体を、くねくねさせる事が重要だ。
「よし!じゃあ、口を開けて!」
そう言って店主が手に持っているのは、ポップリンだ。ポップリンとは、主に紫と焦げ茶が存在する。男性には、紫。女性には、焦げ茶。性別によって色分けされているようだ。ポップリンが口の中に投入されて約三分待つ。すると口の中は、歯磨きに適した最高の状態へと仕上がる。
「ピピピ!」
タイマーが店内に鳴り響き、真っ白な椅子に腰掛けて腕組みをしていた店主が立ち上がった。
「ンコ虫!」
ンコ虫とは、虫の形に似ている事から付いた、ンコの種類の一つだ。他にも、ンコ車、ンコストロベリー、逆さンコ、ンコハーフ&ハーフ&ハーフ、渦ンコ、などなど。ンコの種類は豊富で、お店の数だけ、それを扱う匠の数だけ、それを扱われる客の数だけ、存在すると言われている。その数は、数百。或いは、数千、いや数億とまで言われている。
「よし。」
そう言って、店主が僕の口の中へ、ベンジャミンを放り込んだ。僕は、液体が鼻から出ないように、体を、くねくねさせた。
「冷奴。」
ンコで口の中のおおまかな汚れを取り除くと、次に冷奴を舌の上に乗せる。冷奴とは、所謂、ボルメディウセシウメニウムの事だ。だが、歯磨き屋では、ボルメディウセシウメニウムと言うよりも、材質や見た目から、冷奴と呼ぶのが一般的だ。言うまでもなく、ボルメディウセシウメニウムの歴史は古く、地球誕生と共に生まれた鉱石とも囁かれている。
「よし!」
次に店主が手にしたのは、上下の奥歯を磨く道具、ダンシィングハンマーRだ。ハンマーのダンシィングを利用して、一気にしつこい汚れを取り除く道具だ。昨年までは、ダンシィングハンマーが使われていたが、今年に入り、三十年間の沈黙を破り、エンジニアの努力の末、ダンシィング率を飛躍的に進化させた、ダンシィングハンマーRが導入され、業界が騒然となった話題も、今では懐かしい。
「さてと。」
そう言って、店主が僕の口の中へ、ベンジャミンを放り込んだ。僕は、液体が鼻から出ないように、体を、くねくねさせた。
「よし!」
次に店主が手にしたのは、奥歯と前歯以外の歯を磨く為の道具、パ、だ。パ、を使うには、まず、ゼ、を奥歯と前歯以外に貼り付ける。ゼ、を貼り付け、数秒してから、ゆっくりと丁寧に、ダ、を使って剥がしていく。それから上の奥歯と前歯以外には、ササラパパラ、を吹き掛け、下の奥歯と前歯以外には、パパラササラ、を吹き掛ける。ササラパパラ、と、パパラササラ、が乾くか乾かないかの絶妙な匠のタイミングで、パ、を使って磨く。
「よし!」
そしてまた、店主は僕の口の中へ、ベンジャミンを放り込んだ。だから僕は、液体が鼻から出ないように、体を、くねくねさせた。
「前歯!前歯!前歯!」
そう言って店主が前歯ボタンを押して前歯コールを店内に響き渡らせ、ゆっくりと慎重に、僕と自分との距離を計算しながら、前方へと歩いて行った。上下の前歯を磨く為の道具は、匠の匠たる匠と呼ばれる匠の妙技が光、逸品だ。磨き太鼓。音波による歯磨きだ。店主は、数メートル離れた場所から太鼓を叩く、その音の振動により、上下の前歯を磨く技。この妙技を見て体感する為だけに、わざわざ歯磨き屋に足を運ぶ人も少なくはない。
「せいやっ!!」
店主の磨き太鼓の終了の掛け声と共に、真っ白な店内が、より真っ白になるほどの静寂が包み込んだ。
「・・・・・・・・・。」
僕は、息を殺した。そう、ここまでは、僕がいつも注文しているピカピカコースと何ら変わりない。でも、今日は違う。まだまだ、この先、究極の歯磨きへの時間が待ち構えている。店主が、額から流れる汗を吹きながら近付いて来る。いったいこの先、どんな道具を使って、どんな風に歯を磨いてくれるって言うんだ?そして僕は、ピッカンピッカンコースが終了した時、幸福感の中で、いったい何を思うんだろう?
「せいっ!」
目の前で立ち止まった店主は、僕の口の中へ、ベンジャミンを放り込み、次の歯磨きの用意を始めた。それを横目で見ながら僕は、液体が鼻から出ないように、体を、くねくねさせていた。

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2009年10月28日 (水)

「第百七十六話」

「銀行?」
「ええ、銀行へ直接流れるシステムになっているんですよ、これがね。」
そう言うと紹介所の男は、無機質に微笑んだ。
「システム?」
僕は、その斬新過ぎる程のシステムってヤツが、無性に気になった。
「両目に、簡単な手術を施すだけなんですよ、これがね。」
「手術!?」
簡単な手術だなんて、これまた随分と簡単に言ってくれるよ。
「この、超小型の謎のハイテクを埋め込むだけの、超簡単な手術なんですよ、これがね。」
そう言いながら出した紹介所の男の手のひらの上には、もう片方の手に持つ虫眼鏡がなければ小さ過ぎて見えない程の謎のハイテクらしき物があった。まあ、おそらく紹介所の男も、ハイテクについては、詳細を知らされてないんだろう。或いは知らされてたとしても、理解してないんだろう。
「保険は?」
「対象外なんですよ、これがね。」
「対象外!?仮に失敗したら、どうなるんです?」
「失明は、免れないでしょうね。」
「そんなにリスクが高いんですか?」
「そんなにリスクが高いもんなんですよ、これがね。」
やめよう。両目を犠牲にしてまで、お金が欲しい訳でもないし、僕はもっと、軽い感覚で、クラブ活動なノリで済むような事だって、甘く考えてた。うん、やめよう。そうしよう。
「ですが!」
そう固く心に誓った矢先、紹介所の男がグッと顔を近付けて来た。かなりビックリした僕は、思わず仰け反った。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
そして、よく分からない沈黙の時間が続いた。しかもよく見ると男の両目には、手術の痕がうっすらと確認出来た。
「で、ですが、何ですか?」
沈黙の時間に耐え切れなくなった僕が口を開くと、紹介所の男は、元の位置へと体を戻し、また無機質に微笑んだ。
「0%!なんですよ、これがね。」
「何が0%なんです?」
「手術の失敗する確率がなんですよ、これがね。」
鵜呑みにしろと?紹介所の人間が口にする逆に100%の成功率を誇る両目への謎のハイテク移植手術を鵜呑みにしろと?
「でもまあ、無理にオススメしません。ただ、このリストをご覧下さい。」
そう言って紹介所の男は、一枚の用紙を手渡して来た。
「こ、これは!?」
「ええ、手術を受けて巨万の富を得た人々なんですよ、これがね。」
そこには、名の知れた億万長者達の名前が、ズラリと載っていた。
「本当なんですか?」
「なら逆にお聞きしちゃいますが、貴方は巨万の富を得た彼等のアレを、ご覧になった事がありますか?無いんじゃないですか?」
確かに紹介所の男が言うように、僕は彼等のソレを、見た事がない。
「確かに見た事が無いですけど、それって単にタイミングとかって話になってくるんじゃないんですか?」
「単にタイミングとかって話になってこないんですよ、これがね。ほら、これご覧になっちゃって下さいよ。」
紹介所の男が次に手渡して来たのは、アルバムだった。中には、億万長者達の一連の謎のハイテク移植手術中の写真だった。
「ねっ?」
「・・・・・・・・・。」
「どうしました?ちょこっと写真が、グロ過ぎちゃいましたか?」
確かに写真は、グロくて、少し気分が悪くなった。でも僕は、考えたんだ。根本的な疑問を・・・・・・。
「なぜです?」
「なぜ?」
「だってそうでしょ?手術成功率100%!誰もが億万長者!ノーリスク!ハイリターン!こんなウマイ話があるなら、この国の人間全てが、いや、世界中の人間全てが億万長者だ!」
「いや、全てがそうなってしまうと銀行も機能しなくなってしまうんですけどね。」
まあ、そりゃそうだ。
「でも、貴方が言いたい事は、分かりますよ。どうして、こんなウマイ話が、こんな堂々と転がっているのに、多くの人々がそこに飛び付かないのか?って、とこですか?」
「はい。だいたい、そんなとこです。」
僕の答えを聞くと、紹介所の男は、得意の無機質な微笑みを見せた。
「答えは、簡単な事なんですよ、これがね。」
「簡単?」
「貴方が思っている以上の需要があり、それに対して、貴方が思っている以上の供給が無いだけなんですよ、これがね。」
「どう言う意味です?」
「つまり、大事なんですよ、これがね。」
「大事?」
「大切なんですよ、これがね。」
「大切?アレが?そんなまさか!?」
「そんなまさかは、ここに足を運んで来たマイノリティな貴方や紹介所の私の方なんですよ、これがね。」
「億万長者ですよ?」
「ええ。」
「涙と引き換えに、億万長者になれるんですよ?」
「それでも10割近くの人間が、涙を選ぶのが現実なんですよ、これがね。」
「それでも、アナタは!」
「もちろん私も、涙が出なくなって、後悔している人間の一人なんですよ、これがね。」
そう言って紹介所の男は、無機質に微笑んだ。

第百七十六話
「ナミダ買イマス」

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2009年10月21日 (水)

「第百七十五話」

 海中を散歩してると、いろんな生物達と出会う事が出来る。これは、かなり素敵な事で、だいぶ無敵な事だ。オッサン、色とりどりな小魚達、クラゲ、イルカ、サメ、クジラ、えっ?オッサン?
「って、何でオッサン!?何でオッサンがいる!?」
「それはねぇ、キミ。いるからいるんだよ。」
「ごもっともだけど!ごもっともなんですけども!違う!海、パジャマ姿のオッサン、違う!」
「何だキミ、急にカタコトになって、外国人観光客気取りか!」
「いや、地元で海のガイドをやってる者です。」
「こんな朝早くから、いったい誰をガイドしていると言うんだね?見たところキミ、一人ぼっちじゃないか!」
「淋しっ!何か淋しいその比喩表現!」
「比喩表現なんてしてないよ。」
「いや、朝早くの誰もいない海をガイドの下見がてらに、海中散歩ですよ。」
「なっ?」
「なっ?って、何が、なっ?」
「キミは、さっき、パジャマ姿のオッサンが、違うとか何だとか、若気の至り的ないちゃもん的なもんをつけて来たが、朝早いんだ!パジャマ姿、違う、違うだろ!」
「ああ、時間帯と服装面の話じゃなくって、場所柄と生息地の兼ね合いです。」
「はあ?????何を言っているんだ、キミは?」
「だから、オッサンが海中で、何の装備も無しにいる事が、違うんだってば!オッサンの生息地は、陸地だろって!」
「おい!ちゃんと装備しているだろ!」
「パジャマじゃん!何でパジャマだけで、結構深いとこ楽勝状態なんだよ!何でパジャマだけで、こうして普通に会話が出来ちゃうんだよって!」
「・・・・・・・・・知らん。」
「ままま、まあね。出来ちゃうんだから、しょうがないよね。出来ちゃう事、わざわざ難しく解明しようなんてしないよね。ってか、オッサンは、こんなとこで何してんの?」
「何を言い出すのかと思ったらキミ、ここで何してるかだって?暮らしているに決まっているだろ。」
「違う、オッサン、海の中で、暮らさない!」
「その時折、外国人観光客に成り済ますのは、何だ?巷で流行っているのか?」
「別に流行ってないですけどね。いやいやいや、暮らしちゃダメでしょ!」
「何で暮らしてはいけないんだ!そんなもん、キミが海中暮らし出来ないから、私を妬んでの意見だろ!」
「妬むかー!!オッサンが海中で暮らしてるんだとしたら、オレは生態系を気にしてるんだー!!」
「ほっほー!腐ってもダイバーか。」
「どの辺りでオレは、腐った?」
「生態系が崩れる事を心配しているのなら、安心しなさい。私は、たま~に海面に浮かび上がり、太陽の光を全身に浴びてさえいれば、生きていける!キミが心配するような、魚を補食など断固としてない!」
「・・・・・・・・・何者?」
「何だと?」
「すいません。オレ、今までオッサンが、オレと同じ人間だと思って、人間のオッサンだと思って、会話してました。」
「あそう。」
「何なの?オッサンは、植物なの?海藻の類なの?」
「相変わらず何を言っているんだね、キミって奴は!喋る植物なんて聞いた事もないだろ。私が植物だったらキミ、大発見もいいとこだ。仮に私が植物なら、とっくの昔に私は私を自ら研究して論文を発表して何か大きな賞をいただいているよ。」
「なるほどね。えっ?ちょっ、オッサンまさか!?幽霊じゃないよね!」
「バカも休み休みにしておきたまえよ、キミ。いいかい?それは逆に、キミにも同じ事が言えるんだぞ?私からしてみれば、キミだって幽霊かもしれないって話ではないか。でも我々は、幽霊ではない。そう、幽霊ではないんだよ。それはもう、出会った時からの暗黙の了解の上で成り立っていた今までの会話ではないのか?ん?」
「ごもっともです。非常にごもっともなんです。なんですけどね。やっぱり海を知り尽くした者の立場から言わせてもらうと、幽霊であって欲しい!てか、事を幽霊で片付けたい!」
「私はさ。キミのやっている仕事を侮辱するつもりなどないよ?きっと、立派な心掛けで、誇りを持ってダイバーをしているんだろうと思う。海と真っ直ぐに向き合っているんだろうと思う。だがね。キミが海を!いったいどれほど知り尽くしていると言うんだ!!私を見て驚いているキミが!易々と海を知り尽くしたなどと!口にするな!!」
「ええーっ!?そうなの?オレなの?オレの反応の方が責められちゃうの?」
「当たり前だ!これからまだまだ、海を学び、海に学び、海と学び、成長し続けなければならない若者が!ここで知り尽くしてどうする!海は、キミが思っているよりも遥かに広いし大きいし、しょっぱい!!」
「・・・・・・あのう、何かすいませんでした。いや、よく分からないけど、ごめんなさいでした。」
「まあ、今は私が言った言葉の意味が分からないかもしれないが、キミならきっと、分かる日が来る!それは、私が保証する!」
「・・・・・・ああ、はあ、ども、ありがとうございます。で?実際のとこ、オッサンは何なの?」
「クジラだ。」
「クジラ!?そんな馬鹿な!?」
「やれやれ、気付かなかったのか?」
「いや、気付きようもなかったです。」
「まったく、言わんこっちゃないなだな、キミは!よ~く、その目で見てみなさい。」
「何をです?」
「ほら、歯に!」
「歯に?」
「毛が生えているだろ?」
「ホ、ホントだ!?」

第百七十五話
「新種発見!!」

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2009年10月14日 (水)

「第百七十四話」

 おそらく地球最期の日を眺めながらアタシは、泣いた・・・・・・・・・。
「すぅ~・・・・・・ふぅ~。」
そして、アタシは涙を拭き大きく深く呼吸をして、空を見上げながら、今日一日を思い出しながら・・・・・・・・・。そう、最初に紐を引っ張ったのは、目が覚めてから数秒後だった。天井から垂れ下がった紐を見付けて、アタシがベッドから上半身を起こして、その紐を引っ張ったら、金盥が頭に落ちて来た。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
まずは、夢だって疑ってみた。だから、アタシはもう一度、紐を引っ張ってみた。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
もう一度
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
もう一度
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
もう一度
「ガーン!!」
「夢じゃなーいっ!!」
夢じゃなかった。でも、天井はいつもの天井で、ただいつもと違うのは、謎の紐が垂れ下がってて、それを引っ張ると、金盥が落ちて来るって更なる謎なとこ。金盥が、どこから落ちて来て、どうして頭に直撃した直後に消滅しちゃうのかなんて、難しい事は考えなかった。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
だって、バスルームの紐を引っ張っても
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
キッチンの紐を引っ張っても
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
トイレの紐を引っ張っても
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
そうなんだもん。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
そうなんだもの。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
家の至るところにある紐を引っ張ると金盥。
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
この構図が既にアタシの周辺で出来上がってるなら
「ガーン!!」
「いったーいっ!!」
それが現実なら、受け入れるしかないじゃん。そこからでしょ?謎を謎のまま追い求めるのと、謎を現実だって受け入れて追い求めるのとじゃ、辿り着く結果は全然違う。それはもう、恋愛と一緒!まあ、とにかく金盥が落ちて来る中、何とか仕事へ行く準備をしたアタシは
「ガーン!!」
「もうっ!!」
とりあえず玄関の紐を引っ張って、マンションの部屋を出たわけ。
「ガーン!!」
「やっぱり。」
で、エレベーターを待ってる時も
「ガーン!!」
「まあね。」
で、エレベーターの中でも当然、金盥。エレベーターを出て、管理人室の前を通った時に、管理人さんにマンション事態のこれからの方針なのか聞こうとしたけど、そんなわけないってのが、ちゃんと分かってたから、やめた。だいたいこんな事、誰かに話しても信じてもらえるはずがないしね。まあ、謎に巻き込まれた人特有の悲しい宿命ってやつ?そう、これは一人ぼっちの戦い。だってたぶん、紐からして、どうせアタシにしか見えてないんだろうしね。
「ガーン!!」
「はいはい。」
最後にマンションの出入口にある紐を引っ張って、アタシは駐車場へ向かった。車に乗り込んだアタシは、マンションでの出来事なんて、ほんの序章にしか過ぎなかったんだって思い知らされた。
「どう言う事!?あれは、マンションだけの話じゃなかったってわけ!?」
助手席の天井から垂れ下がってる紐を見てアタシは、思わず驚愕的な言葉を発した。でも、ここでアタシは思った。
「この距離で金盥?」
って、だって天井とアタシの頭との空間なんて、ほとんど無いに等しいわけだし、何なら頑張ればその空間すら埋める事が可能なわけだし、何?何が落ちて来るの?やっぱり金盥なわけ?アタシは、紐に手を伸ばし、引っ張った。
「ザバー!!」
「ちょおっとーっ!!」
水だった。
「ザバー!!」
「つめたーいっ!!」
しかも、冷水。
「ザバー!!」
「つめたーいっ!!」
冷水。
「ザバー!!」
「つめたーいっ!!」
何度やっても
「ザバー!!」
「つめたーいっ!!」
冷水。
「ザバー!!」
「つめ・・・あっつーいっ!!」
でもたまに、熱湯
「ザバー!!」
「何なのこれ?何かのバツゲームなわけ?」
でも、バツゲームを受けるような負け方、アタシには身に覚えがなかった。もちろん冷水や熱湯も、落ちた直後に消滅した。とにかくアタシは、車を走らせて駐車場を後にした。でもこの時、アタシはまだこの先に待ち受ける本当の恐怖を知るわけもなかった。そう、それはアタシの住むマンションから少し行った信号で、停車した時だった。バックミラーに映るマンションを見ながら、金盥づくしだったさっきの事を思い出しつつ、アタシは助手席の紐を引っ張った。
「ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!」
「えっ!?」
轟音と共にバックミラーに映るマンションが、みるみる倒壊してった。
「どうなってるの!?水じゃないの!?何!?何が起きたわけ!?」
震える手で、アタシがもう一度、紐を引っ張ると
「ズドォォォォォォォン!!」
今度は、後のバスに隕石が落ちて来た。隕石!そう、金盥と冷水熱湯の次は、隕石が落ちて来た!でもやっぱり隕石は、直撃の直後に消滅した。
「うそ・・・でしょ・・・?」
何回?いやもう、覚えてなかった。信号待ちの最中に、紐を引っ張った回数なんて・・・。何で水が落ちて来ないんだろうって、引っ張った紐の回数なんて・・・。カーラジオから流れて来る臨時ニュースは、世界中からの見えない謎の物体直撃のニュースだった。もう、アタシがターゲットなわけじゃない!もしかしたら、それ以前からアタシがターゲットだったわけじゃないのかもしれない。
「何がどうなってるのよ!!」
混乱して怖くなって、アタシは一心不乱に車を走らせた。どこへなんて分からない。頭の中は、どこかへだった。
「何で!!」
とにかく無我夢中で
「何でなの!!」
現実逃避で車を走らせた。
「何で引っ張っちゃうのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
それでもアタシは、紐を引っ張る事をやめなかった。違う!頭の中では、分かってても、やめる事が出来なかった。
「ここは?」
気付くとアタシは、いつの間にか、どこかの峠に来てた。アタシは車から降りて、夕陽に照らされてるまるで地球最期の日のような光景を見下ろしてた。
「ペチ、ペチ。」
「えっ!?」
そしてアタシは、風に揺られて肩にぶつかる空から垂れ下がってる紐を見付けた。もう、アタシの意思なんて存在しない。当たり前のように紐を掴むアタシの手。
「どう・・・・・・なっちゃうわけ?」
震える声でいったい、誰に答えを求めてるんだろう?きっと、おそらく地球最期の日を眺めながらアタシは、泣いた。どれぐらい泣いたんだろう?
「すぅ~・・・・・・ふぅ~。」
そして、アタシは涙を拭き大きく深く呼吸をして、空を見上げながら、今日一日を思い出しながら・・・・・・・・・紐を引っ張った。

第百七十四話
「垂れ下がってる紐を引っ張らないというストレス」

「・・・・・・・・・えっ!?」
ゆっくりと瞼を開けたアタシの目に映ったのは、天井だった。
「夢?」
いつもの朝
「夢だったの?」
いつもの部屋
「まったく・・・・・・・・・。」
紐の垂れ下がってない天井
「良かったぁ・・・・・・ん?」
安堵感に包まれたアタシの目に飛び込んで来たのは
「ピアノ?」
ピアノだった。
「何で?」
昨日の夜まで存在しなかったのにって答えを頭の中で導き出すよりも先にアタシは、ピアノへ近付いてって、人差し指を鍵盤の上に置いて
「ドー!!」
弾いた。

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2009年10月 7日 (水)

「第百七十三話」

「ブーン!」
って、ハチが
「チクッ!」
って、ハチが
「イテッ!」
って、ボクが
「ブーン!」
って、ハチが
「バチン!」
って、ボクが
「ポトリ。」
って、ハチが
「プクッ!」
って、ハナが

第百七十三話
「ハチとボクとカミサマ」

 これはまだ、ボクが散歩を初めて三歩目の出来事だった。突然現れたハチが、ロックンロールな羽音で迫って来たかと思ったら、ボクの鼻先にロッケンロールな針をヒョッケンロールな勢いで突き刺した。当然の如く痛がり、驚いたボクだったが、そこはすかさず飛び立ったハチを両手で叩き殺そうとしたんだけど、クリーンヒットせず、何とか指先が軽く頭に触れたぐらいで、ハチはと言うと、脳震盪を起こした感じで、地面にユラユラユラリと落ちた。激痛走るぷっくり腫れた鼻先を触りながら、ボクは、にっくきハチを完膚なきまでに踏み潰そうと、両足で地面を蹴り上げてジャンプした。
「はい?」
その瞬間、なぜか時間が止まったらしく、ボクは空中に静止した。
「これこれ、何をするつもりじゃ。」
ここでボクの目の前にカミサマが現れた。それは、あまりにも、所謂、カミサマな出で立ちで、老人で長い白髭と白髪で、グルグル大きな渦巻いた長い杖で、白い衣を身にまとってた。
「まさか、そのままハチを踏み潰すつもりじゃなかろうな?」
いや、だいたいそのまさかだから時間まで止めて、わざわざボクの目の前に現れたんでしょ?てか、助けたいなら、さっさとハチをどけて、時間を動かせばいいじゃん!えっ?それとも?
「まさかの説教ですか?」
「そうじゃよ。」
でたー!でましたー!でちゃいましたー!説教!マニュアル通りなこの展開がご存知、面倒臭い!
「ちょっと待って下さい。お爺さん。」
「カミサマだ!」
「どうしてボクなんです?何でボクに説教なんです?お爺さん。」
「カミサマだ!何故かじゃと?それは、お主がハチを殺そうとしたからに決まっておろう。たわけ者!」
拙者が?拙者が、たわけ者?お前だよ!たわけ者は!時代錯誤な出で立ちのお前の方が、だろって!いつまでもそのイメージでカミサマが罷り通ると思うなよ!
「なら、ハチは?ハチには説教しないんですか?ハチの方が最初に攻撃して来たのに、説教なしですか?それは、弱いからですか?それは、小さいからですか?人間よりも。」
「よく分かっとるじゃないか。その通りじゃ。」
どの通りじゃ!これだからカミサマは嫌だよ。イヤイヤ!本当いや!人間にしか説教しない。人間だけにしか説教出来ない。殺人ウイルスとか地球温暖化とかは、まるでほったらかし、地震やら津波なんかは、完全無視。それはまあ、人間が造り出した人間の為のカミサマですから?人間が、今現在不可能な事は、カミサマにも不可能な事なのかもしれませんけど?きっと、今のボクが置かれた状況も、ボクが見ている白昼夢に違いない。おそらく本当のボクは、激痛走るぷっくり腫れた鼻先を触りながら、突っ立って気を失って、この面倒臭いまやかしを見てるんだよ。ボクがボクに見せてる虚像ってヤツ?生物を殺してはならないと言う良心が生み出した幻って言ったら、格好よい?
「ちょっと!」
「何じゃ?」
「だったら、ボクが両手でハチを叩き潰そうとした時に出て来て下さいよ!」
「それが、ハチへのバチじゃ。」
「無意味にボクを攻撃した事への罰ですか。」
「そうじゃ。」
はあ???なら、ボクに叩き潰されそうになった時も今と同じように、時間を止めてハチに説教して、脳震盪を起こす程度の場所に移動させたって?そう言う事なの?そんなの言ったもん勝ちみたいなとこあんじゃんか!てか、そのいちいち罪とか罰とかって発想が、面倒臭いな!なら、ハチがボクを攻撃する前に、やめさせればいいじゃん!攻撃を!事が終わってからわざわざ登場して来て、説教って、それってただの面倒臭いジイさんじゃん!自己顕示欲のド塊じゃん!ぜんっぜん!平和じゃないじゃん!後から出て来て、あーだこーだって、カミサマ的には役立たずも甚だしいじゃんかよ!!って、イライラするだけボクが疲れるだけだ。やめよ。やめます。
「・・・・・・説教、お願いします。」
「うむ。」
何が、うむ、だよ!バーカ!
「いいか?命と言うモノはのぅ。」
尊いかな?
「尊いモノなんじゃ。」
何の捻りもない。じゃあ、次は儚いかな?
「儚いモノなんじゃ。」
ああ、このクイズ番組、すぐに最高金額獲得可能だよ。だから、殺めるなんて愚かな行為をするんじゃない、かな?
「だから、殺めるなんて愚かな行為をしてはいかんのじゃ。」
だったら、サバンナの!ジャングルの!大海原の!食うか食われるかの弱肉強食!あれ全部やめさせろ!ならお前、飲食なしで永遠に生きられる身体システムにしとけよ!てか、あれだね。もう、面倒臭いね。やたらと、面倒臭いね。やめるって決意したのにね。いけないいけない。
「カミサマ!」
「何じゃ?」
「フィクションの世界でしか生きられない想像の救世主!カミサマ!」
「ワシが実在しとらん。そう言いたいのか?」
「そう言いたいんだ!」
「そう言いたかったのか!」
「当たり前だ!」
「カミサマじゃぞ!」
「だから何だ!」
「偉いんじゃぞ!」
「早く消えろ!」
「うるさい!」
「お前の方がうるさい!」
「バチが当たるぞ!」
「やれるもんならやってみろ!」
「知らんぞ!」
「お前は知っとけ!」
「赤鼻ー!」
「赤鼻だー!」
「触るぞ!」
「触るな!」
「デカ鼻ー!」
「うるさい!早く病院行きたいから、さっさとバチ当てろ!」
「コンニャロー!!!」

「ゴツン!」
って、ゲンコツが・・・・・・・・・。

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2009年9月30日 (水)

「第百七十二話」

 僕も暇だったし、彼もまた暇だったから、出会ったばかりの僕らは、沼の近くの横たわった大木の上に腰掛けて、少しだけ話をする事にした。
「現実に存在するとは、思いませんでした。」
「カパパパパ!」
僕がそう言うと、河童は笑ってた。
「そんなもんさ。」
えっ!?って、思ったけど、まあ、別に河童がタバコを吸わないなんて一度も聞いた事ないし、何と無くこの方が妙に現実的だなって、妙に納得した。
「吸うかい?」
「タバコは、吸わないんで、大丈夫です。」
「なら、消した方がいいかな?」
「いえ、吸ってて構いませんよ。ありがとうございます。」
僕は本当は、愛煙家だ。でもこの場合、妙に緑で、煙まで妙に緑な何だかとても妙にキュウリっぽいタバコを吸いたくなかっただけだった。
「人間がこんな森の奥深くの沼まで来るなんて、いったいどんな事情なんだ?」
「・・・・・・・・・。」
こんな機会、滅多にないだろうから、頭の上の皿を触ってみたいけど、触ったら怒られるかな?
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
割ったら死ぬのかな?
「・・・・・・・・・まあ、言いたくないなら、別に深くは追求しないさ。」
「えっ!?ああ、何で僕がこんな所に来たかですよね?自殺です。」
「自殺!?」
ジュッ!って、河童が持ってるタバコを取り上げて、お皿にジュッ!ってしたら、激怒かな?死ぬかな?死んでしまうのかな?
「疲れちゃったんです。僕を取り巻く何もかもに・・・・・・・・・。」
「そうかい。」
あっ!!そうか!そうだったのか!河童がキュウリを好きだって解釈、間違ってたんだよ!
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
河童は、手にヒレがあるから、人間みたいに指の間に挟んでタバコを吸うって事が出来ないんだよ!だから、ああしてタバコを握って吸ってるんだよ!それがあたかもキュウリを食べてるかのように見えたんだよ!初めて見た人の勘違いだったんだよ!いや、でも待てよ?その光景を見てキュウリが好きだって思うには、あのあまりにもモクモクと立ち上る妙に緑色の煙りは、無視出来ないぞ?
「でも、やめました。自殺するの。」
「ん?」
ならやっぱり、キュウリが好きなのかな?聞いてみようかな?キュウリは大好物なんですか?って、聞いた方が早いよな?でも、怒られたらどうしよう。カパパー!!って、怒られたらどうしよう。カパパパパー!!って、怒られちゃったらどうしよう。
「何か、自殺したって、何かが解決される訳じゃないし、死んだって死ななくたって、どうせ何も変わらずいつもと同じなら、生きてて何かをまた一からやり直してもいいかなって、ただ単に生きてるってだけでも、それはそれでいいかなって。」
「ああ、そうだな。」
「それに・・・・・・・・・。」
「ん?」
・・・・・・・・・・・・・・・よし!
「大好物のキュウリをお腹一杯食べるって言う、幼い頃の夢もまだ叶ってませんしね。」
どう?どうなわけ?本当のとこ、どうなわけよ?
「なるほどな。」
だけ?それだけ?だったら俺の家に来いよ的な、キュウリなら腹一杯食わしてやるよ的な、丁度、今朝、俺が丹精込めて育てた上等なキュウリを収穫したとこなんだよ的な、お前ツイてるな的な、うまいぞ?家の嫁のキュウリづくし料理は的な、何なら今日は家に泊まってくか?的な、水中だから無理か!カパパパパ!的な、そんな答えを期待してたのに、まあでも、そんな僕自身があんまりキュウリを好きでもないから、それはそれで困るか。
「生きてれば、そのうち良い事だってあるさ。まあ、在り来たりな言葉だけどな。カパパパパ!」
「キュウリ、お腹一杯食べれるとか?」
「かもな?カパパパパパパパパ!!」
好きじゃないにせよ嫌いじゃないにせよ。大好物じゃないんだって事は、これでよーく分かった。なら、定説が一つ崩されたんならだよ?ありかな?
「ん?どうしたんだ?急に立ち上がったりして?」
イケるかな?
「もう、帰るのか?」
かかと落とし、イケるかな?
「ん?どうしたんだ?俺の頭に何か付いてるのか?」
「・・・・・・・・・。」
やるなら今だ!今しかない!河童が油断してる今しか!
「・・・・・・・・・。」
「おい?大丈夫か?気分でも悪くなったか?」
「・・・・・・・・・。」
ダメだ!僕には、かかとを落とす事が出来ない!僕の身勝手な好奇心で、お皿を割って本当に河童が死んじゃったら、この思った以上に優しい河童が死んじゃったらって考えたら、無理だ!
「いえ、ちょっと深呼吸をしようと思って、スー、ハー!うん!これぞ生きてるって実感です!」
「だな!カパパパパ!」
「よっこいしょっと。」
「人間、お前なかなか面白いな!カパパパパ!」
いや、河童。貴方の方がよっぽどだよ。よっぽど面白いよ。いや、面白過ぎるよ!でもたぶんこれって、初めて会ったってのもあるし、この何とも言えない幻想的な風景も手伝っての事もあるんだろうし、仮にもし、都会のど真ん中で河童に出会ったら、イラっと来るかもしれないな。いや、確実にイラっ!だな。
「人間!」
「はい?」
あれ?そう言えば?
「生きるってのは、難しいな。」
「ええ、とても。」
あんまり臭くない。てか、全く臭くない。
「でも、生きるってのは、楽しいな。」
「はい、とても。」
何かもっと河童って、生臭さ満載なのかと思ってたけど、川魚的な感じだと思ってたけど、無臭だ!
「だってよ。もし、生きてなきゃ、こうして俺とお前が話をするなんて、なかったんだからな。」
「そうですね。」
甲羅?甲羅がもしかして?超脱臭?超脱臭素材なの?そんな素材で出来てるの?だったら大発見だよ?これって、悪臭界に大革命だよ?
「生きるってのは、何が起こるか分からないもんだ。良い事も、悪い事も、な。」
「はい。」
聞く?聞いちゃう?本当は、凄く臭いんですか?って、物凄く臭いんですか?って、鼻がポロッと取れちゃうくらいですか?って、聞いちゃう?
「だから、面白い!」
「ですね。」
いや、無理だな。普通の人間に対しても聞けないもんな。河童になんて、とてもじゃないけど、無理だよな。きっと無臭なんだよ。そだよ!河童は元来、無臭なんだよ!河童が悪臭だって文献、読んだ事ないし、こればっかりは、僕の単独な思い込みだったんだよ!
「・・・・・・・・・。」
「ん?どうした?」
それにもう、河童があーだとか、こーだとか、何もかもどうだっていいや!僕が居て、横に河童が居て、僕らは会話をしてる。そこに何か余計な詮索なんて必要ない。必要ないんだよ。今を満喫すべきなんだ!
「楽しいですね!」
「ああ、楽しいな!」
「カパパパパ!」
「アハハハハ!」
河童が笑って、僕が笑って、僕が笑って、河童が笑って、笑って笑って、楽しくって、おかしくって、気付けば数時間も経ってた。
「カパパパパ!」
「アハハハハ!」
でも、それでいいじゃん!!
「あのう?」
「ん?もう行くのか?」
「はい。」
「そうか。」
「凄く楽しかったです!ありがとうございました!」
「俺もこんなに笑ったのは、久し振りだ!ありがとう!」
「じゃあ、僕は行きます。」
「気を付けてな。」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
僕は、河童に見送られ、来た道を戻り、気付けば見慣れた街並みの特別な日を彩る為のイルミネーションの風景を見ながら、人混みの日常の中、信号が変わるのをボーッと待ってた。

第百七十二話
「ところで河童って、卵で産まれてくんの?」

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2009年9月23日 (水)

「第百七十一話」

「遂に!遂にやったぞーっ!!!」
早朝、隣の部屋に住むマッドな博士が、今日もまた、大声で歓喜の雄叫びを上げていた。

第百七十一話
「隣人注意報」

「やれやれ。」
僕は、力無く呟き、虚ろな目で測定器に目をやると、画面には、赤く0%と表示されていた。
「いったい何がそんなに、遂にやったんだか。」
このマンションの角部屋に入居して1年が経つけど、隣人に会ったのは、数回ほどだった。博士な出で立ちの老人。それが僕の隣人だ。
「わしの勝利じゃーっ!!!」
「・・・・・・・・・。」
実際、本当に博士なのかもマッドなのかも何を研究してるのかも何を発明してるのかも、何もかも何一つ知らない。本当は、ただ単に普通のスポーツ観戦好きの賭け事好きの老人なのかもしれない。分かっている事は、僕の部屋に取り付けてある、隣人注意測定器の数字がいつも0%を示しているって事だけだ。つまりそれは、マッドな博士な隣人が僕に危害を加える確率が0%って事だ。初めは不安で、もしかしたらと思ってメーカーの人に何度か測定器を見に来てもらったけど、測定器は正常に稼働していて、故障なんてしていないって答えがいつも返ってくるだけだった。
「・・・・・・おめでとうございます。」
目をつぶりながら僕は、マッドな博士にお祝いのメッセージを贈った。もちろん、マッドな博士の事は気になった。いったい、いつもいつも、部屋で何をしているんだろう?いったい、どんな人生を歩んで来た人なんだろう?家族構成は?友人関係は?収入源は?って、本心では気になって気になって、しょうがなかった。でも、気にしてもしょうがない。だって、僕がマッドな博士の部屋を訪ねて行く事なんて、100%有り得ないからだ。別にそれは、マッドな博士に限った事じゃない。隣に誰が住んでようと、僕は隣人と関わる気なんてまったくないからだ。どうせ仲良くしたって、どうせ親しくなったって、結局最後には下らないトラブルに巻き込まれるのオチだ。なら、初めから関わらないのが賢明な判断ってもんだ。
「・・・・・・寝るか。」
午前5時を刻む時計を虚ろな目で見ながら僕は、再び夢の世界へと旅立つ事にした。

第百七十一話
「隣人注意報」

「遂に!遂にやったぞーっ!!!」
この1年間、日々、研究と発明を積み重ね、明け暮れて繰り返し、やっと、やっと遂に今日!今日この時!待ちわびていたこの瞬間を迎える事が出来た!
「わしの勝利じゃーっ!!!」
鉄壁のカラクリ要塞と化した部屋を見渡しワシは、堂々と勇ましく勝利宣言をした。
「さあ、来るならいつもでも来てみぃ・・・・・・・・・。」
そして、1年間ずっと100%を叩き出している角部屋側の測定器を睨み付けながらワシは、呟いた。

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